共感と同調:ケアラーの心理的負担と理想的な対応

共感と同調:ケアラーの心理的負担と理想的な対応

辛い状況にある相手から同調を求められて拒否できる人は少ないでしょう。それがパートナーなら尚更です。
しかし一緒に生活する中で、常に同調し続けることはケアラーのメンタルを疲弊させます。
ケアラーが取るべき態度は、同調でしょうか、否定でしょうか、共感でしょうか。
ずっと一緒にいるからこそ、無条件の同調ではなくお互いの意思を尊重し合える共感を目指すことをお勧めします。

目次

  1. 共感と同調はどう違う?
    1. 共感とは
    2. 同調とは
  2. 同調したくないけどしてしまう/せざるを得ない理由とは
    1. 自分の意見が不確かなとき
    2. 自分に自信がない
    3. 相手がネガティブになるのを回避したい
  3. 同調しすぎは自分の意思と自信を殺す
    1. 同調は使い方が大事
    2. 同調することが辛いのは、自分の意思があるから
    3. 自信を守りながら相手を尊重する
  4. 共感できると、自分も相手も尊重出来る
    1. 共感のポイントは「あたかも」
    2. 自分の意思があるからこそ共感できる
    3. 相手になったつもりで問題を見ることで、かける言葉が見つかる
  5. ケアラーにとっての共感とは何か
    1. 共感性疲労とは
    2. 気持ちだけでなく知識も必要
    3. カサンドラ症候群に注意
  6. 今すぐ出来る共感トレーニング
    1. 聞き役に徹する
    2. 非言語情報を活用する
    3. 相手の訴えに「?」があれば素直に伝える
  7. まとめ

共感と同調はどう違う?

共感とは

共感とは「あたかもその人になったつもりで」その人が感じていることを自分の中に再現することです。

共感(きょうかん)、エンパシー(empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す。もしくはその感情のこと。例えば友人がつらい表情をしている時、相手が「つらい思いをしているのだ」ということが分かるだけでなく、自分もつらい感情を持つのがこれである。

wikipedia

人はそれぞれに思考や感情があります。家族やパートナー、友人であっても異なります。誰か他人が感じている感情を、自分の感じ方を別にして相手のそれを自分のことのように感じる、という作業は簡単ではありません。

例えば「甘いケーキ」があったとします。
友人はそれを「とても美味しい」と喜びますが、自分は甘いものがあまり好きではないので友人ほど美味しいと感じることはありません。
しかしこの時に友人に共感するとしたら、「甘いものが好きな人が甘いものを食べたら、それはきっととても美味しく感じて幸せな気分になっているのだろう」と想像し、その「幸せな気分」を共有することが「共感」です。

同調とは

同調とは、相手と同じような行動や態度をとることです。その場の空気は穏やかになりますが、自分の意見は存在しません。

同調とは、一般的には他人の意見や行動に合わせることを指します。同調は社会的影響を受けるだけでなく、時には個人の判断や行動を変えることがあります。ただし、同調は常にポジティブなものではなく、集団の中での適切な行動や意見の受容に役立つ一方で、集団の規範や期待に合わせることで自己の主観的な判断を犠牲にすることもあります。

相手を理解する、というより、意見や話の流れに合わせる、という意味合いが強いです。
自分自身の意見や感情は一旦脇へ置いておいて、相手が・周囲がどう考えているか、を主軸に判断する、という点においては共感と似ていますが、相手の感情を自分の中に再現する、というほどの踏み込み方はしません。

上記のケーキの例を使うと、自分はそれほどケーキを美味しいと思っていなくても、美味しいと言っている友人の気分に水をささないために「そうだね」と合わせておく、くらいのイメージです。

共感と同調、どちらが良いか悪いか、というのもではありません。
ただし、自分がどちらをしているのか、または相手にどちらを求めているのか、を知った上で使わないと、誤解が生じ、それが相手との関係性へのストレスになりかねません。

共感と同調はどう違う?

同調したくないけどしてしまう/せざるを得ない理由とは

自分の意見が不確かなとき

同調は、最近の表現を使うと「場の空気を読む」「忖度する」に近い意味があります。
「同調圧力」という社会心理学の用語があります。同調することを周囲が要求しているように感じて、それに従わざるを得ないような状況です。
本当はその場の意見と違うことを考えている、反対意見を言っても罰せられるわけではない。けれど言えない。
その理由の一つが「自分の意見が不確か」である、ということが挙げられます。

同調したくないけどせざるを得ないような状況で違う意見を述べると、大抵は「どうして?」と理由を尋ねられます。
それに対して「なぜなら」を明確に伝えられない、または自分でもよく分かっていない時は、あえてそれを考えるよりも同調してしまうほうに流れてしまうでしょう。

自分に自信がない

上記と似ていますが、更に根本的な問題になります。
自分の意見が相手と・周囲と違う、同調して合わせることも出来なくはないけれど違和感が拭えない…。
そういう時は同調する必要はないのですが、自分自身に自信を持てていない意見を主張すること自体が難しくなってしまいます。
更に、自分に自信がないと、現実以上に相手や周囲が正しく見えてしまうので、「同調しておくほうが正しい選択かもしれない(自分の意見は間違っているかもしれない)と考えて同調を選んでしまいます。

相手がネガティブになるのを回避したい

自分の意見が相手と違っているのは分かっているし、どうしてそう思うのかの根拠もはっきりしている。でも同調を選んでしまうとき、相手の反応を警戒している、という理由もあります。

相手が「AかBならAがいい」と思っていて、その選択に対しこちらに意見を求めてきているとします。
自分は「Bのほうがいいのでは、なぜなら理由は~~だから」と考えていたとしても、それを伝えることで相手が不機嫌になったり不安を抱くだろう、と想像出来てしまうと、その反応を避けたいために「Aでいいんじゃないかな」と答えることがあります。
相手のネガティブな反応を受け止めたり説得するよりも、同調するほうが効率が良い場合です。

同調しすぎは自分の意思と自信を殺す

同調は使い方が大事

同調は上述したように「他人の意見や行動に合わせる」ことです。
合わせることにももちろんメリットはあります。

✅場の空気を壊さない(冠婚葬祭など)
✅反対意見を述べることがコスト効率を下げる(早く結論を出すことが最優先のとき)
✅同調するデメリットが小さい時(日常的な小さな選択)

いわゆる「コスパがいい」対応とも言えます。

同調することが辛いのは、自分の意思があるから

同調することが辛く、自分の中で抵抗や葛藤を感じることもあります。
その抵抗や葛藤を抱え込んでもなお同調にメリットがあるなら、正しい選択でしょう。
しかしそうでないなら、「なぜ同調が辛いのか、したくないと思っているのか」を考える価値があります。
なぜならそこに自分自身の意思や考えがあるからです。

「A部長のやり方は間違っていると思う」と主張する同僚に対して、自分はそう思わない場合。
その場の会話の流れを止めず余計な論争を起こさないためには「そうかもね~」と同調しておく方が得策でしょう。
しかし自分も仕事をしている人間として、自分なりの考えや姿勢を持っているはずです。ポリシーや信条ですね。
この信条に照らし合わせると、どちらかといえばA部長寄りの考えだった場合、それと異なる主張の同僚に同調することはストレスになります。
A部長が、というより、自分の考えを否定されているように感じるからです。

そして同調を選択することで「自己主張出来なかった」自分に対する自信にも傷がつくことになります。

自信を守りながら相手を尊重する

ここまで見てきたように、同調とは場の空気や関係を守って壊さないことを主眼にしています。それ自体は間違った行為ではありません。
しかし守って壊さない裏で、自分の意思が無いものとされる状況が続けば、一時的に守った相手との関係は、いずれ歪んだものになっていきます。自分の意思を理解していない(伝えられない)相手と健全な関係は続けられないからです。

自分の自信と意思を保持しつつ、相手を否定しないとは、「相互尊重」の関係です。
目指すべきはそこですよね。

共感できると、自分も相手も尊重出来る

共感のポイントは「あたかも」

自分も相手も尊重出来るのが「共感」のメリットです。
言葉の通り、共に感じるものだからです。

同調する場合、相手がなぜそう考えるのかまで踏み込むことは少ないので、どこかに「無理やり合わせている」感が残ります。
共感は「あたかも自分が相手になったつもりで」感情を共有するのですから、どうして相手がそう考えているのか、の理由や事情まで理解する必要があります。更に言うと相手の思考の癖まで把握することもあります。

上記の「A部長の考えは間違っている」と主張する同僚の話に共感を用いる場合。
『彼はいつもA部長に自分の考えを伝えている。言い争っている場面もよく見るけれど、A部長が大切なクライアントへ赴くときはいつも彼を同行させる。自分よりも彼はA部長をよく知っていて、その上で間違っている、というなら、きっと深い考えがあるのだろう』
という解釈になるかもしれません。
その場合、単純に「そうだね」と返すだけでなく、「どうしてそう思うんだ?」「いつも一緒に仕事している君なら、A部長の考えは一番よく知っているんじゃないか?」と質問するかもしれません。
それによりこちらから同僚への理解が深まるだけでなく、相手からこちらへの信頼も深まります。場に流されずちゃんと話を聞いてくれていることが伝わるからです。

ただ「そうだね」と同調・同意する時には出来ない意見交換が行われることで、自分の意思や自信も守られ、相手の意見も尊重することが出来るのです。

自分の意思があるからこそ共感できる

共感とは、自分の中に他者の感じ方や意見を取り入れることです。
実はこれはとても怖いこととも言えます。
なぜならば、自分の意思が無ければ相手の感じ方や意見に必要以上に影響を受けてしまうことがあるからです。

共感は、自分自身のスタンスや意思を持っていて、それを自覚しているからこそ出来ること、と言えます。

共感は必ずしも相手と同じ意見でいる必要はありません。
上述したケーキへの感想の喩えを使うと、「自分は甘いものは好きではない」という意見を持ちつつ、反対の「ケーキは美味しい」と言っている友人の気持ちに共感することが出来ています。自分はそうじゃないけれど相手はそうなのだ、という違いが分かっているから安全に共感出来ているのです。

自分の意思がはっきりしていないまま共感すると「自分もこのケーキを美味しいと思わなければいけないのではないか」という、違う圧力を感じてしまいます。
自分の意思は、別で持っておいて良いのです。

相手になったつもりで問題を見ることで、かける言葉が見つかる

共感するメリットの一つに「解釈の促進」が図られることがあります。
共感は問題解決に役立ちます。相手が感じていることや抱えている問題を理解し、共感することで、より効果的な解決策や支援方法を見つけることができます。
「○○についてどうしたらいいか分からない」と頭を抱えている相手に対し、同調では対応しきれません。一緒になって「分からないね」と返すことくらいです。
共感をもって対応しようとすると、「どうしたらいいか分からない」と袋小路に入っている感情と思考、更にそうなってしまう事情まで含めて相手を理解することが出来ます。

共感してもらう側のメリットはここにあります。
自分と同じように悩みつつ、他者の視点をもって問題を見てもらえることで、自分には見えていなかった側面解決方法を提案してもらうことが出来るからです。
共感する側は「どう返していいかわからない」状態から脱するヒントになります。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

ケアラーにとっての共感とは何か

共感性疲労とは

共感性疲労とは、「他人の苦しみや困難に対して感じる共感や同情が持続することで、心理的・感情的な疲れや疲労が生じる現象」のことです。
家族が病気になってケアを続けている場合、この状態が常に継続しているとも言えます。

共感すること自体は、相手の状況を理解し、共感される側との信頼関係を深めて、コミュニケーションを促進してくれます。
しかし常に共感し続けることは大変な疲労を伴います。家族であれば途切れることがありません。
共感すべきものと、する必要がない場面見極めることが大事になってきます。

気持ちだけでなく知識も必要

ケアラーがケア対象者に共感する場合は、気持ちや想像だけでは不十分です。
相手が抱えている病気や障害についての知識も必要になります。
例えばうつ病の家族が「死にたい」と訴えた場合。気持ちや想像だけでは共感は出来ません。気持ちだけで共感できるレベルを超えているからです。
うつ病とはどんな病気で、希死念慮とはどんなものか、それに対して家族が取るべき行動は何か、を知っていなければ、かける言葉が見つかりません。

カサンドラ症候群に注意

カサンドラ症候群とは、「パートナーあるいは家族など身近にいる人が自閉スペクトラム症(ASD)のため、適切な意思疎通や関係性を築けない心的ストレスから、不安障害や抑うつ状態といった症状が起きている状態を指す」言葉です。

発達障害の人の物の見方や考え方はかなり特徴的です。「普通は」を軸に彼らを理解しようとすると相当な困難を感じます。
そしてこちらからの共感が難しいだけでなく、相手にこちらに共感してほしい、と思っても、こちらの期待した共感内容ではないことがあります。
そうした相互のズレを無理に修正しようとすると要らぬストレスを抱えることになります。
②同様、発達障害についての知識を得たうえで関わり方を工夫する必要があります。

ケアラーにとっての共感とは何か

今すぐ出来る共感トレーニング

聞き役に徹する

共感するためには、相手がどう感じていて、考えていて、そうなった理由や状況、環境などを知る必要があります。情報が無ければ自分の中に相手の感情を再現して「あたかも」を感じることは出来ません。
まずは聞き役に徹しましょう。
聞く間もコツがあります。良い悪いの判断をしないことです。
「それは間違っている」と感じるかもしれませんが、一旦脇へ置いておきましょう。

非言語情報を活用する

非言語情報とは、言葉以外の情報です。目線、口調、声のトーン、仕草、沈黙、自分と相手との物理的な距離などです。こうしたものからも、相手の感情を読み取ることが出来ます。
というより、コミュニケーション上の情報の8割非言語情報から得ているとも言われています。
言葉を聞くだけでなく、相手そのものも観察しましょう。

相手の訴えに「?」があれば素直に伝える

共感するためには相手を理解する必要があります。
疑問点は理解を阻害します。
相手も感情的に盛り上がって喋っているとしたら、理路整然と、わかりやすく話すことは難しいです。時に話がジャンプすることもあるでしょう。
聞き役に徹しつつも、「あれ?」と思う疑問があれば、それを伝えて説明してもらいましょう。
そのやり取りもまた共感の一つです。

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まとめ

  • 共感と同調は、どちらの目線に立っているか、が違う
  • 同調したくないけどしてしまうのは「自分の意見がはっきりしない」「自信がない」「相手の反応が怖い」とき
  • 同調しすぎは自分の意思と自信を押し殺してしまうので注意
  • 共感することは、自分と相手の両方を尊重出来る関わり方
  • ケアラーの共感には知識と見極めが必要
  • 「聞き役に徹する」「非言語情報の活用」「質問する」ことで共感力をトレーニングしよう

同調は場を丸く収める程度の効果しかありません。
自分の意思も大事にしたい、相手に伝えたい状況なら、完全ではなくても「共感的態度」を目指しましょう。

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