罪悪感で苦しい─うつ病の家族を支える人へ届けたい心の処方箋

罪悪感で苦しい─うつ病の家族を支える人へ届けたい心の処方箋

うつ病の家族を支える立場にいると、「私のせいかもしれない」「もっと何かできたはず」といった罪悪感に苦しむことがあります。
その気持ちは、あなたが相手を大切に思っているからこそ生まれたものです。
このブログでは、そんな「支える人(ケアラー)が抱えやすい」罪悪感の正体と、それとどう向き合っていけばいいのかを心理学的な視点からやさしくひも解いていきます。

目次

  1. 支えるあなたが罪悪感を感じる理由
  2. 「私のせい?」と責めてしまう罪悪感の正体
  3. 感情を「悪者」にしない──寄り添うという在り方
  4. あなたの感情に寄り添う──セルフ・コンパッションのすすめ
  5. あなた自身の「心の居場所」を育てよう
  6. まとめ ー罪悪感は心のSOSー

支えるあなたが罪悪感を感じる理由

①うつ病を患った大切な人を支えることは、想像以上に心をすり減らすこと

…ということを、まずはしっかり理解しておきましょう。
うつ病とは今では珍しい病気ではありません。600万人以上いる精神疾患患者数のうち、一番割合が多いのがうつ病を含む「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」で、156.6万人です。
しかし数が多いことと病気の難しさは何の関係もありません。

それは支え方も同様です。
160万人近い人が患っているうつ病なのに、その身近にいる人がどう支えていけばいいか、支える人をサポートする仕組みなどはほとんど手付かずです。
むしろ支える側は「家族」という立場ゆえに、専門家と同じ役割を求められます。
難しい病気をほとんど知識もないまま専門家と同じ「支援要員」として期待されるのです。こんなに辛いこと、中々ありません。

『精神保健医療福祉の現状等について』(厚生労働省)より

②「自分がもっと何かできたのではないか」という思い

そして病気になる前からずっと一緒にいることで、「もっと出来ることがあったのでは」という考えも沸き起こってきます。

もっと早く気づいてあげられなかったのか
違う提案や相談をすることで「うつ病ルート」を取らずに済んだのかもしれない
自分がそばにいるからうつ病になったの?

うつ病をはじめ精神疾患は目に見えませんから、その分「見える・感じる・知っている」自分に原因を求めようとしてしまいがちです。
その結果として、罪悪感や無力感で苦しんでいるのではないでしょうか。

「私のせい?」と責めてしまう罪悪感の正体

①罪悪感の典型的なパターン

罪悪感とは、「自分のせいで○○になってしまった」と感じる自責の感情ですね。これは今までに小さなことから大きなことまで、どこかで感じたことがあると思います。

明らかに原因が自分にあるような場合だと、苦しみは長く続きません。
例えば家のカギをかけ忘れて空き巣に入られた、としたら、最後に家を出た人が「自分のせいだ…」と考えて罪悪感にさいなまれるでしょう。ただ、その後警察に通報し、カギをかけ忘れない方法を家族内で相談して、更に防犯カメラを設置するなどの対策を取れば、次第に罪悪感も薄れていきます。

しかし家族がうつ病になったことに対して「私があのとき○○していれば…」と罪悪感を感じてしまう場合、上記のような対策の立てようがありません。

②うつ病はあなたのせいではない

なぜならうつ病は原因が一つではないからです。
様々な説がありますが、一般的に「生物心理社会モデル」という考え方が主流です。これは『身体的・心理的・周囲の環境や社旗環境などの要因が複雑に絡み合うことによって病気が生じる』という考え方です。

うつ病も同じです。何か一つではないから回復まで時間がかかるし、治療方法も色んな事を試します。家族のせいでうつ病になった、と考えるのは、家族側の思い込みと言えます。

【図】生物心理社会モデル

③責任感が強い人ほど罪悪感を抱きやすい背景がある

それなのにどうして一番傍にいる家族が「私のせいで…」と考えてしまうのでしょうか。
それはその人の責任感の強さゆえではないでしょうか。

責任感が強い人は、能力が高い人が多いです。大人で能力が高いと、会社や集団の中でリーダーなど責任を求められる立場につくことが多いです。
そして能力が高いから、大抵のことは自分で対処できた経験も多いでしょう。

この3つが重なることで『私なら何とか出来る』という自負が生まれます。
普通はこの自負はとてもポジティブなものです。しかしうつ病は、家族が一人で何とかしようとして解決できるほど簡単な問題ではありません。

結果として『私のせいでうつになった、悪化した、長引いた』と考えるようになってしまうのです。

【図】能力が高い+責任ある立場+対処出来た経験⇒うつ家族に対する罪悪感

感情を「悪者」にしない──寄り添うという在り方

①「感情=否定すべきもの」ではないという視点

さて、普段あなたは自分の感情に対してどう見ているのでしょうか。
このブログを読んでくださっているということは、どちらかというとネガティブな感情を自覚することが多く、それをどうにかしたい、と考えていらっしゃるのではないでしょうか。

感情は非常に強く、早く沸き起こるものです。
脳の仕組みを見ると一目瞭然です。感情は「視床」という脳の真ん中にある部位から情報として発信されます。体の動きとも連動していますからすぐに自覚出来ます。

対してその感情を「何とかしなければ」と管理しようとするのは「思考」です。思考を司るのは前頭葉です。非常に複雑な情報管理が出来る反面、感情より時間がかかります。一生懸命考えを巡らせている間、感情は思いのまま体と心を駆け巡ります。

結果として「自分は自分の感情すらコントロールできないのか…」と考えて落ち込んでしまったり、感情そのものを悪者扱いすることが増えてしまいます。

しかし、感情、特にネガティブな感情は、本当に悪者でしょうか。思考力でねじ伏せなければいけないものでしょうか。
心理学ではネガティブ感情「心のSOS」と捉えます。決して悪いものではないのです。

②感情の奥にある「あなたの大切にしたいもの」

ネガティブ感情は心のSOSとは、ではどういう意味でしょうか。

家族とケンカをしたとします。お互いに別々の考えを持っていますから、時にぶつかることもあります。テーマや自分の主張に対する重要度によっては、譲ったり曲げたりすることも出来ずケンカに発展することもあります。

家族とケンカになってしまったことで、悲しいし寂しいし悔しいしショックだし、それと同時に怒りもあるでしょう。
それはなぜですか?
『ケンカなんてしたくないんだから当たり前だ』で済ませないことがポイントです。

  • 自分の主張を押し通したことで家族に嫌な思いをさせてしまった
  • 家族に対し譲歩出来ないくらい、これは自分にとって大事な問題だった

ということではないでしょうか。

③心理学的視点:感情との付き合い方

感情は、押さえたり無視したり捻じ曲げようとすると逆に悪化します。大雨でダムからあふれ出した水を再びダム内へ押し返そうとするようなものです。安全な方法で放流したほうが適切なのです。

そのためにはまず、感情と向き合うことから始めましょう。
感情に対して「良い・悪い」の判断をしないで、「自分は今○○だと感じているんだ」という事実をそのまま観察します。
出来れば周囲から余計な情報が入ってこないようにして、自分の心と体にだけ注意を向けます。
併せて深呼吸することで、心拍が落ち着きます。頭に血流が戻っていけば、次第に落ち着いて考えることが出来るようになっていきます。

落ち着いてきた、と感じたら、今自分が感じている感情が沸き起こった背景を振り返ります。

このような解釈に、何かが悪くて何かが正しい、という判断は不要ですよね。ただ自分が「どうしてそう思ったか」俯瞰的に理解することが出来ます。

【図】感情を感じる⇒観察する⇒俯瞰する⇒背景を参照する⇒感情を受け入れる

あなたの感情に寄り添う──セルフ・コンパッションのすすめ

①「ケアする人」こそ、自分自身をケアしていい

自分の感情が、どんな状況下でどんなルートを辿ってやって来たのか、が分かると、自分を一方的に責める罪悪感も和らいでいきます。罪悪感は自分自身への拒絶感ですから、これが和らいでくると次のステップに進めます。

罪悪感が和らいだからといって、すぐに気持ちが楽になれるとも限りません。
上述したように「寂しさ」「悔しさ」「悲しさ」が残ります。
この時に是非活用していただきたいのが「セルフコンパッション」です。

セルフコンパッションとは「悲しい気持ちになっている自分自身に優しく寄り添う」ことです。
そうすることで、悲しみは受け入れることが出来る感情に変化するのです。

②セルフ・コンパッションの具体的な実践方法

セルフコンパッションとは、自分を責める言葉を引っ込めて、悲しい気持ちになるのは自分だけではない、誰もが味わっていることだという普遍的な心理を思い出し、今この瞬間に何が出来るのか、に気持ちを向けていくことです。

やり方は難しくありません。

  • 自分に対して思いやりのある言葉で「対話」する
    ⇒ケンカしてしまったことは悲しいけれど、自分に嘘をつきたくなかったんだよね。初めてこの件を話したから、なんて言えばいいか分からなかったんだよね
  • 自分の心身がリラックスする時間を取る
    ⇒温かいお茶を飲む、好きなアロマをつける、ゆったりした音楽を聴く、10分散歩する
  • つらい気持ちは人間にとって自然なものだと受け止める
    ⇒誰だってケンカするときはあるよね。皆が誰とでもニコニコ過ごせるわけじゃない。そこからまた立ち直るんだよね。

どれくらい時間をかければいいか、は、人それぞれです。
その瞬間ごとに自分に出来ることを積み重ねることで、「この後どうすればいいか」を考える力が戻ってきます。

あなた自身の「心の居場所」を育てよう

①誰かに頼ることは悪ではない、win-winな感情をもたらす

ケアラーがどうしてこんなに辛いのか、というと、頼る場所・相手がいないことです。
頼ることが苦手な方も多いでしょう。先ほどお話したように能力の高さゆえに「自分一人でどうにか出来る」と乗り越えてきたことで、頼れる相手を作らずに来たかもしれません。

また、自分が常に頼られる側であるために、「頼る=迷惑をかける」と解釈しているかもしれません。

ここで立ち止まって考えてみましょう。
あなたが今求めている「頼る」は、そんなに他者にとって迷惑な内容でしょうか。

この文章を埋めてみてください。
そしてそれを誰かから頼まれるところを想像してください。
それは果たして迷惑でしょうか? 多少負担を感じるとして、それだけでしょうか?

②頼っていい相手もいる

実親やきょうだい、友人・知人を想定すると「申し訳ない」が先に立ってしまうかもしれません。
その時は、頼っていい相手に頼りましょう。
それが「ピア」「専門家」です。

【同じような立場の人とのつながり】
私たちと同じように、精神疾患になった家族を支えて日々奮闘している人たちがいます。こうした相手を「ピア(仲間)」と呼びます。
同じ経験をしているからこそ、「支え合う」というイーブンな関係が成立します。
泣き言を聞いてもらったら、相手のそれを聞けばいいのです。
そして同じ経験をしていると、「それは他人には言われたくない」といったコミュニケーションも発生しにくく、安心できる場とも言えるでしょう。

【カウンセリング・福祉制度】
または専門家に頼りましょう。
自分自身が心の変調を感じたら、自分が患者として専門医にかかることを躊躇しないようにしましょう。私も昔短期間ですが受診したことがあります。
また、カウンセラーやソーシャルワーカーなら、専門家としての情報提供やサポートをしてくれます。何より「誰かの心の問題を引き受ける」訓練をしているので、相談者に対して「迷惑」と思うはずがありません。

≪公的機関≫
精神保健福祉センター https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-4_0010.pdf
保健所 https://www.mhlw.go.jp/content/000761091.pdf

≪惠然庵 ケアラー支援コーチング≫
うつ病家族のための90日間伴走コーチングプラン https://keizenan.net/price/plan/kaikaku-3step/
“わたし”を取り戻す、心の軸づくりコーチング https://keizenan.net/price/plan/pillar-of-my-mind/

まとめ ー罪悪感は心のSOSー

うつ病の家族を支えるなかで感じる罪悪感は、あなたが無関心ではなく、思いやりに満ちた人である証です。しかし、その優しさゆえに「私のせいで…」という苦しみを抱えてしまうのは、本来あなたが一人で背負うべきものではありません。

うつ病は一つの原因で起きる病気ではありませんし、支える人がすべてを解決できる問題でもありません。
むしろ「どうしてそんなに頑張ってしまうのか」「なぜ自分を責めてしまうのか」といった感情の奥を見つめることで、少しずつ心がほぐれていきます。

感情は悪者ではありません。それはあなたの「大切にしたいもの」があるからこそ生まれているサインです。
自分の気持ちと丁寧に向き合うことこそが、長く支えていくための心のケアになります。自分自身の気持ちにも、どうかやさしく寄り添ってください。

“わたし”を取り戻す、心の軸づくりコーチング

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