うつ病回復と家族のかかわり方|3つのフェーズと対応のヒント

うつ病と暮らすという現実 〜マニュアルの限界と、家族のジレンマ〜
うつ病患者と共に暮らすためにどうすればいいか、何に気を付けるといいのか。
家族としてはとても知りたい情報ではありますが、広く知られている対応方法は発症初期の対応に過ぎないと私は考えています。
うつ病は誰でもなる可能性がある上にとても難しい病気です。療養が長期になり、回復後も再発防止ケアは欠かせません。今後ずっと続く共生生活を、発症初期対応だけで乗り切ることは不可能です。
今回はうつ患者家族として、心の専門家として「うつ病と暮らす」とはどういうことか、家族が心がけることは何か、についてお話いたします。
目次
- うつ病回復の3つのフェーズ ― 家族が知っておきたい「時期別の特徴」
- 家族が陥りやすい思い込みと、段階ごとの関わりのヒント
- セルフチェック:あなたの“無理”、気づけていますか?
- まとめ ― 正解よりも大切な「柔軟さ」と「自分を大切にする視点」
うつ病回復の3つのフェーズ ― 家族が知っておきたい「時期別の特徴」
先ほど『一般的に知られている「うつ病対応方針」は発症初期のもの』とお話しました。
うつ病回復には3つの段階があります。
①急性期(発症当初~3ヶ月くらい)
一番症状が重く、何も出来ずほぼ寝たきりのような状態になってしまうのが「急性期」です。
無理をさせない、ゆっくり休ませてあげる、重要な決断は先送りにする、と言った対処方法はこの時期に必要になります。
病院へ行って薬を飲むことで本人の中で少しずつ安定していきますが、それは第三者から見て「元気になったな」と思えるほどの変化ではありません。
②回復期(急性期を経て~3ヶ月前後)
急性期を過ぎると少しずつ思考力や活動量が回復してくる「回復期」に入ります。
ただしこの時期は、出来ることが増える分心配しなくてはいけないことがあります。希死念慮、つまり「死にたい」気持ちを行動に移す恐れが高まります。
と同時に社会復帰への意欲も高まり始めます。つまりいずれにしても「これからどうしたらいいんだろう」を考えることが出来るようになります。
③安定期(再発・症状再燃に気をつけつつ社会生活を送れるようになる時期)
そして最終的に「安定期」に入ります。安定とは、病気がすっかり治って前と同じように生活が出来るようになる、というのとは少し違います。
うつ病を経験したということは、無理しやすい傾向や、周囲に合わせようとし過ぎてしまったり、自責思考が強い方が多いです。そうした特徴は改善することは可能ですがゼロにはなりません。今後もうつが再発しないよう配慮する必要があります。

家族が陥りやすい思い込みと、段階ごとの関わりのヒント
うつ病回復のそれぞれの段階で、では家族はどのように関わっていけばいいのでしょうか。
①急性期の関わり方
広く知られている「うつの人との関わり方」はこの時期に当てはまります。
- ゆっくり休ませる
- 励まさない
- 決断や考えを求めない
(引用:精神科に特化した訪問看護ステーション コルディアーレ)
基本的にこうした対応を意識しつつ、本人がどんな時に辛そうで、どんな状態なら安定しているかを見守る時期です。
うつ本人が病気初期であるということは、家族にとっても「うつ病に慣れていない時期」と言えます。慣れない環境はどんなものであれストレスです。しかも家族は「ケアする立場」を求められるため、自分自身の疲労やストレスを感じにくくなっています。
家族は自分の疲れを癒す時間または取り組みが必須になります。
②回復期ではどう変わるか?
次の回復期では、うつ本人にもできることが少しずつ増えてきます。そして「どうしたらいいか」を考え始めます。ただし病気ではなかった時期のようにどんな思考・選択・決断も出来る、というほとではない「過渡期」と言えるでしょう。
まだ症状を抱えてはいるけれど、少しずつ“できること”が増えてきた時期です。
ここで家族が気をつけたいのは「過大な期待」です。
ずっと何も出来ない状態を支えてきた家族にとって、ほんの少しでもポジティブな変化を感じられたら、それは大きな喜びです。
- 朝起きてきて一緒にご飯を食べた
- 一緒にコンビニまで行けた
- テレビを見て少し笑ってた
今までなら当たり前で気に留めることも無かったような活動は、家族には「頑張ってきてよかった」と思える瞬間です。
ただし、これはまだ終わりではありません。まだ配慮や療養は必要です。
けれど一気に「じゃあいつ復職する?」のような話し合いを持ち出すと、一気にプレッシャーに押しつぶされて元に戻ってしまいかねません。
まだ階段を上っている途中であることを忘れないようにしましょう。
この時、家族は「本人のやりたいことは自由にやってもらう」関わり方をしながら、うつ本人の「成功体験」を積み重ねる手伝いをすることがポイントです。
「自分にもやればできる」ということを、家庭内・日常生活の中で思い出してもらいましょう。
③安定期に入ったら見方を変える
そして主治医から「復職しても問題ないですね」のようなお墨付きをもらえる時期が安定期です。
服薬はまだしばらく続くでしょう。生活状況に応じて薬の種類が変わったり、主治医と相談しながら弾薬が始まったりします。
精神症状に作用する病気は、効き始めるまでに時間がかかり、飲まなくするためにも時間がかかります。ここで「もう大丈夫だから」と自主的な断薬(薬を飲まなくなること)をしないよう注意が必要です。
といっても急性期や回復期と比べたら、特別な配慮はどんどん必要なくなっていきます。
このタイミングで家族の関わり方で重要なのは「本人に任せても大丈夫」という信頼を思い出すことです。
数ヶ月、場合によっては年単位で家族を「うつ病患者」としてケアしてきたのですから、「なんでも自分がやってあげなければいけない」という態度がしみついてしまっています。
でももう本人には自分で考えて行動する力が戻ってきていますから、家族側が見方を元へ戻さないと衝突する恐れがあります。
うつ病回復の最後のステージでは「手を放す」関わり方が必要です。

セルフチェック:あなたの“無理”、気づけていますか?
うつ病患者の家族はどうしても無理をしがちです。うつ病回復までは無理をせざるを得ない状況ではありますが、自分が無理をしているかどうか、を自覚しているかいないかは自分の精神状態に大きく影響します。
これまでの記事を読んで「もしかしたら私も疲れているかも」と思った方は、ぜひ次のチェックリストに目を通してみてください。
次の質問に答えて、どれくらい無理をしてしまっているか、を振り返ってみましょう。
📝自己チェック|私は無理をしていないか?📝
※以下の項目に「はい・いいえ」で答えてみてください。
- 相手のために、自分の予定や楽しみを後回しにすることが多い
- 「私が頑張らなきゃ」と、責任をひとりで背負っている気がする
- 疲れているのに、誰にも相談できていない
- 相手が元気になるまでは、自分が我慢すべきだと思っている
- 相手の機嫌や状態に振り回されている感覚がある
- 「自分の人生が止まっている」と感じることがある
- 励ますのを我慢し、感情を抑えすぎてつらい
- NOと言えず、やりたくないことも引き受けている
- 相手の回復が自分の評価のように感じてしまう
- 最近、自分の笑顔が減っている気がする
【結果の見方】
「はい」が3つ以上:心の疲れが蓄積しているサインです。
「はい」が5つ以上:ご自身のケアが急務かもしれません。
うつ病回復をサポートする側にもサポートが必要です。「自分を後回しにしない」ことを少しずつ取り戻していきましょう。
<参考記事>
まとめ ― 正解よりも大切な「柔軟さ」と「自分を大切にする視点」
うつ病と共に生きることは、家族にとっても終わりの見えない旅です。
けれど、関わり方に「絶対の正解」はありません。
大切なのは、その時々の変化に合わせて関わり方を見直していく柔軟さです。
焦らず、立ち止まりながら、自分の心にも目を向けて。
あなた自身のケアも、うつ病との共生には欠かせない一歩です。
次回は後編として、「家族が“優しさで壊れない”ためにできること」についてお届けします。
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