家族のかたちとうつ病

うつ病と家族のかたち

家族の誰かがうつ病になれば、その本人だけではなく家族全員の生活が変わります。
そして家族内での役割も変わるでしょう。

うつ病(その他精神疾患)と家族が作る「これからの家族のかたち」とは、どんなものでしょうか。

1.精神疾患が増えた?

精神疾患を有する総患者数の推移(厚生労働省)

平成29年の統計ですが、入院・通院含めて精神疾患を有する人の人数は約420万人でした(厚生労働省)。人口を1億2千万人とすると3.5%です。病院に繋がっている人だけの人数ですから、「もしかしたら」と思いながら未受診でいる人も含めるともっと多いでしょう。

最近になって精神疾患が増えた、と言われますが、私は少し違うと思っています。
もちろん不確定で不透明な時代ゆえに不安を抱えやすくなっているとも言えますが、以前よりも自分が「精神疾患かもしれない」と気づけるようになった、そして受診しようと思えるようになったから、ではないでしょうか。
まだまだいると思いますが、昔よりは「隠れ精神疾患」が減っていると思います。

精神疾患とその治療は、偏見と差別との闘いの歴史でもあります。それは他者から受けるだけでなく、社会の無言の圧力によって自分で自分を差別する「セルフスティグマ」も大きいです。

精神疾患を患うこと自体は非常に苦しいことですが、数が増えることで適切に医療や福祉につながれる人が増え、正しい知識を持った人が増えていくとしたら、それは不幸中の幸いと言えるかもしれません。

2.家族の中の役割

例えば夫・父親がうつ病になったとします。
すると妻・母親が今まで夫・父親が担っていた役割や仕事を受け持つことになります。
夫婦二人家族ならここ止まりですが、子どもがいれば、父親の役割、または従来母親が担っていた役割の一部または全部を子どもが担うことになります。
子どもが複数人いれば、年齢が上の子が下の子の世話を請け負うなど、バトン形式で役割が回っていきます。

家族の中の役割

今までやったことがない役割なら当然不安も不満も抵抗もあるでしょう。とはいえ、今まで通り(誰かが病気になる前)とは同じ生活スタイルを続けることは出来ないのですから、受け入れざるを得ません。

家族内の役割が変化するのです。
この変化を、個々人がどう受け入れるか、が一つ目のポイントです。
自分の役割を失った夫・父親、負担が増えた妻・母親、今までは守られ保護される存在だったのに「誰かを支えなければいけない」役割を割り振られた子ども。

「家族なんだから支え合って当然なんだ」と、困惑を切り捨ててしまいがちです。でもそれはきっとまたどこかで噴出する。場合によってはもう一人うつ病になってしまうかもしれません。

家族だから支え合う。ならば家族の中の悩みや不満、不安も共有すべきなのですが、中々それが出来ていないのではないでしょうか。

3.家族のかたちと「普通」

3年前のコロナに限らず、社会も世界もすごい速さで変容しています。
さらに個々人も、「その人らしさ」を持つべきだ、と個性が尊重されています。
なのに家族だけは不変を強いられていないでしょうか。
アニメの「サ○エさん」や「ちび○る子ちゃん」のような。更には童話の「桃太郎」の、「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」のように。

社会の中にいて、個人の集まりである家族だけが不変かつ他と同質であり続けることなど、端から不可能なのです。

とはいえ、「変わらなければならない」ものでもありません。「変わることが出来る」「変わる必要がある」のいずれかだと考えます。

家族の誰かがうつ病になった、という状況は、「変わる必要がある」のほうでしょう。
特に「必要性」と「緊急性」が高いですから、「どうしよう」と迷う暇すらなく変化せざるを得ない、というのが実際だと思います。

家族内ではその変化が必要だった。でも社会的に見れば「普通」ではないのかもしれない……。
そう考えて「自分たち家族」と「(アニメのような)普通の家族」像の間で葛藤するかもしれません。

4.自分らしさと家族のかたち

うつ病になる理由は人それぞれ色々ありますが、「その人らしさを失わざるを得なかった状況に長く身を置いた結果」として病気になってしまった、という方は多いと思います。
多くは会社、または学校などが考えられます。家族内でそうした体験をしている人もいるでしょう。

であれば、うつ病を回復させるためには「その人らしさ」を取り戻す必要があります。
家の外の環境が原因だったとしても、それを変えるためには家族のかたちも変えざるを得なくなるかもしれません。

ずっと都心の企業に勤めていた夫・父親がうつ病になり、病気を治すために退職した。それを機会に家族全員で転居して、妻・母親が働きに出るようになった。その代わり夫がパート勤務と家事を請け負うようになった、というのはよくあるケースです。

そしてそれは病気になった本人だけでなく、それに合わせて変化した家族側「自分らしさ」を考慮した上で変化を選択・決定する必要があります。

ある程度の不満や不安はあるでしょう。それでも全員が調整し合って「これでいこう」と合意出来るかたちを見つける必要があります。
「これでいい」と言える新しい家族のかたちを見つけることが、うつ病と家族の「新しいかたち」の第一歩なのです。

5.まとめ

家族は変えることが出来る

うつ病や精神疾患に限らず、これからは「今まで通りの環境が続く」ことは期待できない時代です。
家族のかたちは、変えていかなければいけないのではなく、また、変えてはいけないものでもありません。変えることが出来る、ということを知っておきましょう。

「今」の自分たち家族にとって最善のかたちを、柔軟により少ない抵抗で受け入れていくことで、持続可能な家族のかたちを作っていくことが「これからの家族のかたち」には必要なのではないでしょうか。

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