発達障害者支援法と大人の発達障害

発達障害者支援法と大人の発達障害

「発達障害者支援法」という法律をご存じでしょうか。
2005年4月に施行され、2016年に一部が改正されました。

印刷するとA4で4ページくらいの法令ですが、今一度目を通し直してみました。
しかし、私が期待している内容ではありませんでした。

1.法制定の目的

発達障害者支援法は、その目的を以下のように定義しています。

「発達障害者の自立及び社会参加のためのその生活全般にわたる支援を図り、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする」

同法 第一章 第一条

障害者の自立と社会参加を目的としているのはこの法律だけではありません。
障害者基本法、障害者総合支援法にも同じようなことが書かれています。

現在、「障害者」というとき、大きく分けて身体・知的・精神の3つがあります。
発達障害は精神障害のうちの一つとされています。

ただ、精神障害・精神疾患のほとんどが後天的な病気であるのとは対照的に、発達障害先天的な脳の特徴ゆえの生活上の困難、とされています。
先天的ですから、病気というよりその人が持って生まれた特徴です。うつ病や統合失調症のように薬で治すことが出来ない(現時点では、かもしれませんが)障害です。

非常に根本的で大きな違いです。
これを「精神障害者」としてひとくくりにしている時点で、かなり無理があったのでしょう。
発達障害にはそれに見合った、特有の支援があるべき、と、個別の法律を制定したことが示しているのです。

2.発達障害者支援法の内容

発達障害者支援法は長い条文ではないので、ご興味がある方はインターネットからダウンロードして一読されることをお勧めします。

内容は大体以下の通りです。

第1章 総則(1 – 4条)

目的・用語の定義・国及び地方公共団体や国民(社会全体)の責務について述べる。

第2章 児童の発達障害の早期発見及び発達障害者の支援のための施策(5 – 13条)

児童の発達障害の早期発見・早期支援、保育・教育・放課後児童健全育成事業の利用・就労・地域生活といった、あらゆる場面での支援や権利擁護・家族への支援を、地方公共団体や社会全体に要請する。

第3章 発達障害者支援センター等(14 – 19条)

発達障害者支援センターの責務・運営上の留意事項・都道府県の監督事項を定めるほか、専門的な医療機関の確保等を都道府県に要請する。

第4章 補則(20 – 25条)

発達障害者を支援する民間団体への支援や国民に対する普及・啓発、医療・保健業務に従事する者に対する知識の普及・啓発、専門的知識を有する人材の確保・調査研究などを行政や社会全体に要請する。

一番分量が多いのは「第2章」です。
早期発見、早期対応、療育の重要性などが書かれています。

全部その通りだと思います。特に子どもの発達障害は症状がばばーんと出てくるので親御さんや学校など周囲の大人の苦労は大きいと思いますし、子どもの頃に必要な療育を受けたかどうか、は、大人になってから「生きやすさ」に大きく作用します。

発達障害者の支援についての、ある意味これが「基本法」のようなものですから、具体性に欠けるのは仕方がないのかもしれませんし、発達障害に限らず障害による課題や生きづらさは千差万別です。法律で規定しきれないのは当たり前なので、まあこういう文章になるのでしょう。
(「特性に配慮」「適性な対応」)

3.大人の発達障害は?

発達障害、という言葉から、まだ一部では「子ども特有の問題」と思われているようですが、持って生まれた特性ですから一生ついて回ります。

そして今30代以降の「大人の発達障害」は、知的障害や小児自閉症を除けば、幼少期に適正な診断や療育を受けていない人ばかりです。
発達障害という概念自体がまだ確立されておらず、知名度も低かったのですから、それは仕方のないことかもしれません。

しかし、子どもの頃から、「出来ない」特性を「努力不足」「怠け」「甘え」と決めつけられて不当な(あえてこう言います)叱責を受け続けた人が、果たして自分らしい生き方を貫ける自立した大人になれるでしょうか。

自分ではどうにもできない特徴を一人で抱えて、周囲の大人からボッコボコにされ、今でも間違った認識や偏見で「アスペ」「はったつ」と指をさされる状態の「未診断のまま大人にならざるを得なかった発達障害者」達が、やはりこの法律の中でもすき間から滑り落ちてしまっています。

唯一大人の発達障害に該当しそうな文言は「就労支援」くらいですが、結局は障害者総合支援法内の「訓練等給付」に当てはめられるだけでしょう。

発達障害他の精神障害と違うのは、その凸凹の大きさです。
ある作業は誰よりも正確に早くこなすことが出来る、または異常に記憶力が良いために周囲から優秀だと言われたり学校の成績が良かったりする。
しかし人の輪の中に入っていけない、誰かと足並みそろえることが極度に困難。

こうした人たちは、一般的な就労移行支援サービスでは、通所し続けること自体が困難になります。

よしんば障害者枠で就労が出来たとしても、障害者雇用枠での待遇は、大人が自立できるほどの報酬は得られません。
家族と同居、または障害年金の受給(2級以上)があることが前提となっているかのような報酬体系です。

自立できなければ結婚は難しく、社会的に一人前と目されず、自尊心が十分に育たずに、うつ病や適応障害などの二次障害に苦しむことになります。

4.大人の発達障害に必要な支援

発達障害は、まずは本人と身近な周囲がその特性を十分に理解することです。
その時、出来ないこととそのカバー方法ばかり考えているのでは、自立も社会参加も到底叶いません。

発達障害の特徴は凸凹の大きさ、と言いました。
凸、つまり「人より出来ること」が必ず何かあるのです。
それを探すことが何より先決です。

そして凸、一般的な人より出来なくて困っていることのカバーは、環境調整道具です。決して本人の「注意力」や「周囲の配慮」で埋め合わせしようとしないことがポイントだと思います。

周囲が障害者に配慮すべきなのは正論ですが、その正論が通用しないのが世の中だ、ということを一番身に染みて分かっているのが障害者本人です。
生きづらさをこれ以上増やさないためにも、環境と道具は必須です。
これは大人も子供も同じだと思います。

そして一番は金銭的自立でしょう。
公的支援では年金などの経済支援ばかり注目されますが、発達障害の凸凹を活用出来る場で一人前の収入、年収で言えば30代で300~400万円くらい?が得られる仕組みづくりが必要で、そのために何か法律なり制度なりがあると後押しになるのでは、と思っています。

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