精神・発達障害に必要な「ライフスキル」
障害者雇用の現場にいた時、「どんな資格取ればいいですか?」と、よく相談されました。
障害者が働くとき、重要なのはパソコンが出来たり有名大学を卒業していることよりも、安定性です。
そしてその安定性を支えるスキルが「ライフスキル」なのです。
1.ライフスキルとは
ライフスキルとは、人間が人生の要求や課題に効果的に対処できるようにする適応的で前向きな行動の能力です。
この概念は、心理社会的能力とも呼ばれます。対象は社会規範やコミュニティの期待によって大きく異なりますが、幸福のために機能し、個人がコミュニティの活発で生産的なメンバーになるのを助けるスキルは、ライフスキルと見なされます。
wikipedia
ライフスキルには、代表的な10項目があります
https://kobe-ches.jp/blog/73/
- 意志スキル
- 問題解決スキル
- 創造的思考
- 批判的思考
- コミュニケーション・スキル
- 対人関係スキル
- 自己認知
- 共感的理解
- 情動に対処するスキル
- ストレスに対処するスキル
障害者の人にこの全てを求めるのはかなり酷でしょう。特に精神障害・発達障害だと、障害特性がこれらを身につけることのハードルを更に高くします。
ですから、これらが身についていることが就転職の際に必要なのではなく、自分に不足しているものは何か、を知っていて、それを他者へ伝えることが出来るか、が重要なのです。
精神・発達障害者の方に特に身につけていただきたいライフスキルが3つあります。
2.一番大事なのが「ストレスに対処するスキル」
これは私の個人的な意見ですが、精神・発達障害の方にまず身につけて欲しいのが「ストレスに対処するスキル」です。
ストレス、といっても、障害のない人のそれとは全く別物です。
精神・発達障害の人がひとたびストレスを感じると、症状が活性化して仕事どころではなくなります。場合によっては何日も続いて出勤できなくなります。
数日で鎮静化すればいいのですが、「欠勤してしまった」事実が二次ストレスになってすぐには復帰出来なかったりします。
更に、疾病・障害内容によって、何がストレスなのか・ストレスを感じた時に出る症状とは・その対処方法(医学的治療含む)は本当にバラバラです。
ストレスを受ける=症状が出た時にどう対処すれば早く落ち着くか、を知っていることが、働く上ではとても重要になります。
そしてもちろん現場の人間は、そもそもストレスを感じないようにする、症状を悪化させないようにするための工夫をしなければなりません。対処法(頓服服用など)はある意味最終手段です。症状が出たら薬飲めばいいんだから、なんて言う現場担当者は失格です。
3.「問題解決スキル」も重要
次に重要なのが「問題解決スキル」です。
この問題も、日常の小さな問題が対象になります。
- ぼんやりしていて○○さんに挨拶出来なかった
- 昨日より気温が5度も下がった/上がった
- 生理が予定より2日ズレている
- 昨日の夜親とケンカした
誰もが多少は気になるアクシデントですが、だからといって会社に行けなくなる、眠れなくなるほどの問題ではありません。
しかし精神・発達障害の人は、こうした小さなアクシデントに弱いです。
それは、小さなものにも何かしらの意味を見つけてしまうのです。
- ぼんやりしていて○○さんに挨拶出来なかった → ○○さんに嫌われた、会社をクビになるかもしれない
- 昨日より気温が5度も下がった/上がった → 何を着ていけばいいか分からない、会社で倒れるかもしれない
- 生理が予定より2日ズレている → 自覚していない不調があるんだ、もしかしたら大病かもしれない
- 昨日の夜親とケンカした → 親とすらケンカする自分が会社でうまく立ち回れるはずがない
みたいな感じでしょうか。
この時に、第三者に「こんなことがあった」と打ち明けるスキルを持っている人は、思考の修正が早いです。
しかし多くの方は、「こんなことで悩み相談なんて相手に迷惑だ」と思って一人で抱え込みます。これも仕方のないことで、過去に「そんなことで一々悩むな」と拒絶された経験がある(一度や二度じゃない)ためです。
疾病・障害を持つと、家族だけではなく主治医や生活支援員、職場の担当者など、障害内容を理解した上で対応してくれる人との繋がりがあるはずです。そうした人たちは「そんなことで(以下略)」とは言いません。
些細なことでも相談出来るスキルを身につけていることも、働くうえでは重要です。
4.もう一つは「自己認知」
漢字で書くと難しく見えますが、要するに「自分で自分のことを知っている」かどうか、というスキルです。
これも精神・発達障害の方には中々難しいスキルです。過去の経験から、自分への見方や理解の仕方が批判的な方向へ偏っている方が多いからです。
- 自分なんて○○だ
- 自分には長所なんて何もない
- 仕事だって長続きしないに決まっている
こうした「自分への考え」は正しいとは言えません。偏った見方から出てきた自己認知ですから、「知っている」うちに入りません。
自分自身のプロフィールや経験、経歴を棚卸しし、第三者へ情報として提供できるような自己認知を出来るようになる必要があります。
コミュニケーションや対人関係で悩む方は多いですが、自分を正しく知っていることは対人スキル以前の問題です。
例えば「自分には長所なんて一つもない」と思い込んだまま人と交流すると、相手の全てが素晴らしく見えてしまったり、一緒に作業している時に起きたミスを全部自分の責任だと思って落ち込んでしまったり、褒めてもらえても受け入れることが出来なかったりします。
無理矢理自分を素晴らしい人間だと思い込む必要も、自分に嘘をついてポジティブ思考を目指す必要もありません。
- 自分に出来ることはなにか
- 出来ることをどうやったら活かせるか
- 出来ないこと(個人的なもの、障害由来のもの)はなにか
- 出来ないことをフォローする方法は何があるか
を知ろうとする姿勢があるかないか、が、大事だと思います。
5.まとめ
仕事をしよう、と思うと、どうしても「パソコンが出来ないといけない」とか「何か資格を持っていないといけない」と思いがちです。これは障害の有無関係なく、多くの人が悩んでいることだと思います。
しかし逆の立場になって考えてみましょう。
自分の部署に新しく入ってくる人に、パソコンがバリバリ出来て色んな資格を山ほど持っていることを求めるでしょうか。
それよりも、新しい環境に馴れるように努力する姿勢や、毎日出勤出来るよう体調を整えられることや、仕事上必要な相談を必要な人に出来ることのほうが優先ではないでしょうか。
障害者雇用の場では、特にこれらが重要視されると思います。
そしてこれは、普段の生活の中でこそ身につけることが出来るスキル、つまり「ライフスキル」なのです。