精神疾患の家族に共感する:メリットと向き合い方
「精神疾患の家族に共感できない。病気のせいでの言動だと分かっていても時に発せられる言葉に傷つく。
でも自分は病気ではないのだから我慢して共感しなきゃ、と思うが難しい」
と思っているケアラーは少なくないと思います。
精神疾患になると心と思考のパワーが激減するので、以前とは別人のような言動をして家族を困らせます。そうなると一緒に暮らす家族は振り回され、理解や共感を示す余裕がなくなります。
しかし「共感」は、家族にとって、特に精神疾患を患う人にとって何より重要な関わり方です。
相手に共感することと自分の意思表示は相反するようで両立します。そのコツをご紹介いたします。
目次
- 共感とは何か
- なぜ精神疾患の家族に共感出来ないのか
- なぜ精神疾患の家族に共感が必要なのか
- 精神疾患の家族に共感するコツ5選
- それでもやっぱり共感できない…と思う方へ、3つのアドバイス
- まとめ:共感は我慢ではない
共感とは何か
共感とは
共感とは、コミュニケーションの基盤です。自分と相手は別の人間でありながら、「あたかも」自分がその人になったつもりで、体験や感情を共有することです。
共感、エンパシー(empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す。もしくはその感情のこと。例えば友人がつらい表情をしている時、相手が「つらい思いをしているのだ」ということが分かるだけでなく、自分もつらい感情を持つのがこれである。通常は、人間に本能的に備わっているものである。しかし、例えば反社会性パーソナリティ障害やサイコパスの人物では、“共感の欠如”が見られる。近藤章久は深い共感と直観を精神治療の根幹とした。
wikipedia
共感力が高い人の特徴
一つは「聞き上手」です。ただ音として聞くのではなく、相手がどんな意味を持ってその言葉を使いこの話をしているのか、の意図を読み取ろうとします。
二つ目は「非言語コミュニケーションの使い方が上手い」です。非言語コミュニケーションとは、言葉ではない情報交感です。目線、仕草、表情、声のトーン、相手との距離、沈黙の長さなどを使って、どれだけ相手の状態や話を理解しているか、を伝えるのが上手です。
三つ目は「感情のコントロールが上手い」です。人間ですから相手の話に反発したり、自分の記憶が呼び起こされて感情が上下したりしますが、それを管理しながら相手と接することができます。
四つ目は「柔軟な想像力」があります。自分と同じ感想や経験ではないとしても、得た情報から相手の立場や気持ちを、常識や「〜であるべき」などに捉われず想像して理解することができます。
五つ目は「深い自己理解」を持っている点です。相手に共感するとき、自分自身の感情や考え、傾向を理解していないと相手に引っ張られ過ぎます。相手の感情に飲み込まれることは共感ではありません。自分自身を確立しているからこそできるのが「他者への共感」なのです。
≪参考情報≫こころの耳(厚生労働省)『傾聴とは』
なぜ精神疾患の家族に共感出来ないのか
精神疾患の症状によっては、相手を大事に思っていたとしても共感が難しくなるときがあります。
なぜなら共感は「相互にし合う」ことによって続く働きかけだからです。
相手が精神疾患のせいで余裕やエネルギーが失われていると、「し合う」ことが難しくなってしまうのです。
理由1:病気の人への労りと自分の感情の板挟みになる
精神疾患が非常に辛い体験であることは、家族なら十分理解しています。
専門書を読んだり、医師の説明を聞いたり、何よりいつも患者本人のそばにいるのでその辛さは体感しています。
しかし自分自身にも同様に辛さやストレスがあります。病気ではないけれど、生きていれば必ず抱えるものです。
病気ではないから大したことはない、と言うことではありません。
場合によっては病気になった家族に代わって対外的な役割を一手に引き受けて、非常に苦労の多い生活をしている人もいます。
「自分には自分の辛さがある」のに、まるでそれが無いものかのように扱われている気がして、病気の家族に対する共感を示すことへの拒否感が沸いてしまうのです。
理由2:「病気のせい」と分かっていても受け入れがたい本人の言動
精神疾患は普通に過ごすことも難しくなるほど精神的なエネルギーが減退します。家にいるだけに見えてもそれが精いっぱいです。
更に病気になったことで家族に迷惑をかけているのでは、自分にはもう価値がないのでは、と自己評価を下げ自責感で一杯です。
その状態が、他者の全く関係ない一言に敏感に反応した言動に繋がり、家族にとっては暴言と思える状況になることも少なくありません。
家族にとって一番受け入れがたい言動は「死にたい」でしょう。特にうつ病は希死念慮と隣り合わせです。
分かっていても「死にたい」という言葉にどう寄り添えばいいのか、共感していいのか、そもそもどうやって共感すればいいのか想像もつかず、途方に暮れてしまいます。
理由3:病気本人は他者への共感力が弱まっている
全ての人や疾患に当てはまることではありません。
しかし、スキルとしての共感力、ではなく、「他者へ共感する精神的余裕がない」状態になってしまっていることは少なくありません。
人の関係性は相互関係です。「返報性の法則」が述べるとおり、常に一方向からだけの働きかけでは長続きしません。
病気の辛さに共感して寄り添いたい、と思っても、相手からこちら(ケアラー側)への共感が全く示されない状態が続けば、ケアラー側の働きかけも続かないでしょう。
≪こちらも読まれています!≫ 惠然庵コラム『家族が敵に見えるとき』
なぜ精神疾患の家族に共感が必要なのか
こうした矛盾や負担を感じつつ、それでも精神疾患の人には共感してくれる他者が必要です。
何故なら共感は、お互いの誤解を減らし、孤独を解消してくれるからです。
理由1:回復を早める手助けになる
辛い状況や気持ちに共感してくれる人がそばにいる、と言う状態は、病気の人にとっては
「何かあっても見捨てられない」
「辛かったら助けを求められる」
「自分の病気は悪いことではない」
と信じることが出来る根拠になります。
それは病気の治療や療養へプラスの効果をもたらします。
何かあったときに助けてくれる人がいる、と思えるからこそ、人は辛いこと(治療、療養、リハビリ)に向き合う意欲がわいてくるのです。
理由2:メンタルが安定する
精神疾患はどんな種類であれメンタルが不安定です。
うつ病であれば意欲が大きく減退し、希死念慮に囚われます。
統合失調症なら幻覚や妄想に振り回されます。
強迫性障害は不合理だと分かっている行動に追い立てられます。
自分自身でも「なぜこんな状態になった」と悩んで自己否定してしまいます。
その悩んでいる気持ちに共感してくれる人がいると、自分の状況を否定する気持ちが弱まり、不安定な気持ちを解放することが出来ます。
それによって家族はもちろん、医療や福祉の専門家も適切なサポートを提供することが出来るのです。
理由3:家族(ケアラー)側の理解が深まる
共感のメリットは患者側だけではありません。
「あたかも」自分が患者本人になったつもりで共感出来ると、何がどのように辛いのか、その中でどんなふうに頑張っているのか、何に困っているのか、を理解できます。
更に一緒に暮らす家族に対する感謝も同時に共有することが出来ます。
家族は一緒にいる時間が多い分、言葉足らずです。特に感謝は照れもあって言いづらい人も多いかもしれません。
本当なら言葉にして伝えてほしいところですが、共感することで理解出来れば、療養生活へ協力していこう、というモチベーションも湧いてくるでしょう。
精神疾患の家族に共感するコツ5選
共感のメリットをご理解いただけましたでしょうか。
では実際に「難しいけどやってみよう」と思えるための共感のコツをご紹介いたします。
コツその1:感情を共有する
相手の感情を理解するだけでは、「こっちだって辛いのに」という気持ちからの板挟みは解消されません。
自分が何に困っているか、何をどう感じているか、少しでもして欲しい努力は何か。
そうした普段から感じている感情を、相手に伝えましょう。
『夜眠れない分、朝起きられないことは仕方がないし、寝られるなら寝てほしいと思っているよ。でも私は仕事があるから朝物音を立てるのは仕方がないんだ。それを「静かにしてほしい」と言われると辛い。朝の準備の物音は我慢して欲しい』
と伝えることは間違いではありませんし、相手も「言ってもらえてよかった」と思うかもしれません。
コツその2:お互いに非難や批判を避ける
共感は「あたかもその人になったつもりで」相手の感情や状況を疑似体験する作業です。
相手が辛いと感じていることは、辛いことなのだ、と認識するのです。
そこへ「それくらい頑張らないと」とか「大したことじゃない」のような自分自身の判断を下してしまえば共感は失敗です。
相手の意見や感情を否定せず、受け入れる態勢が大事です。
コツその3:自分の限界を認識する
自分(家族、ケアラー)の許容量や限界を知って起きましょう。
あたかも自分が相手になったつもりで辛さを疑似体験すると、優しい人はそれをまるっと解決してあげようと思ったり、自分が肩代わりしてあげようと思うかもしれません。
それが出来る余裕があるならアリの選択かもしれません。
ですが、自分にも自分の生活と、役割と、感情と思考があります。
それらのために使うエネルギーまで差し出してしまうと、共感を通り超えて今度は燃え尽きや共倒れのリスクに直面します。
共感するためには、特に精神疾患の人に共感するときには特に自分自身をよく知っておく必要があります。
コツその4:質問を上手に使う
相手の辛さをあたかも自分自身のことであるかのように想像するためには、情報が必要ですよね。
情報を得るためには、適切な質問が効果的です。
自分の辛さを「しんどい」とだけ表現するなら、それを具体化出来るような質問をしてみましょう。
体が重い、○○もする気がしない、△△くらいなら出来る、AとBならどっちが近い?など。
クリアになっていくほど、聴き手の想像力と共感の度合いも高まります。
コツその5:共感の言葉と非言語情報
まずは非言語情情報の活用です。
上述した「共感力が高い人」の特徴の一つにも挙げました。
言葉以外の情報から相手の状態を探りましょう。
もう一つは自分が相手に感じている気持ちを、共感を示す言葉で伝えましょう。
「辛そうだね」「分かるよ」「○○みたいな感じなんだね」
と返すことで、精神疾患の家族に共感しようとしている意思が伝わりますし、もしズレていれば指摘してくれるでしょう。
≪こちらも読まれています!≫ 惠然庵コラム『「相手の立場になって考える」とは?』
それでもやっぱり共感できない…と思う方へ、3つのアドバイス
アドバイス1:共感と同一化は違う
「同一化」とは、他者や物事と自分を結びつけ、自己との一体感を生じさせる行為です。主軸が「自分」なので、相手を自分側に引き寄せる行動です。
ですが結び付けられなければ一体感は得られません。
精神疾患の辛さを健康な人と結びつけることは困難です。
結び付けられなければ「出来ない」と思ってしまうでしょう。
共感のコツは「あたかもその人になったつもり」です。
アドバイス2:自他の境界線は譲らない
精神疾患の家族に共感することと、自分の意思を曲げることは全く意味が違います。
自分の考えとして「○○してほしい」と思っていて、相手に共感した結果「今は○○は難しいかもしれない」と理解することが出来るかもしれません。
そうであっても、「○○してほしい」と考えた自分なりの理由まで否定する必要はありません。して欲しいことの形を変えればいいだけです。
ここで自分なりの理由まで否定しようとするから、共感が苦痛になってしまうのです。
共感したとしても、相手は相手、自分は自分です。
その境界線は守りましょう。
アドバイス3:反対意見を言ってもいい
共感は同意でも賛成でもありません。
「理解する」ための作業です。
相手がどのように辛いのか、困っているのか、を理解しないままでは一緒に生活するのが難しいから、共感をするのです。
共感したことで理解した結果を踏まえて、「でも自分は○○だと思う」という意見を伝えてもいいのです。
もちろん伝え方に工夫は必要ですね。
まとめ:共感は我慢ではない
何故家族相手に共感が難しいと感じるのでしょうか。
それは「自分側が我慢している」と感じるから、ではないでしょうか。
我慢とは、何かをねじ伏せる行為です。
相手に共感することで、それと反する自分の感情や考えをねじ伏せなければいけない、と思ってしまうと、確かに共感は難しいでしょう。
共感は、我慢や同調ではありません。
相手を深く理解することで、質の高いコミュニケーションを実現するための行動です。
精神疾患の家族に共感した結果、自分とは考えが違う、と思ったら、次の段階へ進みましょう。
それは相互理解と妥協点を探るための会話です。
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