受け入れる力が心を強くする—ネガティブ思考に勝つ方法
「ネガティブ思考は拒絶するより受け入れろ」と言われても、すぐにその通りに出来る方は少ないでしょう。
ネガティブ思考・感情を受け入れるには、適切なステップがあります。
それを知らないで受け入れようとすれば、反動で更にストレスが高まるか、自分への自信を失います。
まずは苦痛な感情や思考を受け入れるための準備条件を知り、整えてから向き合いましょう。
苦痛な感情・思考を否定する仕組み
自分を何かから守ろうとする目的がある
不安、焦り、恐怖、恥、孤独、怒り、妬み、葛藤。
これらの感情や、そこから生まれた考えは、やはり愉快なものではありません。
何故なら自分に危害を加える可能性が高い感情だからです。
虫が苦手な人が、目の前に虫が飛んで来たら焦って追い払います。それと同じことを感情や思考に対しても行っているのです。
更には心身への脅威については全力で回避しようとするでしょう。
- 受け容れられない
- 無いものとしたい
- 今すぐ打ち消したい
その気持ちが高まり、向き合うなど論外になります。
否定することで別の問題が起こる
怖いものや不快なものを回避するのは生物の本能です。それが虫や天候、障害物など目に見えるものなら回避することは可能です。
しかし感情や思考は目に見えません。虫を叩き落とすように不快感情を完全に打ち消すことは無理なのですが、つい虫と同じように打消せる、と考えてしまいます。
目に見えないものを無暗に打ち消すことに夢中になると、出来ないことに囚われてしまいます。
結局上手くいかず、徒労感と無力感に囚われて、元々のネガティブ感情や思考とは別のストレスを抱えることに繋がってしまいます。
否定できたとしても一時的
ネガティブな感情や思考を打ち消すために、反対の性質を持つもので低減する、と言うのはよく使われる方法です。
- 気分転換
- リフレッシュ
- ポジティブシンキング
などです。
こうした方法によってネガティブ感情・思考は和らぐことが期待できます。
しかし、ほとんどが一時的な低減です。
そこで気持ちが楽になったことで対策の手を止めてしまうと、しばらくするとまた最初のネガティブが蘇ってしまいます。
「さっきまで楽になれていたのにどうして……」と、別のショックを受けてしまいます。もう一度気分を楽にしたくて、一度使った方法に没頭してしまいます。また楽になれるけど長続きしない、というサイクルに陥ってしまうのです。
苦痛な感情・思考を受け入れるメリット
本能との戦いから解放される
では逆に苦痛な感情・思考を避けずあえて向き合った場合に何が起こるか、を考えてみます。
まず、自分自身の感情と向き合うことで、抑え込んでいた自分の本心を解放することが出来ます。
ネガティブ感情は、脳の扁桃体という部分から発せられます。これは本能的に危険を知らせるための機能を持っています。
苦痛感情・思考を抑え込んだり回避するのは、その危険信号を無視することです。無視すればするほど信号は強くなり、逃げ場がなくなります。
それよりも感情と向き合うことで、自分は何を恐れているのか、を知ることで、危険信号との無益な戦いが終わります。
自分の思考パターンを理解し、今後の対策を立てられる
どんな出来事や状況からどんな感情や思考が喚起されるかは人それぞれです。
朝起きた時雨が降っていた場合。
それでも仕事に行かなければいけない人は「面倒だな」と気分が暗くなるでしょう。
しかし運動会が中止になればいい、と思っていた小学生は「やった!」と小躍りするかもしれません。
ネガティブな思考や感情と向き合うことで、自分が
- いつ
- 何に対して
- どんな時に
どんな思考・感情を持つのか、のパターンを知ることが出来ます。
それによって今後の選択・決定・行動の基準を立てることが出来るでしょう。
心の回復力(レジリエンス)が高まることで、ネガティブ体験が怖くなくなる
苦痛な感情や思考と向き合うことは、一見高ストレス体験です。
しかし以上でお話してきたメリットによって、あえて向き合うことで自分の対処能力を信じ、育てることが出来ます。
「ネガティブなことが起こっても、自分はそれに対処することが出来る
そこから学びを得てもっと成長することが出来る。
ネガティブ感情に本当の意味で負けることはない」
と実感出来るようになります。
これが「レジリエンス」です。
自分にレジリエンスが備わっていることが分かれば、多少のネガティブ体験は怖くなくなります。
苦痛な感情・思考を受け入れるためのステップ
苦痛な感情・思考は、いきなり受け入れることは難しいです。自然な流れがあります。それを無視して「受け入れなければ行けない」と考えて無理をするのは、無いものとして扱うのと同様で二次的なストレスを抱えることになりかねません。
まず、苦痛感情・思考によって自分が受けたダメージをケアすることが大事です。目的地へ向かうために歩いている途中で転んでけがをしたら、怪我の手当てをしないまま歩き続けるのは無謀です。
次に苦痛感情・思考が持つメッセージを受けとりましょう。
同じ仕事をしたのに自分ではなく他のメンバーが上司から褒められた、と言う場合。自分の頑張りが認めてもらえなくて悔しいし、存在が軽んじられたようで腹が立ちます。周囲に対する恥ずかしさも感じるでしょう。同僚への妬ましさも感じるかもしれません。
この場合、自分は本当はどうしたかったのでしょうか。同僚を押しのけて自分だけが褒められたかったのでしょうか?
恐らくそれも違います。自分も同僚と同じように認めてもらいたかった、強くそう思うくらい今回の仕事は熱心に真剣に頑張った。その気持ちは同僚に負けるものではない、ということを他人に気づいてもらいたかった、と言うことかもしれません。
だとすると自分がこだわっているのは「同僚だけが褒められた」現象ではなく、今回自分が特に努力出来た、という実績です。
それが自分にとって価値がある、ということを教えている感情かもしれません。
そして苦痛感情・思考と向き合う時は長期的な視野を持つことも重要です。
ネガティブと向き合うその瞬間はとってもしんどいしストレスがかかります。しかし今30分かけて向き合うことで、今後の行動の幅が広がっていくとしたら、その30分には大きな価値があります。
セルフケア→メッセージを読み取る→長期的視野でとらえる、ことでネガティブ感情を受け入れることが出来るようになります。
この3ステップを実行するために必要なのが、これからお話する3条件です。
苦痛感情・思考からの脅威を減らす条件① セルフコンパッション
セルフコンパッションとは
コンパッションとは「慈悲」です。セルフコンパッションとは自分に対する優しさ・共感・労わりを指します。
苦しんでいる自分に対し、つい「こんなこと気にしちゃいけない、気にするのはいけないことだ」と叱咤・批判しがちです。しかしそれは最初にお話した「自分の感情を否定する」ことに繋がります。
自分で自分を慈悲的に扱うことで、
- 安心、落ち着き
- 開放性、楽観性
- 他者との繋がり
- 自己効力感
- 好奇心
- 自分の人生に対する満足感
- 健康、ウェル・ビーイング(幸せ)
- 視点の拡大
- 感謝
を実感することが出来、それによって自己批判と自己攻撃の嵐から自分を救うことが出来ます。
苦痛と向き合うためにはセルフケアが必須条件
前提条件としてセルフケアが必要なのは、やはり苦痛感情・思考は自分を苦しめるものだからです。
いつ終わるか分からない悲しみや、実現してしまうかもしれない不安はダイレクトに身体に影響します。
危機状況に対応するために血圧が高くなり心拍数が上がり体中の筋肉が緊張して力が入ります。リラックス状態に切り替わることが出来なくなります。
その状態が続けば心も体もバランスを崩し健康が損なわれます。
それを回避するために、多くの人は苦痛を見て見ぬふりをするか、強引にポジティブな体験に置き換えようとします。しかし短期的な効果しか望めないため、またすぐストレス状態へ戻ってしまいます。
ストレス状態が続かないよう、そこから回復する手段としてセルフケアが必須になります。そして自分で自分をケアすることが出来ると分かっていることが、苦痛への抵抗感を下げてくれます。
≪こちらも読まれています≫ コンパッションで心の回復力を育む:思いやりが支えるレジリエンス
苦痛感情・思考からの脅威を減らす条件② 心理的安全性
心理的安全性とは
心理的安全性とは、「自分が何を言っても非難・批判されない」と信じられる、発言の自由が補償されている場、という意味です。
心理的安全性とは、アイデア、質問、懸念、間違いを率直に話しても罰されたり屈辱を受けたりしないという信念です。
チームにおいて、他のチームメンバーに恥じることなくリスクを負うことができると信じているチームメンバーを指します。
職場でも家庭でも、自分の意見が批判・非難されるかも、と懸念する場では本当の意見など言えません。どんなに正しく価値がある意見であっても、心理的安全性が保障されない場ではただ場の空気に流されるだけです。
苦痛を苦痛だと感じることが出来ない環境では、自分のネガティブ感情と向き合うことに前向きになれません。
だからこそ、心理的安全性が必要なのです。
意見や感情を解放できる場・条件・方法を考える
どんな場なら自分の意見や感情を素直に表現できるか、も、人それぞれです。
一般的に好まれるのは次のような条件が揃った場です。
- 批判的な言葉を使わない
- 役職の上下はあっても発言権に上下が無い
- ミスや失敗に対して責任を求めない
- 具体的で建設的な対応策を提案してもらえる
自分に対して批判的な言葉を使わない、何かあった時の責任をどうする、と考えないということはもちろん、誰かに悩みを相談するときにはこうした場を守ってくれる相手を選ぶことが重要です。
逆にSNSなど不特定多数の目に触れる可能性がある場は、心理的安全性という意味では不向きと言えるでしょう。
また、ソーシャルワーカーやカウンセラー、医療関係者など、メンタルケアの専門家に話す、と言うのも選択肢の一つです。
≪こちらも読まれています≫ 心理的安全性とうつ病家族
苦痛感情・思考からの脅威を減らす条件③ ラベリング
ラベリングとは
ラベリングには色んな意味がありますが、今回は特に「感情のラベリング」について考えます。
感情とは、意外ともやもやして漠然としています。そう簡単に言語化出来ません。しかし人は言語で思考し、対策を考えて取り組みます。モヤモヤと正体不明のままでは対処が出来ません。
もやもや・漠然としている感情にラベル=名前を付けて言語化することで、受け入れやすくする「形」を与えるのが感情のラベリングです。
ラベリング方法の一つ「フォーカシング」
フォーカシングとはジェンドリンが開発した心理療法の一つで、自分の心や体に現れている微妙な感覚に注意を向けて、その感覚に合った言葉を見つけていく作業です。
方法は以下の通りです。
- 自分の内側に注意を向ける
- 体や心、周囲のどこで感じているのか、を突き止める
- 感じたもの(フェルトセンス)を捉えたら、しばらく一緒にいる
- フェルトセンスと対話する
- 対話しながら、フェルトセンスの形・重さ・材質を想像する
- フェルトセンスに一番似合う言葉を見つける
ここで見つけた言葉や表現を「ハンドル」と呼びます。つまりとっかかり・手掛かりです。
出来るだけ感覚に忠実に言語化しましょう。
難しい名前を付ける必要はありません。
- ツンツンくん
- プルプルちゃん
- イガイガさん
感覚に忠実に表現することで受け入れることへの抵抗感がなくなります。また、苦労してつけた名前には愛着がわきます。すぐに拒否せず共存することが可能になります。
≪参考情報≫ ラベリング効果(SBSマーケティング)
まとめ
- 苦痛な感情・思考を否定してしまうのは、自分を守るため
- 苦痛な感情・思考を受け入れることで、自分に自信を持てる
- 苦痛な感情・思考は、長期的視野を持つことで可能になる
- ネガティブ感情からの脅威を低減する3条件
苦痛に感じる感情や思考は、その時点ですでに自分に危害を加える可能性を感じさせるモンスターです。目に見えないからこそ実際より強く大きく感じ、それが更に受け入れることへの抵抗感と高めます。
盲目的に受容しようとするのではなく、条件を揃え、受け入れるまでのステップを知ることで、現実以上の恐怖を抱かず、強引で短期的な方法に走ることなく受容することが出来るのです。
是非実践してみてください。
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