うつ病の回復を支える家族へ|日常でできる3つの関わり方

『私の家族のうつ、いつ良くなるのかな』
家族の心の病に対して、こんなつぶやきを何万回も繰り返してきたのではないでしょうか。
病院も行ってる、薬も飲んでる、無理をさせないように気を付けて出来るだけ楽に過ごしてもらってる。確かに前より動けるようになってる気もするし、さらに悪くなることもなさそう。
だけど……。
そう、この「だけど」が私たちケアラーの心を暗くします。
『もっと元気になって欲しい』
『病気になる前と同じくらい、色んな事が出来るようになって欲しい』
『せめて私一人で全部やらなきゃいけない状態を終わりにしたい』
こうしたごく当たり前で切実な願いを、なかったことにしようとしてきたのではないでしょうか。
なぜなら、どうすればこれらが実現するか、が分からないから。
今日は、どうすればこうした私たちの願いが叶うか、についてお話したいと思います。
目次
- 1.うつ療養サポート:多くの家族が最初にたどる道
- 2.うつの回復は、薬+休養以外にもできる事がある
- 3.急性期を脱したら、うつ病の回復のためにできる事は色々ある?
- 4.うつ病の回復のためにできる事①:環境調整と生活改善
- 5.うつ病の回復のためにできる事②:コミュニケーションを変える
- 6.うつ病の回復のためにできる事③:成功体験で自信を回復
- 7.うつ病の回復のために家族がこの3つに取り組む必要性とは
- 8.まとめ
- 『うつになった家族のために、私ができることって?』
1.うつ療養サポート:多くの家族が最初にたどる道
うつ病かな、と思ったらどこかのタイミングで病院に行きます。そして
- 眠れない
- 起きられない
- 考えがまとまらない
- 食欲がない
- 外に出るのが怖い
と言った代表的な症状がみられると、何らかのお薬を処方してもらって数週間の休養を進められます。そして家族も医師の指示に沿って本人が楽になる様、生活上でサポートをします。
ここまではどんな方もきっと同じだと思います。
この先が、実は結構ブラックボックスです。はっきりした答えが用意されていないからこそ
『しばらくゆっくり休養して様子を見ましょう』
の通りにしつつ、「しばらく」が数週間を超えて数ヶ月に及んでくると、少しずつ家族側に不安が膨らんできます。
「いつまでこの状態を続けたらいいのだろう」と。
私もそうでした。そして悩み続けて、次の考えが浮かび上がります。
「家族の私がなんとかしなくては」
とはいえ、何をしたらいいのか分からないですよね。私もめちゃくちゃ悩みました。
だって本やネットで勉強したって何も具体的な情報が見つからないのですから。
それでも私たち家族は考えます。
「家族の私がなんとかしなくては」の結果、
『もっと○○してみたら?』
『そろそろ復職について考えたほうがいいんじゃない?』
『病院以外にも相談してみる?』
のような、うつ本人への働きかけが増えていきます。
これがうつ病患者家族がぶつかりやすい『壁』です。
家族が出来るうつ回復サポートは、私も含めて、本人のお尻を叩いてやる気を取り戻すことだ、と思ってしまうのです。
もちろん間違いではありません。家族にしか言えないアドバイスや励まし方もあるでしょう。
しかしタイミングと言葉を間違えると、うつの症状だけでなく家族間の関係も揺らいでしまう危険もあります。
家族が支えなければ、という気持ちだけに押し流されて動くには、非常にセンシティブな問題なのです。
2.うつの回復は、薬+休養以外にもできる事がある
ここまで読んで
『確かにそうかも。なら、自分たち家族はどうすればいい・どうすればよかったのだろう』
という疑問を抱かれたと思います。
服薬と休養以外できる事が見当たらないとしたら、逆に言うと、この二つはしっかりできているのに想定通りに回復しないのはどうしてなのか、とも思われたかもしれません。
だからこそ、ここから先が重要になります。
うつに限らず、病気は患者にとっては生活そのものになります。主治医に会うのは数週間に1回、月に1回程度ですが、家族は「病気が日常」になった患者と一緒にいるのが「日常」です。
誰よりも側にいて、かつ、うつ本人ではない。
そして本気でうつ病から回復して欲しいと願っています。
なぜなら、家族のうつ病は自分の生活・人生に計り知れない影響を及ぼすからです。
本気で良くなって欲しいと思っている動ける人=試行錯誤できる人、それが家族です。
こんなに強力な支援者は他にいません。もちろん、完璧である必要はないし、家族ごとの事情は皆さん違いますから出来る範囲から取り組むことが一番です。
そんな家族が、毎日一緒にいる時間を使ってうつ回復に効果がある関わり方が出来たら、どれほど効果的だろう、と思いませんか?
そして家族だからこそできる「日常生活でのうつ回復サポート」があります。
それが
- 生活改善と環境調整
- コミュニケーション
- 成功体験で自信を回復
です。
3.急性期を脱したら、うつ病の回復のためにできる事は色々ある?
急性期とは、人によって前後しますが、発症から3ヶ月目くらいまでの最初の時期をさします。
この時期はとにかくうつの症状が一番重いので、お薬飲んでご飯食べて寝る、くらいで十分です。それ以上のことを要求するのは逆効果ですし、多分出来ないでしょう。出来なくて当然です。通院すら相当気力体力が消耗します。
もし今ご家族がこの「急性期」に該当するなら、家族は文字通り見守りに徹しましょう。それが一番効果的です。
うつ病回復のために何かするタイミングではないので、逆に生活の土台を整えたり、自分自身の相談相手を探す、といった時間に充てるのがいいかもしれません。
そこから少し安定・回復し、小さなことでも「自ら動く」様子が伺えたら、こちらも「家族が出来るうつ回復のお手伝い」のタイミングが見えてきます。
ちなみに
- 自分でカーテンを開ける
- テレビをつけたり、スマホを手に取ったりする
- 自分から挨拶をする
などは、一見小さいようで、うつ病の人にとってはとても大きな行動と言っていいと思います。
急性期を超えて回復・安定の兆しが見えてきたら、先ほどご提案した
- 生活改善と環境調整
- コミュニケーション
- 成功体験で自信を回復
に、この順番で取り組んでいきます。
なぜこの3つが、薬を飲んだりゆっくり休養することと同じく必要なのか。
それは、最終的に「もう一度社会の中で生きていく勇気」を取り戻すため、と言えるでしょう。
≪おすすめコラム≫うつ病回復と家族のかかわり方|3つのフェーズと対応のヒント
4.うつ病の回復のためにできる事①:環境調整と生活改善
①環境調整
ここからは、家族でも出来る具体的な工夫を見ていきましょう。
最初は環境を整えることです。
うつ病は、外出したり何かを考えたり人と会って会話をする、といった行動のエネルギーは極端に少なくなります。
それと反比例するように、小さな音・光・匂い・人の声などに過敏になります。それ自体に何か悪意があるわけではなくても、ストレスに感じてしまって心が休まりません。
1日中お布団の中で過ごしていても回復が難しいのは、そうした刺激から受けるストレスで心が疲弊してしまうことが多いからです。
なので、まずは本人が『しんどい』と感じる刺激を減らし、安心感を得られる生活環境を整えましょう。
例えば、
- 電話の着信音やインターフォンの音が怖い⇒極力小さくする
- 蛍光灯の光が明るくて疲れる⇒昼光色の電球に変える
- お隣の生活音が気になる⇒家具を移動させて聞こえづらくする
などですね。
更に、
- 小さな観葉植物を置く
- カーテンの色を本人が好きな色のものに変える
- 洗濯洗剤を無香料にする
というプラスαの対策も考えられるでしょう。
ポイントは、気持ちややる気のような形が無いものを使うのではなく、道具を使って出来ることを考える、という点です。
うつ本人も家族も、気持ちを使うのは疲れます。道具を有効活用しましょう。
②生活改善
次は生活改善です。と言っても生活全部に手を付ける必要はありません。
大事なのは生活リズムです。
うつ病の人のほとんどが眠ることが出来なかったり、逆に昼間眠り過ぎたりしてしまいます。これは身体に非常に大きな負担をかけます。
なぜなら人間は昼間起きて活動することで健康をキープ出来るように、体の仕組みが出来上がっているからです。
とはいえ、寝ようと思っても寝られないし、起きようとしても起きられないのもまたうつ病です。
「起きよう」とするのではなく、まずは夜しっかり眠れるようになるのが第一歩です。
主治医から処方された睡眠導入剤があれば、医師の指示通りに服用します。
それだけでは本人が「ちゃんと眠れている」と思えない場合は、次の点を工夫してみましょう。
例えば、
- 寝室の環境を快適にする
- 寝具を本人が眠りやすいものにする
- 日中、リラックスして過ごせる場所を1か所作る
- 食事の時間を工夫する(眠る2時間前には食事を済ませる)
- 寝る30分前からは、テレビ・スマホ・パソコン・ゲームを控える
などを、無理のない範囲で取り入れてみましょう。
これもまた先ほどの環境調整と同じく、道具を活用することがポイントです。
5.うつ病の回復のためにできる事②:コミュニケーションを変える
二つ目はコミュニケーションです。
うつ病の家族に限らず、コミュニケーション、と聞くと「何を言うか」に意識が集中しがちです。
でも「なにか相手の役に立てることを言わなきゃ」と緊張度を上げてしまうから考えすぎてしまうし、それに対する相手の反応が想定外だとショックを受けてしまいます。
コミュニケーションとは「言う」だけではないですよね。聞く、感じる、反応を返す。こちらの方が特にうつ病の人に対しては非常に重要です。
ここでは3つの関わり方をご紹介します。これらは意識するだけでも違ってきます。
①傾聴
この項目は少しだけ専門用語が出てきますが、しっかり解説するのでご安心ください。
傾聴とは、ただ「聴く」だけではありません。
相手の話す言葉だけでなく、
- 目線、仕草、声のトーン、話す速度、沈黙、こちらとの距離感、体の向き
- どんなテーマの時に、どんな表情をするか
- 相手が今置かれている状況、事情、環境
こうしたものから「今この人は何を伝えようとしているのだろう」を聞き取ることが「傾聴」です。
なぜうつ病の人に傾聴が必要なのでしょうか。
それは、うつ病の人は会話をすること自体が大きな負担だからです。何を話せばいいのか考える脳内エネルギーも病気のせいで不足していますし、人によっては「会話」事態が恐怖なこともあるでしょう。
だから話し言葉だけでコミュニケーションを取ろうとすると情報不足になり、それが誤解やすれ違いを生んでしまいます。
うつ病の人の少ない会話量を補うために、傾聴の姿勢が必要になってきます。
②共感
共感って一般的な言葉ですが、一般的過ぎて人によって解釈が色々ある難しいコミュニケーションだと思います。
私が今回お伝えしたい共感は、「あたかも相手になったつもりで相手の気持ちを感じる」向き合い方です。
私たち支える側の家族は、うつ病を経験したことがない人がほとんどだと思います。自分が経験したことがないことって、実際どんなものなのか、リアルに想像するのは難しいですよね。
そしてうつ病の人にとっては、身近な人が自分の辛さを理解してくれる、または理解しようとしてくれていることがとても大きな支えになります。
なぜなら、うつ病を悪化させる要因の一つが「孤独」だからです。孤独とは人間が誰もいないことではなく、自分に興味を持って寄り添ってくれる人がいないことです。共感は、その孤独を和らげてくれます。
自分は経験したことがないけれど、「傾聴」で集めた情報を元に、自分の中に相手の心情を再現します。完璧である必要はありません。相手と並んで同じものを見るイメージです。
そうすることで、今うつの家族がどんな気持ちでいるのか、を、かなりリアルに疑似体験することが出来ます。
これが共感です。
③コンプリメント(承認)
再び聞き慣れない言葉が出てきましたが、コンプリメント(Compliment)とは直訳すると「褒める、賞賛する」という意味です。そこから更に広げて、相手の感情・考え・行動に対して前向きなコメントを返すことです。
うつ病の人は病気の症状のせいで、後ろ向きな発言が多いです。
「こんなことしかできない」
「この程度しか出来なかった」
「こんなことも時間がかかるようになった」
これは病気の前の自分や、周囲の人と比較した正直な感想かもしれません。しかし「うつ病である」という前提を考えれば、出来たことがあるならすごいことですよね。
それを私たち家族が見逃さず、前向きな視点から「承認」するのがコンプリメントです。
「今日はこれが出来たんだね」
「ここまで頑張ったことがすごいよ」
「時間がかかったっていいんだよ、出来たんだから」
など、こちらが気づいた事実を丁寧に拾って相手に伝えましょう。
これを繰り返す事で、うつ本人の自信が少しずつ少しずつ回復していきます。
≪おすすめコラム≫もっと誉めよう!:コンプリメントの力で変わる自信と関係
6.うつ病の回復のためにできる事③:成功体験で自信を回復
そして3つ目が、うつ本人に自信を取り戻してもらう関わり方です。
これは、安定している状態が数カ月続いて、「そろそろ復職もできそうかな」と思えるようになったタイミングがいいでしょう。あまり早すぎると本人のプレッシャーになる恐れもあります。
うつ病になる前後とは、それまでの自分の自信や常識や信じていたことが全部否定されるような体験が立て続くことが多いです。
そして「もうこれ以上どうしたらいいか分からない」と途方に暮れて、それでも投げ出さず努力し続けたことで心身がパンクしたり、あるいは環境や出来事が重なった結果、うつ病を発症することがあります。
うつ病になった、ということは、その人は自分への信頼がほぼなくなってしまっている状態、と言っていいかもしれません。
自信がないって、実は非常に困った事態を引き起こします。
例えば自分の考えや行動に自信が持てなければ、今日何を着て、何時に家を出て、どのルートを使って目的地に行けばいいのか、すら決めることが出来なくなります。
毎日の生活を滞りなくこなすためには、人は自分に自信を持っている必要があるのです。
そしてうつ病の人は、生活するのに困らないだけの自信すら奪われている状態です。これはお薬を飲んだり休養しているだけでは中々復活しにくいです。
そこで、私たち家族の出番になります。
毎日の生活の中で、小さな小さな「挑戦」を促し、それを丁寧にコンプリメント(賞賛・承認)していく。この関わりが、うつ本人の中で
「もう自分に出来ることはないと思っていたけど、そんなことはないかもしれない」
という変化に繋がります。
まずは家の中だけで十分です。それでも急性期と比べれば、お茶を淹れたり、顔を洗ったり、自分でテレビをつけて見る気になっただけでも大きな変化ですよね。
ただ行動するだけではなく、それを間近で見ている私たち=他人が気づいて評価することで「成功体験」化しやすくなります。
これを積み重ねることで、やる気を取り戻す準備が整います。
ここまで来たら、回復への流れは確実にできています。

7.うつ病の回復のために家族がこの3つに取り組む必要性とは
家族が出来るうつ回復の取り組み3つ、ここまで読んでくださってありがとうございます。
少々長くなってしまいましたが、如何でしょうか。
どれか1つのテーマ、または何か1つの「やってみようかな」が見つかれば幸いです。
なぜ、家族がこの3つに取り組むことを、私がおすすめしているのか。
それは冒頭でお話したように、常に一緒に生活している家族が、その日その時の状況に合わせて本人の「できる事」に寄り添えることが、うつ病患者の孤独を癒し、心身の土台を整え、少しずつ無理なく自信を育てていけるから、というのが1つです。
もう一つは、私たち家族側のため、と言えるでしょう。
私たちは毎日が不安と疲労の連続です。自分自身が病気ではないからこそ「私が何とかしなければ」という責任感で、時には押しつぶされそうになることもあるでしょう。私自身がそうでした。
そして特に「これからどうなるんだろう」という不安に対処できるのは、「自分に出来ることをやっている」という自信です。
まったく何もしていないわけではない、出来る範囲で出来るときに出来ることをやっている、それは自分だけじゃなくうつ本人もそうなのだ
という実感が、この自信を育ててくれます。
うつ病の回復のために重要なのは、私たち支える家族の心身の健康と自信なのです。
8.まとめ
うつ病の回復は、決して一直線ではありません。
良くなったと思ったら足踏みしたり、また少し後退したように感じる日もあります。
そんな中で、家族としてできることを探し続けるのは、とても大変なことです。
「この関わりで合っているのかな」
「何か間違ったことをしていないかな」
そう自分を責めてしまう日もあるでしょう。
今回お伝えしてきた
- 生活改善と環境調整
- コミュニケーション
- 成功体験で自信を回復
この3つは、うつ病を「早く治す」ための魔法ではありません。
でも、うつ病の人が孤独にならず、心と体の土台を整え、「また生きていけるかもしれない」と思える感覚を、日常の中で少しずつ取り戻していくための、現実的で無理のない関わり方です。
そして何より大切なのは、家族であるあなた自身が、ひとりで抱え込まないこと。
完璧にやろうとしなくていいし、出来ない日があってもいいのです。
もしこのブログの中で、
「これなら出来そう」
「これは今の自分たちに合っているかも」
と思えるものが一つでも見つかったなら、十分です。
あなたが今日まで続けてきた見守りや悩みそのものが、すでに大切な支えであることを、どうか忘れないでください。


