ケアを通して「自分」と出会うときー共感疲労が教えてくれる心のサインとは

~ケア生活の中で、自分の心に気づく瞬間~
家族をケアする日々の中で、ふとした瞬間に「どうして私、こんなに疲れているんだろう」と感じたことはありませんか?
身体が動かないわけではないのに、心が重い。涙が出る。人に優しくできなくなっている自分がいる。
そんなとき、あなたの中で起きているのは「共感疲労」かもしれません。
そして、それは単なる「疲れ」ではなく、あなた自身の心が発している大切なサインです。
目次
- 共感疲労とは?
- 共感疲労が「自分自身」を浮き彫りにする
- 共感疲労から回復するために「自分と出会う」
- 共感疲労と上手に付き合うためにできること 7選
- 【まとめ】「共感疲労」は心の声。自分との出会いのチャンスに
共感疲労とは?
人のために動く人ほど、疲れてしまう理由
共感疲労(compassionfatigue)とは、他者の苦しみやつらさに共感することで、心がすり減ってしまう状態を指します。
医療・福祉・教育など、対人支援の現場でよく使われる言葉ですが、実は家族をケアする立場の人たち(ケアラー)も深く影響を受けやすいのです。
家族の苦しみに寄り添いながらも、「何とかしてあげたい」という思いが強くなるほど、自分の感情を脇に置きがちになります。
そして、いつの間にか心が消耗してしまうのです。
共感疲労と燃え尽き症候群の違い
「燃え尽き症候群(バーンアウト)」と混同されがちですが、共感疲労はもっと感情的なレベルでの消耗が特徴です。
「なぜか気分が落ち込む」
「相手の痛みが自分のことのように感じる」
「何もしていないのに疲れる」
そんな状態が続いていたら、共感疲労を疑ってみてください。

共感疲労が「自分自身」を浮き彫りにする
「なぜ私だけが…」という思考の背景にあるもの
ケアをしていると、「どうして私だけがこんなに頑張らなくちゃいけないの?」という思いが湧いてくることがあります。
でもその感情の裏には、これまで自分を後回しにしてきた生き方や、「ちゃんとしなければ」という思い込みが潜んでいることも少なくありません。
共感疲労は、「優しさ」が原因のように見えて、実は自分を置き去りにしてきた“無意識の選択”を見つめ直すチャンスでもあるのです。
感情の揺れを通して見えてくる“過去の私”
誰かをケアしていると、過去の傷が突然浮かび上がることがあります。
「あの時、誰も助けてくれなかった」
「私だって、誰かに甘えたかった」
それは、自分の中にある未処理の感情やトラウマが、相手の苦しみに触れることで刺激されている状態です。
ケアを通して「他人の痛み」に共感しながら、本当は“自分の痛み”と再会しているのかもしれません。

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共感疲労から回復するために「自分と出会う」
自分の気持ちに気づく力=感情の自己認識
「疲れた」
「しんどい」
「泣きたい」
その感情に、どうかフタをしないでください。
名前をつけてあげるだけでも、人は心を整える力を取り戻せます。
日記やジャーナリング、感情日記など、言葉にして「今の自分」と対話することで、少しずつ感情の自己認識力が育っていきます。
自分の気持ちに気づく力=感情の自己認識とは何か
「疲れた」「しんどい」「泣きたい」
こうした感情にフタをしてしまうこと、ありませんか?
でも実は、感情を見て見ぬふりすることこそが、心のエネルギーをさらに奪う原因になることがあります。
私たちが感じた感情にきちんと名前をつけて認識することは、心理学の分野では「情動認識(EmotionalAwareness)」や「情動明晰性(EmotionalClarity)」と呼ばれます。
■感情に名前をつけると、なぜ心が整うのか?
これは情動調整理論(EmotionRegulationTheory)に基づく理解です。
心理学者ジェームズ・グロス(JamesGross)の研究によれば、人は感情を自覚することによって、より健全な方法でそれを処理し、調整する力が高まるとされています。
たとえば、
「イライラする」という感情が実は「心配」や「不安」だった
「疲れた」と思っていたのは「怒りを飲み込んできた」反動だった
というふうに、感情の背景を正確に捉えることができれば、無意識の反応ではなく、意識的な対処が可能になります。
■アレックスシサイミア(失感情症)との関係
また、感情に気づく力が弱くなっている状態は、心理学では「アレキシサイミア(Alexithymia)」と呼ばれます。
これは「感情の識別や言語化が苦手な傾向」のことで、共感疲労が蓄積したり、心の防衛反応が強まっているときに現れやすいとされています。
家族をケアしている方は、自分の感情より相手の感情を優先する日常を送りがちです。
その結果、自分の心の声に鈍くなってしまうことがあります。
■言葉にすることで心が整う理由〜“ネーミングの力”〜
感情に言葉を与える行為は、心理学では「ラベリング(AffectLabeling)」と呼ばれています。
UCLAのマシュー・リーバーマン博士の研究では、「怒り」「不安」「悲しみ」といった感情をただラベリングするだけで、脳の扁桃体(恐怖や怒りに関わる部位)の活動が落ち着き、前頭前皮質が活性化することが分かっています。
つまり、「私は今、不安を感じている」と言葉にするだけで、心の嵐は少し収まっていくのです。
自分をケアすることは、他者を支える土台になる
「自分のことばかり考えるなんて、申し訳ない」と感じてしまう方もいるかもしれません。
でも、心が空っぽのままでは、誰かに優しくすることも難しくなります。
あなた自身を大切にすることは、わがままではなく責任です。
自分のエネルギーを満たしてあげてこそ、本当に人を支えることができます。

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共感疲労と上手に付き合うためにできること 7選
共感の“ON/OFFスイッチ”を作る
共感疲労を予防・回復するには、「感情の距離」を取る練習も大切です。
自分の中に“共感のスイッチ”を作り、オンとオフを意識するだけでも、心のバランスが変わってきます。
「今日はしっかり共感する日」
「今日は自分の回復を優先する日」
そんなふうに、日によって意識を切り替えるのも、ひとつの方法です。
誰かに話す、頼る、つながる
共感疲労を抱え込まないために、信頼できる人と気持ちをシェアすることもとても大切です。
誰かに話すことで、自分の中のぐるぐるが少し整理されていきます。
もし周囲に話せる人がいない場合は、専門のカウンセラーや、同じ立場の仲間が集まるコミュニティに頼るのも良い選択です。
“共感する人同士が支え合う”つながりは、あなたの心に深く届くはずです。
心理的境界線(バウンダリー)を意識する
他者の苦しみに共感することと、感情的に巻き込まれることは別です。
「私は助けたいと思っているけれど、相手の人生の責任は相手にある」と線引きすることで、共感の疲れを防げます。
ソーシャルサポートを受け取る練習
「相談するのは迷惑かもしれない」という思い込みが強いと、孤立感や疲労感が増します。
意識して信頼できる人に話す/つながる場に身を置くことが、回復力(レジリエンス)につながります。
マインドフルネスで「今ここ」に戻る
相手の問題や未来への不安で頭がいっぱいになると、心が疲弊します。
呼吸や身体の感覚に意識を向けることで、思考のループから抜け出すことができます。
コンパッション(思いやり)を“自分にも”向ける
共感疲労が強くなる人ほど、「人に優しく、自分には厳しい」傾向があります。
自分にも「つらかったね」「よく頑張ってるよ」と優しい声をかけることが、自己回復力につながります。
「してあげなければ」ではなく「できることを」の発想へ
義務感や「自分が何とかしなきゃ」という思考は、燃え尽きのもとに。
「今日はこれだけやったからOK」と、小さな達成感を大切にする視点を持つことが、長期的なケアの持続につながります。
共感疲労に必要なのは「回復のルーティン」です。
ケアをしている人ほど、自分の心がすり減っていることに気づきにくくなります。
大切なのは、「疲れていい」「距離を取ってもいい」と自分に許可を出すこと。
「共感すること=自分を犠牲にすること」ではありません。
共感とセルフケアはセットであって初めて、健全な支え合いが続けられるのです。


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【まとめ】「共感疲労」は心の声。自分との出会いのチャンスに
共感疲労は、決して“優しすぎるからいけない”のではありません。
それは、あなたの中にある感受性とやさしさの証です。
ただ、いつも人のために心を尽くしてきたあなたが、「本当はどうしたいのか?」という声を聞くことも、同じくらい大切です。
ケアを通して出会った「自分の本音」や「過去の自分」こそ、これからのあなたの力になります。
疲れを感じたら、それは「心からのSOS」です。
立ち止まり、自分と向き合う時間をどうか大切にしてください。