家族との関係がギクシャク…上手なコミュニケーション 5つのポイント

家族がうつ病の人を支えることは、精神的にも身体的にも大きな負担を伴います。
最初は理解しようと努力していても、時間が経つにつれて「どう接すればいいのかわからない」「自分ばかりが頑張っている」と感じることもあるでしょう。
しかし、関係がギクシャクするのは、決して家族の努力が足りないからではありません。
うつ病の特徴や心理的要因を知り、適切なコミュニケーションを意識することで、少しずつ関係を良い方向へと変えていくことができます。
今回は病気によって家族との関係がギクシャクしたときのコミュニケーション上の対応方法をご提案いたします。
目次
- うつ病と家族の関係の難しさ
- ポイント①:相手の気持ちを否定しない–「共感」
- ポイント②:無理に励まさない–家族との関係は、ポジティブな言葉が逆効果になる
- ポイント③:家族との関係は適切な距離感を保つ–「過保護」も「放置」もNG
- ポイント④:家族との関係は、言葉以外のコミュニケーションを大切に
- ポイント⑤:自分自身を大切にする–家族のメンタルヘルスも重要
- おわりに:家族との関係は、完璧を求めず、少しずつ歩む
うつ病と家族の関係の難しさ
うつ病患者は「理解されていない」と感じやすい
うつ病の症状や特徴は色々ありますが、例えば「気持ちが落ち込む」「やる気が起きない」という症状は普通の人でも時々体験するものです。
ただし健康な人のそれとは質も程度も違います。
確実に病的な状態なのに、言葉にすると平凡なために「そんなことで?」と思われてしまいます。
家族もどう接していいかわからず、無意識に負担を増やしてしまうことも
それは家族であっても同じことが起こります。
最初は病気として受け止めサポート出来ていたとしても、家族側が何もかも背負い込むと急速に疲労とストレスが溜まります。
そして「気分が落ち込む」「やる気が起きない」状態が続きます。けれど家族は休まないしサポートも続けます。
「私だって大変な中頑張っているのに」という不満が、病気への理解しがたさへつながります。
ではこうした理解の難しさに、家族はどうやって対処していけばいいでしょうか。

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ポイント①:相手の気持ちを否定しない–「共感」
「頑張れ」「気の持ちよう」ではなく、「つらかったね」と受け止める
落ち込んだ人を前にすると、「頑張れ」「気の持ちようだよ」と言ってしまうことがあります。
それはネガティブさを否定し、その反対の状態であるポジティブさを目指してほしいと思うからだと思います。
突発的なアクシデントで落ち込んでいるだけならそれも一つのやり方です。
ただうつ病など精神疾患は一時的なものではありません。頑張ったり我慢したり気持ちを切り替えることを山ほどやりつくした結果なのです。
だから「頑張れ」と言われても何も感じないばかりか、「理解してもらえない」無力感と反発を高めてしまいます。
相手の言い分に賛成する必要はありません。
ただとても辛い状態にあることを否定しないことが大事です。
C.ロジャーズの「共感的理解」とは
共感的理解とは以下のような「態度」のことです。
- 相手の気持ちを否定せず、そのまま受け止めること
- 「正しい・間違っている」と評価せず、相手の視点で物事を理解しようとする姿勢
- 「同じ気持ちになる」のではなく、相手の感じていることをできる限り想像し、寄り添う
「人は自分を理解してくれる相手に心を開き、回復への力を発揮する」と述べています。
共感を受けた人は、以下のような心理的効果を得られます。
- 「理解されている」と感じ、安心する
- 「話しても大丈夫」という信頼感が生まれる
- 自分の気持ちを整理しやすくなる
特に、うつ病の人は「自分の気持ちが伝わらない」「誰にも理解されない」と感じやすいため、家族との関係は共感的理解が関係修復のカギになります。

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ポイント②:無理に励まさない–家族との関係は、ポジティブな言葉が逆効果になる
「大丈夫、何とかなるよ」はプレッシャーになる
なんとかなるよ、と言われても、ではそれはどうやってなるのか? が曖昧だと「気合でなんとかするしかない」という結論に至ってしまいがちです。
それはそのまま患者にとってプレッシャーになります。
具体的な方法は家族には分かりませんよね。
「大丈夫、何とかなるよ」は、実は家族がかけて欲しい言葉なのです。
でも誰も言ってくれないから、唯一の協力者のうつ患者に言ってしまうのでしょう。
この言葉が浮かんだらうつ本人に言うのではなく、専門家または経験者に相談しましょう。
「大丈夫、何とかなります。その方法は…」を提案してもらえることで、家族からうつ本人へかける言葉も変化していきます。
ポジティブ・トキシシティ(ToxicPositivity)が逆にストレスを生む
「ポジティブ・トキシシティ(ToxicPositivity)」とは、「どんな状況でも前向きでいなければならない」という考えが、逆にストレスやプレッシャーになってしまう状態のことです。
例えば、うつ病の家族に対してこんな言葉をかけたことはありませんか?
- 「元気出して!」
- 「前向きに考えようよ!」
- 「大丈夫、なんとかなるよ!」
人は、つらい気持ちを無理に消そうとすると、逆に心の負担が大きくなります。
ポジティブな言葉が「気持ちを無視された」と感じさせ、逆にストレスになってしまうのです。
家族との関係は無理にポジティブな言葉をかけるのではなく、「共感」を示すことが大切です。
- 「今、すごくつらいよね」(気持ちを受け止める)
- 「何かできることがあれば言ってね」(無理に解決しようとしない)
- 「そばにいるよ」(安心感を与える)
こうした言葉をかけることで、相手は「自分の気持ちをわかってくれている」と感じ、少しずつ気持ちが落ち着いていきます。
ポイント③:家族との関係は適切な距離感を保つ–「過保護」も「放置」もNG
「助けすぎる」と依存が生まれ、「距離を置きすぎる」と孤立感が強まる
うつ病の、特に初期はほんとうーーーーに何も出来ません。またはずーっと同じことだけやっています。一瞬見ただけでは分かりませんが、長時間観察していると「本当に病気になっちゃったんだ」という実感が湧いてきます。
だから家族はちょっとしたことでもお世話をしてあげたい、してあげなきゃ、と感じて実行します。
これは非常に難しい判断なのですが、「やり過ぎ」の状態が一定期間続くと、「やってくれて当たり前」になります。それは患者側だけでなく家族もです。
それは無意識に依存状態を作り出します。
逆に何もしない、というのはもちろんNGです。
うつ本人の日常生活がままならなくなることはもちろん、放っておかれることは即「孤独感」の増強に繋がります。
「何もしてくれない、言ってくれない、見てくれない」
「病気になった自分は家族にとって邪魔なんだ」
「自分には生きている価値はない」
と考えて、精神活動が活発化する時期まで続けば自殺企図に繋がりかねません。
うつ病が重くても自主性を尊重する
人が自発的にやる気を持つためには、3つの基本的な心理的欲求が満たされることが重要であるという心理学の理論があります。(自己決定理論)
- 自律性:自分で決める
- 有能感:出来ることがある、という感覚
- 関係性:人との繋がり
過保護も放置も、この3つとは反対の対応です。
まず本人がどうしたいと思っているのか、を聞き(自律性)、自分でどこまでならできるのかを考えてもらい(有能感)、出来ない部分を家族がサポートする(関係性)ことが大事です。

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ポイント④:家族との関係は、言葉以外のコミュニケーションを大切に
うつのときは「会話する気力」すらないことも
うつ病の人は、話す気力や言葉を選ぶ力が低下することが多いです。
「何か話さなきゃ」と思うだけで疲れてしまったり、会話の途中で思考がまとまらず、さらに落ち込むこともあります。
そのため、「言葉によるコミュニケーション」だけに頼るのではなく、非言語的な方法で気持ちを伝えることが重要になります。
≪非言語コミュニケーションとは≫
言葉を使わずに気持ちや意図を伝える方法のことです。
心理学者アルバート・メラビアンの研究によると、感情の伝達においては言葉よりも非言語的要素が大きな影響を持つことが分かっています。
メラビアンの法則(7-38-55ルール):人が感情を伝えるときの要素
- 言語(Verbal)(話の内容)→7%
- 声のトーン(Vocal)(話し方、抑揚)→38%
- 視線・表情・ジェスチャー(Visual)→55%
つまり、言葉の内容よりも「どんな表情で」「どんな声のトーンで」「どんな態度で」伝えるかが、相手に大きく影響するのです。
うつ病の家族との非言語コミュニケーションの方法
【アイコンタクト(視線)】
うつ病の人は、孤独感を感じやすく、人とのつながりを求めています。しかし、会話が負担になりやすいため、言葉を交わさなくても、目を合わせるだけで「あなたを気にかけているよ」と伝わることがあります。
- さりげなく目を合わせ、穏やかな表情でいる
- 長時間じっと見つめすぎず、プレッシャーを与えない
- 相手が視線をそらしても無理に合わせさせない
【ボディタッチ(触れ合い)】
触れられることで、脳内で「オキシトシン」というホルモンが分泌され、安心感やストレス軽減の効果があります。
うつ病の人は「誰かに受け入れられている」という感覚が薄れがちなので、軽いボディタッチが安心感を生むことがあります。
- そっと肩に手を置く
- 手を握る(嫌がらない場合)
- 軽く背中をトントンする
【一緒にいる(そばにいる)】
うつ病の人は「1人にしてほしい」と言うことがありますが、本心では「本当に1人になりたい」のではなく、「プレッシャーなくそばにいてほしい」こともあります。
会話をしなくても、ただそばにいるだけで「私はあなたを大切に思っているよ」と伝わります。
- 同じ部屋で静かに過ごす(スマホや本を読んでいてもOK)
- 「何かあったら話してね」と声をかける
- 相手が話し始めたら、しっかり聞く姿勢を見せる

ポイント⑤:自分自身を大切にする–家族のメンタルヘルスも重要
家族が消耗しないことが一番大事!
私もそうでしたが、心の病になった家族をケアする生活が当たり前になると、気づけば「自分のために時間を使う」ことが全くなくなってしまいます。
- 相手の状態
- 相手は何が出来ないか・したくないのか
- 家族として必要なタスクは何か
この3つが常に頭の中でぐるぐるして、「自分がどうしたいのか」が抜け落ちてしまいます。
そして気が付けば「自分がどうしたいのか」が全く分からなくなってしまうのです。
そうすると、ストレスを解消したり落ち込んだ気分を立て直すための方法が思いつかず、どんどんメンタルヘルスを損ない続けることになってしまいます。
場合によっては家族も心の病になり、共倒れ状態を引き起こします。
「自己充電」が必要な理由:バーンアウト(燃え尽き症候群)の防止
バーンアウトとは、「長期間のストレスや過度な負担により、精神的・身体的に疲れ果ててしまう状態」のことです。
特に、介護やサポートをする人(ヘルパー・家族・ケアラー)は、バーンアウトになりやすいと言われています。
「助けなきゃ」「自分が頑張らないと」と思いすぎると、気づかないうちに自分の心が疲れてしまうのです。
対策としては、趣味やリラックス時間を取ることで、ストレスを解消し、エネルギーを回復することが望ましいです。
「自分を大切にすること」が、結果的に家族を支える力につながる、と言うことだけは絶対に忘れないでください。
「フロー体験」によるストレス軽減
フロー体験とは、何かに集中し、時間を忘れるほど没頭する状態のことです。
例えば、
- 本を読んでいたら、気づいたら1時間経っていた
- 絵を描いていたら、すごくリラックスできた
- スポーツをしているときは、悩みを忘れられる
などの経験はあるでしょうか。
趣味や好きなことに没頭すると、ストレスが軽減され、幸福感が増すことが分かっています。
ポイントとしては、何でもいいので「自分が楽しいと思えること」をやることです。
義務感ではなく「自分の楽しみ」として日常に取り入れましょう。
自己肯定感を高めるための趣味
自己肯定感(Self-Esteem)が低いと、「自分は何をやってもダメだ」「価値がない」という気持ちになりがちです。
しかし、趣味を持つことで「できること」が増え、自信につながるという研究結果があります。
例えば、
- 「編み物をしていたら、かわいいマフラーができた!」→達成感が得られる
- 「料理をしたら、家族に喜ばれた!」→「自分にもできることがある」と感じられる
のようなものが考えられます。
何か一つでも「自分が好きで続けられること」があると、自己肯定感が高まり、精神的な安定につながります。

おわりに:家族との関係は、完璧を求めず、少しずつ歩む
うつ病の家族との関係を良好に保つためには、「共感を示す」「無理に励まさない」「適切な距離を保つ」など、相手の気持ちに寄り添った対応が重要です。
何よりも大切なのは、家族自身が消耗しすぎないことです。
サポートを続けるためには、自分の心の健康を守ることも欠かせません。
趣味や自分の時間を持つことでリフレッシュし、余裕を持った関わり方ができるようになります。
うつ病の回復には時間がかかるため、家族が無理をせず、適度な距離感を保ちながら支えていくことが、結果的に最善のサポートにつながります。
完璧を求めず、小さな工夫を積み重ねていくことが大切です。