相手の言いなりになる<前編>
家族、友人、同僚、上司。
いろんな関係の中で、自分の気持ちを押し殺して相手の言いなりになってしまうことがあります。
その場では自分なりの理由があって相手に合わせているけれど、それが習慣化してしまうとデメリットが大きくなっていきます。
どうして相手の言いなりになってしまうのか、繰り返すとどんな問題があるのか、言いなりになる習慣を止める方法はあるのか、について、考えてみました。
1.<事例>ある夫婦の会話
妻:(今年のゴールデンウィークはカレンダー通りかな。三連休くらいだと旅行は難しいかも)
夫:「GWだけど、思い切って海外行こうよ。有給取れるだろ?」
妻:「え?(取れるかな。ほかの人の予定もあるだろうし、会社に相談しないと)取れるかな」
夫:「明日会社行ったら申請しなよ。どこ行く?ツアー調べておくよ」
妻:「うん……」
2.妻側の気持ち
妻としては、「久しぶりに海外旅行行けるのは楽しみだ」という気持ちと「会社の都合もあるし、聞いてみないとわからない」「同僚に気を使いながら旅行行くなんてやだなぁ」という気持ちの間で即答できず、思わず「うん」と言ってしまいました。
その時、妻は
- 夫は言い出すと止まらない。私が賛成しなければすぐ機嫌が悪くなる
- 夫の機嫌を取るために気を遣うのは面倒くさい。それなら無理して旅行に行くほうが楽かもしれない
- 確かに久しぶりだし、次またいつ行けるかもわからない。普段から頑張ってるんだから同僚もわかってくれるよね
のように、よく考えるより先に「うん」と返事してしまった自分の行動に対して自分なりの理由付けをします。
どれも正しいものだと思います。
しかし、「本心」ではないのです。
夫の意見を受け入れるために無理やり整えた受け皿です。
人間関係や毎日の生活に不必要な波風を立てないためには、とても有効なスキルだと思います。
ただ、これが出来てしまうと、しょっちゅうこのスキルを使うようになってしまいます。
この妻にとって、「夫の意見を受け入れる」ほうが、「自分の意見を伝えて、場合によっては言い合いになることも覚悟する」よりもコスト(疲労、メンタルの負担、時間など)がかからないのですから当然です。
3.相手の言いなりになるデメリット
上述したように、相手の言いなりになったり意見に合わせることは、その場の空気を壊さず、相手の機嫌を損ねることもなく、二人の関係に波風を立てることもない、というメリットがあります。
反面、デメリットもあります。
- 相手に合わせることで、自分側に起きる不都合のフォローをしなくてはいけない
- (事例:同僚の理解、事前の業務調整、旅行後の同僚への気遣い)
- 本来の自分の意見、希望が叶わなかったことへのストレス
- (事例:三連休なら家でのんびり過ごそうかな、と思っていた)
- 他者から見た自分への理解の仕方と、自己理解の乖離
- (事例:夫から見れば「自分と同じ意見を持っている人」⇔妻本人は「いつも私が合わせている」)
便利なスキルだけに、つい多用してしまいます。
すると自分でも気づかないうちに癖になってしまい、「自分は本当はどうしたいのか」を考えることができなくなっていきます。
自分がどうしたいのか、がわからないと、大事な局面で選択ができなくなります。
大事な局面とは、例えば結婚、妊娠出産、離婚、転居、転職、家族構成の変化(親と同居、子の独立や進学)などですね。
こうしたライフイベントに際しても「自分の希望」がわからず、誰かの言いなりになっていると、取り返しのつかない事態に陥りかねません。
しかし周囲から見れば、決断時に「うん」と言ったのはあなたなのだから、と、「自己責任」扱いされてしまうのです。
4.自己評価の低下、依存、関係性の悪化
上記以外でも、考えられることがあります。
一つは「自己評価への影響」です。「自己肯定感」「自尊心」ともいえるかもしれません。
大事な時に自分で考えることも決断することも出来ない自分に失望してしまいます。
「自分はダメな奴だ」と、自信を失ってしまいます。
自信を失うと、行動や選択が以前より億劫になります。その先にある責任から逃れたくなってしまうのです。
自分が責任を負いきれない、けれど決めなければいけない、という場面で、周囲にいる人の意見に合わせるようになります。
特に信頼できる人(夫婦や恋人など)への依存状態を作ってしまいます。
それでも、自分の本心がないわけではありません。他人の選択に合わせても、サイズの合わない服を無理やり着ているような違和感が残ります。
違和感はいずれ「どうして自分はこの人(依存対象)の言いなりにならなければいけないんだろう」という感情を生み出してしまいます。
信頼している大事な人のはずなのに、関係性が悪化してしまう危険があるのです。
便利だけれど癖になるとデメリットが大きくなってしまう「相手に合わせる・言いなりになる」習慣は、では、どうすれば止めることができるでしょうか。そのために何が必要でしょうか。
次回のコラムでお話ししたいと思います。
<キーワード>依存、自己評価、自信喪失、葛藤