自己受容の効果とは -自分の苦しさの解決のカギは「自分」

うつ病の家族を支える中で、「どうしてこんなに苦しいのだろう」と感じたことはありませんか?
それは、あなたが「自分の心」ではなく「他人の期待」で動いているからかもしれません。
一生懸命であるがゆえに、知らず知らずのうちに「~すべき」「~でなければ」という思考に縛られ、本音にフタをしてしまうことも。
この記事では、そんな苦しさの根本にある「他人軸」から「自分軸」への転換、そして自己受容の効果について丁寧にお伝えします。
目次
あなたが今苦しんでいるのは自分の心で決めていないから
周囲の期待や役割に合わせるうちに「自分」が不在になる
家族がうつ病になった、という事実は、私たちケアラーが決めたことではありませんよね。
だからこそ解決方法が分からないし、「あの人(うつ本人)」が頑張ってくれないから治らないんだ」と考えてイライラするし、頑張ってくれるために色んな提案もします。
それ自体はとても自然で当然な流れだと私も思います。
ただ、「どうして自分(家族)が頑張るのか」の理由が、「自分がそう思うから」ではない場合は、結果として支える家族自身も、そうした動機から支えられるうつ本人にとっても、窮屈な未来が待ち受けることになってしまいます。
「こうすべき」「~ねばならない」が心を縛る
悩んでいるけど解決策が見つからない方に多い話し方が「~~じゃなければいけない」「~~するべき」です。
義務感か、責任感か、理想が高いのか。全部かもしれないですね。
全ては「うつ病が回復するために」家族である自分が「頑張るべき」だから「もっと頑張らなきゃいけないし、そう考える私が支えているんだから、うつ病はどんどん回復しなければいけない」のだ、となります。
でも思うように回復しない。そうなんです、うつ病はそんな甘くない。
だけど家族は何もしないわけにはいかない。不安な時一番怖いのは「何もしない」ことだからです。
そして「何をしたらいいか」がよく分からないから、一般的に良いと言われていることをどんどんうつ本人へ投げかけていく。
だけど本人には受け付けられない内容だったりするから、拒絶するしもちろん家族が期待する効果は得られない。
「すべき」が家族自身だけでなくうつ本人の生活も縛っていくことになるのです。
自分の本音にフタをしていると、苦しさだけが残っていく
このようなサイクルが回り始めているなら、ちょっと立ち止まってみましょう。
自分自身の本音はどこにありますか?
『うつ病が早く良くなって欲しい』
もちろんこれは大きいですよね。では、どうしてうつ病を早く治してほしいのでしょう?
家族なんだから当たり前だ!でスルーしないでください。
どうして家族なら当たり前なんでしょう。禅問答みたいですが大事な問いです。
自分の本音に蓋をして「うつ病が早く治るために家族の私が全力でサポートすべきだ。そうすればうつ病は必ず良くなるんだ」だけに専念するから、上記のようなサイクルが回り始めて出口が見えなくなってしまうのです。
他人軸で生きていることが苦しさの原因になってしまっているのです。
自分の心で生きるための「自己受容」の効果
自分の感情・弱さ・未熟さを否定せず、そのまま認める
自己受容ってなんでしょう。
読んで字のごとく「自分自身を受容する、受け入れる」ってことですよね。
自分自身とは、自分の感情・思考・やってきたこと・今やっていること・これからやろうとしていること、人間関係、物理的環境、条件など諸々です。
つまり、自分の内面すべてにOKを出すことです。
自分のことを進んで嫌いになろう、拒絶しようとする人はいません。
自己受容出来ないのは、受容したくない部分があるから、ですよね。
そして気づいていないことがもう一つ。
「受容する」とはどういうことか、がよく分からないから。
カウンセリングしているとよく聞かれます。
『ありのままの自分を受容するって、つまりダメな部分や、カウンセリングを通じて変えたいと思っていることまで良いことだと見方を変えることなのでは?
それじゃカウンセリング受けた意味がないし、こんな自分を受け入れることなんてできません』
少し違います。
『変えたいと思っていることまで良いことだと見方を変える』
ではなく
『良い悪い、変えたいかどうかは別として「今の自分」を知る』
ことが自己受容なのです。
「良い自分」だけを受け入れようとするのは、自己受容ではない
自分の良いところ・好きなところだけをビュッフェの料理みたいに選んで盛り合わせた結果を受け入れる、なら、誰だって自己受容出来ます。
そのお皿=人生には好きな物だけがてんこ盛り。嫌いなものは一つもない。そんな幸せな食事はないですよね。そんな料理を完食するのは少しも苦じゃありません。
だけど人生も自分自身も料理じゃない。そんな都合のいいことは出来ない。
出来ないのにやろうとするから辛いんです。
『素敵な自分になれた後に受容します』も違う。
成長するための努力は素晴らしいですが、自己否定がスタートですよね。ということは、努力した先にほんの少しでも嫌いな部分や期待したのと違う結果が生まれたらまた否定することになるのではないでしょうか。
結局永遠に自分を否定し続けることになります。
せっかくここまで頑張ったのに、それも全部無駄だと思ってしまう。無駄な努力をした自分のことを前より嫌いになってしまうかもしれない。
そして100%完璧な理想を実現することは無理なのです。
自己受容は、好き嫌い・良い悪いを選別した上で行うことではありません。
今のそのまんまの自分を「これが自分なのだ」と心の底から納得して認めることが自己受容です。
自己受容の効果は、自分の気持ちに正直に生きられるようになる
自分で好きになれない『自分』、忘れたい過去、納得出来ない現実も含めて「自分なのだ」と受け容れることは簡単ではありません。
言われてすぐできることではないです。自己啓発本を読んだら魔法をかけてもらえて朝起きたら自己受容出来てました、なんてことももちろんありません。
自己受容とはどういうことか、それが出来ることで今の悩みや辛さにどんな影響・効果があるのか、どうやってやればいいのか、などを知った上で、出来ることから取り組み続けるしかありません。
一定の期間は必要でしょう。
その間に目を背けていた過去や失敗、無意識下に押し込めてきたネガティブな感情が吹き出すかもしれない。
私にも経験があります。実は私は実家族にとって「異分子」だったんだ、と気づいた時のショックは忘れられません。でもそれ抜きでは今の自分を受容出来なかった。両親やきょうだいにとってどういう存在だったのか、を受け入れることが今の自分を受け入れることだからです。
自分が否定したい『自分』も含めて自己受容出来ると、今まで「もっと○○にならなきゃ」と縛っていた信念・ルールが薄れていきます。
『○○でいたほうが都合がいい人はいると思う。でも私は○○になれないし、
○○になろうと全力で頑張ったって周りの人が何をしてくれるわけでもない。
それよりも私は□□な自分を大事にしたい』
と考えられるようになります。
以前なら欠点だと思っていた「□□な部分」を、個性として見ることが出来るようになります。
そして否定・拒絶しなくなるのです。
自分にも周りにもウソやごまかしを使わなくてよくなる。
つまり自分に正直になれるのです。

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自己受容して生きるとは -その効果-
他人の評価に振り回されず、自分の価値を自分で認められる
自己受容のプロセスは良いこと尽くしでも楽しいことでもないし、すぐできることでもありません。
そりゃそうです、今までめちゃくちゃ頑張って苦労して必死で生きてきたんですよね。その過程で出来た「自己否定」が、ちょっと何かやっただけで簡単にクリアできるほどあなたの人生は軽くないはずです。
自己受容が大変なのは、あなたの人生の重みそのものです。
しかし受容する価値は十分にあります。
悩みや辛さを抱えている状態がどうして辛いんでしょうか。
細かい理由はたくさんあると思いますが、突き詰めると「自分のやっていることが無価値だと感じてしまうから」なのです。
✅こうすれば皆のためになると思った、喜ばれると思った
✅こうすることが正しいんだって言われたから頑張った
✅私が何とかしなきゃ!だってみんなきっとそう思ってる
これらの共通点は何だと思いますか?
正解は「他者視点」です。自分がどうしたいのか、ではなくて、周囲から求められるもの、そしてそれによって周囲から得られるものが出発点になっているのです。
だから「価値があるかどうか」を決めるのも他人になってしまう。そして期待したような評価は当然ながら得られない。
だから苦しいのです。
自己受容した人は、自分視点で考え、選択し、行動します。だから評価するのも自分です。
自分の価値を自分で決めることが出来るようになります。

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「できない自分」「うまくいかない状況」にも寛容になれる
「パレートの法則」をご存じでしょうか。「8:2の法則」とも呼ばれます。
全体の成果の80%は、20%の要因によって生み出されるというものです。
これを自己受容に当てはめて考えた場合、『自分が好きな自己像を形作る要素のうち、約20%の重要な要素が、自己肯定感や自己受容の80%に強い影響を与えている』と考えることが出来ます。
自己受容とか自己分析とか自己評価、自己像を考えようとしたとき、まず真っ先に「長所・短所」などの項目を作って、それに該当する要素を探していませんか?もうその時点で自己受容から外れています。
好きとか嫌いとか長所とか短所とか、そういう区分はそもそも必要無くて、自分の特徴・スキル・実績を総動員した結果、上位20%が「自分が誇れる自己像」になるのです。
好き嫌いで分けて土台の80%を否定してかかることは、この20%も放棄することなのです。
出来てない自分が生み出す成果を無視しちゃダメなんです。

心の軸が整い、自分に自信を持てるようになる
自己受容とは、家でいえば基礎みたいなものです。樹木なら幹です。
これがしっかりしているからこそ立派で頑丈な家が建つし、枝葉を伸ばして繁茂し、美しい花が咲いて実がなるのです。
家や花・実に相当するのが、自己肯定感や自信、更にそれが生み出す成功です。
この土台が不安定なまま自己肯定感や自信を育てようとするから、すぐ挫折してしまうのです。
多少の風=周囲の声・評価・流行などに吹き飛ばされたり、折れ曲がってしまうのです。
自分自身の特徴・実績・感情・思考を「これが私なのだ」と評価抜きで受け入れることが出来ると、それだけで今まで感じたことのない安心感が生まれます。
自分自身に安心できるのです。
自分に安心できると、リラックスして過ごすことが出来ます。何かを恐れて嘘をついたり誤魔化したり、緊張して身構えることがありません。
「○○しなければ不安が実現してしまう」と考えることが減り、それは「○○しなくても大丈夫なのだ」という安心と自信を高めてくれます。
一人でできる自己受容の4ステップ
ステップ1:今感じていることを言葉にしてみる(ジャーナリングなど)
まず、今感じていること・考えていることを脳内から引っ張り出して言葉にしてみましょう。
この時のポイントは「良い・悪い」を決めないこと。頭に思い浮かんだものをテーブルに並べるように紙にどんどん書き出していきましょう。
一番良い方法は「ジャーナリング」です。
≪ジャーナリングのやり方≫
- 集中・リラックスできる場所へ移動します
- ノートとペンを用意します
- ジャーナリングするテーマを決めます(例:今○○が気になる理由は何か)
- 深呼吸を3回して心を落ち着かせます
- 5分・10分・15分など時間を決めてタイマーをセットします
- スタート!タイマーがなるまでずっと書き続けてください
- 終了したら自分で読み返しましょう
ルールは2つです。
- 書いたものは誰にも見せない:誰かに見せると考えた時点で本音は出て来ません
- 誤字脱字、起承転結、事実との相違は一切考慮しなくて良し
ステップ2:「こんな自分でも大丈夫」と声をかけてあげる(セルフ・コンパッション)
自己受容出来ない最たる理由は、自分で自分を批判・否定する心です。
『○○すら出来ないなんて、自分はなんてダメなやつなんだろう』みたいに、常に心の中で自分を否定していませんか?
なぜ頑張った自分を否定するのでしょう。出来なかった・上手くいかなかった、のは結果でしかありません。
失敗したり出来なくて落ち込んだ自分に、優しく接するスキルを身につけましょう。
それが「セルフコンパッション」です。
セルフコンパッションはとても奥深い理論ですが、大事なことは『自分を否定しない、批判しない』ことです。
コンパッションとは「慈悲」という意味です。慈悲とは悲しんでいる人に寄り添ってその悲しみを分かち合うことです。それをセルフ=自分自身に向けることです。
セルフコンパッションで自分の辛さに寄り添うことで、自己否定感が弱まり、「こんな自分でもいいんだ」と受容することが出来るようになります。

ステップ3:自分が本当に望んでいることを探る(ニーズの確認)
意外と認識できていないのが「自分が心から望むことは何か」です。
たとえば
「もっとゆったりした気分で生活したい」
「家族のうつ病が治って欲しい」
「イライラしたくない、不安になりたくない」
という要望はたくさん出てくると思います。
でもこれって「本当に望んでいること」なのでしょうか。どちらかというと、今現在を否定して「今じゃない状態になりたい」と言ってるのではないでしょうか。
それは「本当の望み」とは違いますよね。
カギになるのは「感情」です。
「モヤモヤする」「イライラする」「虚しい」「不安」「悲しい」など、ここ最近ずっと感じているものを1つ選びます。
そしてその感情を軸に、以下の質問を自分に対して投げかけてください。
「私は本当は何を望んでいるのだろう?」
「何があれば、私は今より少し楽になるだろう?」
「この感情は、私に何を伝えようとしているのか?」
「私の中で、何が足りていない感じがする?」
例えば「虚しい」としたら、その感情を突き詰めた先には「やり甲斐を感じたい」「達成感を感じたい」という望みが見えてくるかもしれません。
としたら、「どうすれば自分はやり甲斐や達成感を感じられるのか」に視点が移ります。
これを様々な感情や思考を題材に繰り返すことで、「本当に望んでいることは何か」を見つけることが出来ます。
ステップ4:自分の気持ちに沿った選択をする
自分が本当に望んでいることが分かると、それだけで自己受容度はぐっと高まります。
「~~になりたい・欲しい・そうでありたい」は、そのまま自分の軸になります。
この軸を中心に、これからは考えたり、行動したり、選択することになります。
今までは迷ったときに「社会的には・○○さんに褒められるためには・家族が喜ぶのは」どれだろう、と迷うことが多かったと思います。でも当然直接聞くことは出来ないし、「自分の好きにしたらいいよ」と自由を認められたことが逆に「突き放された」ように感じていたかもしれません。
でもこれからは違います。「本当の望み」を実現するためには何を選び、何に取り組み、どう判断すればいいのか、に変化します。
自分の中に生まれた軸に沿って生きていくことになるのです。
これが出来る自分を、拒絶する理由はないですよね。

まとめ
家族のうつ病という現実に向き合いながら、自分を見失い、苦しさだけが残っている。
その背景には、「自分がどうしたいか」ではなく、「どうあるべきか」に基づいて行動していることが多くあります。
しかし、他人軸で生き続ける限り、自分の本音は置き去りにされ、やがて心がすり減ってしまいます。
自己受容とは、「良い自分」だけでなく、「弱さや未熟さも含めた今の自分」をそのまま認めること。
それができるようになると、他人の評価に振り回されず、自分の気持ちに正直に生きられるようになります。
あなた自身の心を取り戻すために、まずは「今の自分」にそっと目を向けてみてください。そこから、主体的な一歩が始まります。
“自分の幸せは自分の心が決める”ーことを忘れないでくださいね。