「頑張っても報われない…」うつ病の家族のケアに疲れたあなたへ

「うつ病の家族のために頑張っているのに、全然報われなくて疲れた…」
そんなふうに感じていませんか?
うつ病の家族を支えようとするあなたの思いが届かず、むしろ悪化してしまうように思えてしまう。
その背景には、うつ病という病気の特性と、適切なサポートのズレがあるのかもしれません。
このブログでは、家族として知っておきたい基本知識と、関わり方のヒントをお伝えします。
目次
家族が頑張ってもうつ本人が変わらない理由
良かれと思ってやったことが、逆効果になることもある
家族が「頑張っている」ことの内容は、『こうしたら人は元気になれる』とか『いつかは社会復帰するんだから、こうしていた方がいい』という内容が多いでしょう。
例えば
- 生活リズムを崩さない
- 仕事を休職したなら、日中の過ごし方を工夫する
- たまには外へ出かける
- 趣味なども楽しんでリラックスする
- 夜はしっかり眠る
もちろんすべて心身の健康には欠かせない要素ばかりです。
しかしこれは全て、うつ病の人には出来ないことばかりなのです。
そしてうつ本人も「これは全部やったほうがいいことだ」と頭では分かっています。
分かっているけど、病気の症状が邪魔して出来ない。
やったほうが良いと分かっているけど出来ない、それを家族から促進される。
とどうなるか。
『自分がダメな人間だから出来ないんだ』
という結論に至ってしまうのです。
まだ変化するタイミングではない
うつ病には大きく分けて3つの段階があります。
最初は「急性期」。状態が急速に悪化し、眠ることは出来ないのに布団から起き上がれない、食欲もないし活動意欲は完全にゼロ、会話もままならなかったりします。
次は「回復期」。治療と休養の効果が表れて少しずつエネルギーが戻ってきます。ちょっとしたことに挑戦してみよう、という意欲もわいてきますが、一進一退を繰り返します。
そして「維持期」。回復後の状態をいかにキープするか、が課題です。表面上は復職し以前と同じ状態に戻ったように見えるかもしれませんが、うつ病に「完治」はありません。なので自分らしい配慮をしながらの社会生活になります。
この3つの段階のどこにいるのか、を無視してあれこれ世話を焼いても、家族が期待したような結果にはならないでしょう。

≪おすすめ記事≫ うつ病回復期の準備と注意点
家族側の期待値とうつ本人の現状がずれている
上記と重なりますが、家族側の
『早く元気になって欲しい』
『元気になってもらわないと困る』
『元気になってくれないと自分がつぶれてしまいそう』
という気持ちが強くなりすぎることで、本人の現在の状態に見合わない期待をかけてしまうことがあります。
例えばずっと家から出ようとしなかったうつ本人が『ちょっとコンビニ行ってくる』と言い出したりします。
何も出来なかった状態をよく知っている家族から見ればめちゃくちゃ大きな変化です。すごく嬉しいですよね。
その喜びが今まで無理をしてきた家族側の緊張感を解放させます。そして『もう大丈夫、明日からはどんどん良くなっていく』と期待します。
しかしうつ病は、三歩進んで三歩下がる、たまに0.5歩進む、みたいな病気です。後戻りすることを計算に入れておかないことで、『こんなに私は頑張ってるのに、どうして効果が無いんだろう…』と、自分を責める流れに繋がってしまうのです。
自分の家族がなった「うつ病」を知る
医学的知識を学ぼう
家族はまず「敵」を知る必要があります。
この場合の敵とは、うつ病です。
- 医学的にはどんな病気なのか(なぜうつ病の症状が出るのか)
- どんなことを避け、どんなことをすれば回復に効果があるのか
- 主治医はどんな診立てをしているのか
- 本人が処方されたのはどんな薬か。副作用は何があるのか
意外と知らないまま一緒に生活しているのではないでしょうか。
どんな病気もそうですが、同じ病気だからといって皆が皆同じ症状が出て同じことに困っているわけではありません。
そして精神疾患は個人差が非常に大きいです。
といっても、基本的知識を押さえておくことはとても役に立ちます。
本人との接し方に悩んだり、苦しんでいる時の対応、そして家族自身が自分のストレスに悩んだ時の、解決の糸口になります。
本人は今どんな状態?
重ねてになりますが、うつ病などの精神疾患は症状の現れ方や病気によって何が困るのか、が人によって様々です。
そして回復のステップがあります。それもどのステップにどれくらいの期間を要するか、も、人それぞれです。
病気の基本的知識を押さえたうえで、『では自分の家族は今どんな状態なんだろう』とよく観察し理解する必要があります。
例えば、朝7時。大抵の人なら起きてくる時間です。だけどうつ本人は起きてくる気配はまるでない。
この時『睡眠導入剤飲んでるんだから夜は眠れているはず。起きてこないのは怠け癖がついてしまっているのでは?今は良いけどいつか復職するときに困るのでは…』と考えてしまうと、うつ本人への心配より『いつか復職するときのために』という焦りが高まってしまいます。
そして焦りを解消したくなって、色んなアプローチ方法を考えるでしょう。
ただ、うつ本人の状態とマッチしていなければ、家族が期待した結果には結び付きにくいです。
今どんな状態で何が辛いのか・困っているのか。
何かしてあげたい、と思ったら、その『何か』はここから発想しましょう。
他人と比べることは意味がないと知る
うつ病をはじめとした精神疾患に罹患する人の数は、右肩上がりで増え続けています。
最新の情報では、令和5年時点で603万人です。
精神保健医療福祉の現状等について(厚生労働省)

そしてうつ病を含む『神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害』の患者数は117万人です。
これだけたくさんの患者がいるにもかかわらず、同じ理由・同じ回復過程を辿る人はいません。
けれどどうしても事例を探して安心したくなってしまうのが人間です。
『知り合いの○○さんの奥さんは半年で治った』
『うつ病を告白した芸能人の○○は今はテレビに復帰している』
こうした情報は「いつか自分達も」と希望を持つためには光になってくれますが、自分達の状況と比較して『あんな風にならなければおかしい』と考えてしまったら、毒にしかなりません。
自分達は自分達、他人のケースと必ずしも一致しなければいけないわけではない。
ポジティブな個別化を忘れないことが大事です。
うつ病の人とのコミュニケーションのコツ
うつの人が安定したコミュニケーションを取れなくなる理由
一緒に生活する中で絶対に欠かせないものって何でしょう。
そうです、コミュニケーションですね。
しかしうつ病になると、日常生活で必要なコミュニケーションすらスムーズにとれなくなります。
理由としてはうつ病の症状である
- 気力の減退
- 思考力の低下
- 認知の歪み
によって
- 言葉の受け取り方が変わる
- 会話が続かない
- 自分の考えを伝えきれない
- 感情が不安定になる
からです。
家族はこうした特徴を「本人の意思」ではなく「病気の症状」であると理解する必要があります。

コミュニケーションの3本柱
うつ病になった家族とのコミュニケーションには、次の3つのスキルで対応しましょう。
【傾聴】
相手の話を評価や判断をせず、関心を持って丁寧に聴くこと。
相槌やうなずきを交えながら、相手の気持ちに寄り添い、安心して話せる環境を作る。
【共感】
相手の気持ちを理解し、寄り添う姿勢を示すこと。
ただし、同情ではなく「あなたの気持ちはこうなんですね」と受け止め、相手が安心できる関係を築くことが重要。
【褒める(コンプリメント)】
相手の良い点や努力を具体的に認め、伝えること。お世辞ではなく、誠実な言葉で相手の価値や行動を肯定することで、自己肯定感を高める効果がある。
うつ病本人が話し始めたら、言葉だけでなく話している本人の様子も含めて丁寧に聴き、その内容から本人の目線で今の状態を感じ取り、どんなに小さくても出来た子を見つけたら言葉でしっかり褒める。
家族が出来ること・やるべき関わり方って、実はこの3つに集約されるのです。

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家族の努力は決して無駄ではない
家族は家族、プロではない
支える家族が「病気が良くなるために私がしっかりサポートしよう」と決意することは非常に有難いことです。
うつ病本人は言うまでもないですが、患者の関係者、例えば主治医、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどにとってもモチベーションの高い家族の存在は心強いです。
とはいえ、家族は専門家ではありません。
専門家は「他人」です。だから本人と適切な距離を保つことが出来ます。
でも支える家族は「家族」です。そう簡単に距離を作ることは出来ません。本人の症状の凸凹はダイレクトに自分のストレスや不安を刺激します。
家族は自分はプロではないことを、ポジティブな意味で認識する必要があります。
減点方式を止めて「出来たこと」をカウントする習慣を作る
頑張っているのに結果が出ない、効果がない、報われていない気がする…。
と感じて苦しくなってしまうのは、期待値と現実の落差を「減点」として捉えているから、ではないでしょうか。
期待してしまう気持ちは分かります。というか期待が持てないならそもそも努力することも難しいですよね。
ただ、期待値を「絶対」と思うから辛くなってしまうのではないでしょうか。
現状をゼロ地点、期待値は100点、その間を「出来なかったこと」と捉えるのではなく、「出来たこと」を積み上げてみましょう。
10点でも5点でも、0.5点でもいいのです。
そして「出来たこと」を探しているうちに、「効果がない、結果が出ない、報われない」という気持ちにも変化が現れます。
小さな「出来たこと」を増やすためにどんな努力をすればいいかな、という思考方法に切り替わっていきます。
自分の辛さは第三者へ流す
うつ病本人と、一筋縄ではいかないコミュニケーションを続けていれば、当然疲労やストレスが溜まります。
その疲労・ストレスを自分一人で、または家族内で循環・解消しようとすると、本人とのコミュニケーションの質が落ちてしまいます。
例えば相手が長々と自分の思いを話し続けている間、『私だって辛いし、それを聞いてもらいたいのに、いつでも自分は聞き役で、この人は私の話を聞いてくれない…』と考えてしまうことも「あるある」です。
こうした不満を抱えたままで、傾聴も共感も出来ません。むしろ『いい加減にして欲しい』と思ってしまう恐れもあります。
うつ本人とのコミュニケーションに疲れたら、自分の疲労やストレス、不満は別の人に聞いてもらいましょう。
自分の友人・知人、親やきょうだい、または家族会のような同じ経験を持つ人の集まり。更にカウンセラーやセラピストなどの専門家に話すなら、気兼ねも遠慮も要りません。
自分の思いは他で聞いてくれる人がいる、と考えることで心に余裕が生まれ、うつ本人とのコミュニケーションの質を落とすことも無くなります。
それによって家族間の信頼関係は保たれ、安心を得たことでうつ回復が促進されていきます。
相手が回復すれば、また前と同じように話を聞いてもらえるようになるでしょう。
まとめ
うつ病の家族を支える中で、「自分なりに頑張っているのに報われない」と感じてしまうのは、とても自然なことです。
しかし、その「頑張り」がうつ本人の回復段階や状態と噛み合っていないと、逆効果になることもあります。
まずはうつ病という病気をよく理解し、「今この人はどの段階にいるのか?」という視点を持つこと。そして、他人と比べることなく、目の前の大切な人に合わせた関わり方を見つけていくことが大切です。
傾聴・共感・褒める。
この3つのコミュニケーションを軸にした関わりが、あなたの「頑張り」を、本当の支えへと変えてくれるはずです。