発達障害者の妻として

発達障害者の妻として

 

以前に「おとなの発達障害」と言うタイトルで記事を書きましたが、今度は一般論ではなく、家族としての経験や思ったことを書きたいと思います。

 夫は十ウン年前、会社へ行こうとしてもどうしてもいけない状態になり(腹痛、頭痛、脚が動かなくなる、不眠)、産業医への相談を経てメンタルクリニックを受診し、「抑うつ状態」→「うつ病」と診断されました。
 当人は明け方まで眠れないことが一番つらかったこともあり、抗うつ薬と合わせて睡眠導入剤を処方されました。
 半年休職→復職しましたが悪化したため半年後退職しました。最初に受診した病院は会社までの通勤ルートの途中にあり家からは遠かったため自宅最寄り駅前のメンタルクリニックへ転院しましたが、夫の退職を機に転居、同時に二度目の転院をしました。
 その後十年以上「うつ病」として薬を処方されました。薬の種類や量が増減することはあるものの、診断名はずっと「うつ病」でした。途中で「もしかして違う病気じゃないの?」と疑った先生は一人も居ませんでした(一人で病院へ行けない期間が長かったため、私もずっと同行してました)。

なぜ発達障害と分かったのか?

 夫自身が「自分は本当にうつ病なのだろうか」と疑問を感じ調べまくった結果、発達障害の事例が自分にピッタリ当てはまると思ったため、専門医を受診したからです。うつ病の診断のまま5~6件の病院へ行きましたが(その間3回ほど転居しているため)、主治医側からの提案はありませんでした。
 インターネットで調べた県内の病院へ行き「WAIS-Ⅲ」を受け、発達障害と診断されました。
 うつ病は、それの二次障害だったようです。
 そりゃ、うつ病への対処だけしてたのでは治るはずは無かったのです。

 ストレス反応から発症する気分障害とは異なり、発達障害脳機能の特徴から発する先天性の障害です。薬を飲んで治るものではありません。生涯付き合っていくしかない自分の「特徴」です。それでも、自分が本当は何に苦しんでいたのかがはっきりしたことで、夫は安心したそうです。

自分の心の中のパニック

 と、ここまではは病歴だけの話。
 一番最初に「会社に行けない」と相談された時の、自分の心の中のパニック状態を、私は今でも覚えています。
 夫を支えていく自信もなく、かといって離婚という選択肢はありませんでした。恐らくあそこで離婚していたら今夫はこの世にいません。
 夫はタバコを自販機に買いに行くことすら一人で出来ない時期が続きました。当然仕事は出来ないので私は働きながら家事も買い物も全部一人でやりました。どうしてこんなことに、と思いつつ、ただただ必死でした。辛いから泣く、愚痴る、夫に当たるという思考すら思いつかなかったです。ただひたすら毎日必死。

 その時に支えになったのは、インターネットで見つけた自分と同じ「サポ妻(うつ病の夫をサポートする妻)」の方々のブログです。
 ご主人の症状やご家庭の状況は千差万別でした。うちは子供はいませんが、小さなお子さんを抱えて大変な状況の方もいました。それでも、夫の精神的な病で悩んでいるのは自分だけではない、という事実が私を支えてくれました。自分だけじゃない、頑張ってる人はたくさんいる、と。

 その時たまたま見つけたカウンセラーのメールカウンセリングを一度だけ受けましたが、
・ストレスを溜めないように
・ご主人を責めてはいけない、辛いのは本人
・疲れたらゆっくり休みましょう
みたいなアドバイスばかりで正直全く役に立たなかったです(笑)
当事者目線では百も承知な事実です。目の前で虚ろな顔で一日中同じ姿勢で動けない人間がいて、どうして責めることが出来ますか。その横でゆっくり休めますか?

今も距離が縮まらない発達障害当事者と支援側

 あれから十ウン年、あの時は想像もしませんでしたが、色々あった結果私も精神保健福祉士となり、カウンセラーになりました。

 当事者それを支援する人間は、両方ともかなりの数に上ると思います。それなのにいまだに、あれから十ウン年経って、ネットもコミュニケーションツールも発達しているのに(あの時はスマホなんて無かった)、双方の距離は縮まっていないと感じます。
 今でも当然夫は発達障害者です。手帳も持ってるレベルです。しかし病院以外の支援の手はなく、何かしらの働きかけが外部からくることはありません。
 妻の私はたまたまその方面の専門資格を得ましたが、それを考慮してのことではないはずです。支援が不要か、と言われればNOです。

 今振り返ってみると、あの時どうやって乗り切ったのかあまり記憶がありません。仕事に逃げていた部分もあります。家に帰りたくない時期もありました。
 自分自身がうつ傾向入っているのでは、と思った時もあります。一番やってはいけないことですが「そんなはずはない」と気合で無視しました。

 生活を、配偶者を、自分自身をどうしたらいいか分からず苦しんでいる人。今もたくさんいるんだろうな。私の、支援者の手が届かないところで蹲って心の中で泣いてるんだろうな。専門家じゃなくてもいい、家族でも友人でも頼れる相手がいればいいけれど、そうじゃない人は毎日どんな気持ちでいるんだろう。

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