家族間で起こるモラハラの原因:うつ病ケアの落とし穴

うつ病ケアの落とし穴:家族間で起こるモラハラの原因

モラハラという言葉は一般化して久しいです。自分もされているかも、と思ったことがない方はいないのではないでしょうか。
そして同じくらい不安なのが、自分ももしかしたらモラハラしているかも、という疑念です。
何が「モラハラ」として危険視されるのかがぼんやりとしていると、行為者としても被害者としても気づきづらいです。それが家庭内なら尚更です。
今回は家庭内のモラハラとはどんなものか、予防方法と解決策についてお話します。

目次

  1. モラハラの定義
    1. モラハラ(モラルハラスメント)とは何か
    2. モラハラの特徴
    3. 家庭内のモラハラとは
  2. うつ病家族間でモラハラが起きる理由
    1. ストレスとプレッシャーの蓄積
    2. 誤解と無理解
    3. コミュニケーション不足
  3. 家庭内で見られるモラハラの兆候
    1. 前提:モラハラは誰でも行う可能性がある
    2. 兆候1:言葉による攻撃
    3. 兆候2:感情の操縦
    4. 兆候3:家庭内での役割の強制
  4. 家庭内モラハラへの対処方法・解決方法
    1. 事前の予防方法
    2. 発生時の対処方法
    3. モラハラの解決方法
  5. これってモラハラ? 自分がモラハラしないために注意すべきこと
    1. 発言で気を付けるポイント
    2. 批判しない
    3. 自分の感情をコントロールする
  6. モラハラと関連するキーワード
    1. 夫源病
    2. カサンドラ症候群
  7. まとめ

モラハラの定義

モラハラ(モラルハラスメント)とは何か

ご存じの方も多いと思いますが、一緒におさらいしましょう。
モラハラ(モラルハラスメント)とは、モラル、つまり精神的な意味でのハラスメント(虐待)行為です。

「モラルハラスメント(モラハラ)は、言葉や態度、行動によって他人を精神的に攻撃し、苦痛や不安を与える行為を指します。モラハラは直接的な身体的暴力を伴わないため、見えにくく、認識されにくいことが多いです。
言葉、相手をコントロールしようとする行為や言動、無視・孤立化を図ったり、相手の感情を操作しようとする行為、さらに脅迫や威圧を与える行為も含みます。」

モラハラの特徴

「ハラスメント」とつく行為は複数ありますが、モラハラに強くみられる特徴は以下の通りです。

まず「見えにくさ」です。
身体的な暴力ではないので、気づくとしたら被害者本人だけです。

そして「気づきにくさ」です。
モラハラはあからさまな言動ではないことが多いです。そして時間をかけて馴らされて行きます。気づくことが出来る被害者本人がまず気づきづらいです。

さらに自己価値を低下させる特徴もあります。
モラハラを行う側が正しく、される側に問題があるような考えを植え付けられます。そのせいで自分が普通ではない対応をされているのでは、と気づいても、理由を被害者本人に帰す流れが出来てしまいます。

家庭内のモラハラとは

例えばセクシャルハラスメントやパワーハラスメントは、主に職場で行われることが問題視されます。
どこで起ころうが問題なのですが、職場は多数の人間が関わるため、問題が起きやすい代わりに問題視されることも多い、とも言えます。

家庭内には「他者の目」がありません。それが問題を深刻化させます。

例えば夫が妻に、妻が夫にモラハラ行為を行っているとしても、されている側しか気づく人間がいません。
そして「何かがおかしい」と気づくことが出来ても、それをモラルハラスメントと関連付けず「それが自分達家族の特徴だから」と思ってしまえば表面化しません。

表面化しないことそのものが問題なのではなく、それによってモラハラされる側が長期間にわたり被害を受け続けることによって自己価値を見失いメンタルヘルスを損ない活力を失って身体的な健康にも影響を及ぼし、結果としてその人の人生そのものが損なわれることへつながることが問題なのです。

更に夫婦間でモラハラ関係が固定してしまうと、子どもにも影響が及びます。モラハラは対等な関係ではありません。対等ではない両親の関係を見続けている子供が、他者と対等な関係を築くことは難しいでしょう。それは子どもに対する虐待行為にもなります。

うつ病家族間でモラハラが起きる理由

ストレスとプレッシャーの蓄積

家族が精神疾患になり、そのケアをする立場にいる人間には常にプレッシャーがのしかかります。
実際は家族にそれほど絶大な責任はないのですが、日本の(日本に限らないのかな)家族に対する信仰に近い責任論は根強いです。
病気になった人を回復させる責任は家族が持つ、という、誰に言われたのでもないプレッシャーが家族のストレスを大きくします。

そしてケアラーは、ストレスを解消する暇がありません。
「家族を元気にしなければ」というプレッシャーによって蓄積したストレスが、ネガティブな形になって家族へ向けられることが起こりえます。

誤解と無理解

家族が精神疾患の診断を受けると、最初はその衝撃だけで手いっぱいになってしまいます。
その病気について詳しく学ぼう、と思えるようになるまでは期間が必要でしょう。
それでも症状や治療方法について正しく知る機会を得られれば良いのですが、その機会がないまま忙しいケア生活に突入してしまうと、要ケア家族の状態が、その人個人の意思によるものなのか、または病気の症状なのかが分からず混乱してしまいます。

例えばうつ病では、朝方が一番体調が悪いです。夜十分に眠れないままですから仕方がないのですが、「朝起きてこない=ダラダラしている」と解釈してしまうと、労りよりイライラが前面に出てしまいます。
朝起きられないのはうつ病の症状なのに、それよりも「そう言えば休日はいつも朝寝坊する人だった」と以前の記憶の方が先に出てきてしまったりします。

ケアラー側疲労で余裕がなくなっているので、意識せず相手にモラハラ的言動をぶつけてしまうようになります。

コミュニケーション不足

精神疾患はうつ病に限らず思考力や活力が減退します。
他者と言葉を交わしたり、他者と接したり、顔を見ることすらしんどくなります。
夜眠れない状態が続いていれば、昼夜逆転してしまいます。
昼間起きて活動している家族とは、一緒に過ごす時間が以前より減ってしまうことも少なくないでしょう。
物理的に一緒に過ごす機会が減るうえに、積極的にコミュニケーションを取ろうという意欲が減退している中で、自分の辛さを家族に伝える余裕はありません。
精神疾患の「見えなさ」の最大の特徴です。

ケアラー側も、要ケア家族のことは忘れていません。忘れるどころか常に思考の中心にいます。
けれど家族のことだけ考えていればいいわけではありません。夫婦なら本来半々で担うはずの生活上の役割を、今はケアラーが一人で抱え込んでいるのですから、要ケア家族以外のこと、例えばご近所や町内会のこと、仕事のこと、家事、金銭的な問題、両家家族のことなども全部ケアラーが切り回します。

よーく考えて観察すれば、要ケア家族がどんな状態か、何を求めているのか分かるかもしれませんが、その余裕がないのです。

そうした諸要素が重なって、コミュニケーションが不足し、お互いの情報が不足し、共感が遠くなります。
結果として言われた側の精神的な打撃になるような言動に繋がる場面が起きてしまうのです。

うつ病家族間でモラハラが起きる理由

家庭内で見られるモラハラの兆候

前提:モラハラは誰でも行う可能性がある

モラハラは、している側が気づいていないこともしばしばあります。
一般的にモラハラは自己愛傾向が強い人が自分を守るために他者を虐げる行為とされています。
自己愛が、パーソナリティ障害レベルにまで強い人を想定している概念ですが、そうでない人も少なからず自己愛はあります。基本的に持っている自己愛がストレスやプレッシャー、余裕の無さによって暴走して、瞬間的にモラハラ的言動に及んでしまうことはどんな人にも起こりえます。
モラハラの兆候を知ることは、自分自身をモラハラ被害から守るだけでなく、自分が加害側になることからも守ることに繋がります。

兆候1:言葉による攻撃

言葉による攻撃の、特に「相手に責任が無いもの」「変えようがないもの」への攻撃は、モラハラの兆候と言えるでしょう。
例えば身体的な特徴を馬鹿にしたり見下したりする言動です。言っている側はコミュニケーションの一つと思っているとしても、言われている側が傷ついていてそれに対する苦情を伝えているなら、言う側の理論は通用しません。

兆候2:感情の操縦

ストレスが重なって余裕がなくなってくると、不安感や恐怖感が高まります。日々ギリギリの状態にあるので、不測の事態に対応できる自信がなくなってしまうのです。それ自体は仕方がないことです。
しかし、自分の余裕の無さが理由の不安を予防するために、他者をコントロールしようとしたら問題です。
家族の些細なネガティブ感情を、自分が不安になりたくないために否定したり、それを口にする家族を非難したりします。
そして自分にとって都合のいい感情だけを受け容れるようになります。そうなれば相手は自分の意見や感情を率直に受け容れることが出来なくなり、メンタルの状態が更に悪化します。

兆候3:家庭内での役割の強制

先にもお話したように、ケアラーは様々なタスクを抱えています。相手は病気で出来ないのですから仕方がありません。とはいえ、仕方がない、で済ませられるほど簡単な生活ではありません。
自分のキャパシティを超えた役割遂行に、もう無理!と投げ出してしまいたくなることも多いです。でも実際にはそうはせずに黙々と必要な役割をこなしていることでしょう。
ただ、時々暴発します。
例えば夫がうつ病で仕事を休職している時。自分も納得していたはずなのに突然「男なんだから働いてお金稼いでよ!」と、出来ない要求をするようなケースです。
逆もあるでしょう。「女なんだから家事くらいやれ」と。いずれも出来ないことが分かっていて、でも自分のストレスが暴走した結果のモラハラ発言です。
または自分が過重な役割を担っていることと比べて相手が出来ていることを軽視することもあります。「その程度出来て当たり前、やって当然」のような考え方はモラハラの兆候と言えるでしょう。

家庭内で見られるモラハラの兆候

家庭内モラハラへの対処方法・解決方法

事前の予防方法

モラハラ的言動はしないに越したことはありません。可能な限り予防したいですよね。
方法の1つ目は「コミュニケーションの改善」です。
特に自分の状態を相手に伝えることを心がけましょう。
たとえうつ病だとしても、ケアラー側の苦労やストレス、疲労を全く感じ取っていないはずはありません。むしろ小さなため息一つにも反応するのがうつ病です。
相手に負担をかけたくなくて無理して「大丈夫だよ」と言い続けることがモラハラに繋がるなら、それは良い振舞とは言い切れません。
相手に何かを求めるのではなく、自分も辛い、しんどい、でも頑張ってるのだ、ということを伝える努力は、ケアラー側のガス抜き効果にもなり有効です。

2つ目はケアラーのストレス管理です。
最初にもお話したように、ケアラーがモラハラ的言動をしてしまう裏には高まり過ぎたストレスと疲労があります。これのせいで余裕がなくなって感情が暴走してしまった結果です。
ですから日常からストレスをケアするよう努めましょう。
一番は睡眠です。1日7時間、出来れば途中で起きることなくしっかり眠りましょう。
そして3度の影響バランスが取れた食事、20分以上の入浴、30分以上の運動、水分補給で自律神経を整えましょう。
身体的なバランスが崩れなければ、それだけでストレスは大幅に解消していきます。
そして時間的余裕があれば、趣味やリラクゼーションを積極的に取り入れましょう。

3つ目は役割を手放すことです。
どうしても「家族内で対処しなければ」と考えてしまいますよね。でももっと第三者を頼っていいし、何よりうつ病本人に頼っていいのです。
精神疾患の要注意期は最初の3ヶ月です。それを過ぎたら少しずつ本人に役割を任せていきましょう。そして小さなことでもそれを評価してあげましょう。本人のためではなく、それがケアラー側の「私だけ頑張ってる」感を減らすために有効です。

発生時の対処方法

まず、モラハラ的言動をしてしまう時は気持ちが高ぶっています。それを収めることが重要です。
気持ちが高ぶっている時は呼吸が浅く、体中に力が入って視界が狭くなっています。
どこかに座って体から力を抜き、腹式呼吸でゆっくり深呼吸をしましょう。3~5回くらい、しっかり繰り返します。
そして目を開けてもう一度考えましょう。今自分がしようとしたことは本当に意味があってこれからの未来に役に立つものでしょうか。

モラハラは、自他の境界線が無くなっている状態で起きやすいです。相手のことを自分とは別個の人格を持つ他者だ、という認識が無くなっています。
モラハラを受ける側でも行う側でも、自他の境界線を守ることが有効です。
例えばこんな対応が有効です。

✅プライバシーを守る:時間的、空間的にそれぞれお互いを干渉しない場を設けましょう
✅言葉遣いを変える:親しき中にも、で、相手に対する言葉遣いを見直しましょう。相手からの言葉遣いが気になる場合はそれを指摘しましょう。
✅一貫性を保つ:相手に干渉しすぎるかと思えば無視をするような一貫性のなさも境界線を失います。自分が相手に対してどういう関わり方をしたいのか、を今一度考えてみましょう。

モラハラの解決方法

自分がモラハラをしてしまっているのでは、または受けているのでは、と考えて対処方法が分からない場合は、専門家を頼りましょう。
一つはカウンセリングです。特に家族療法やカップルカウンセリングを専門にしているカウンセラーに相談すると良いでしょう。

夫婦で話し合える状況にあるなら、家庭内のルールを作る、または見直すことも役に立ちます。
特に病気になる以前から出来上がっていたルールがあって、それに沿って生活を続けているとしたら、「療養生活特例」としてでも見直すことは意味が大きいです。

実際に物理的な攻撃(暴力や虐待など)に至ってしまっている場合、特にその被害を受けている場合は、警察に相談することになるでしょう。
加害者が病気本人の場合は、取り急ぎ主治医に相談することも出来ます。薬の処方で軽減する可能性もあります。

家庭内モラハラへの対処方法・解決方法

これってモラハラ? 自分がモラハラしないために注意すべきこと

発言で気を付けるポイント

先に「言葉遣い」についてお話しました。
言葉、言い方は表面上のものではありますが、その裏にはメンタル状態や相手への意識が存在します。
ストレスやプレッシャーに追い詰められて相手への敬意や配慮が薄れたせいで、相手への言葉遣いが雑になっていないか気をつけましょう。

例えば「○○やって」「なんでやらないの」「言わなくてもやってよ」では、敬意は感じられませんよね。
「やってくれる?」「出来るところまででいいから出来るかな?」「お願いしていい?」と、相手を配慮した言い方を意識してみましょう。

批判しない

モラハラ的視点に立つと、相手の粗探しに終始してしまいます。
更に何か問題が起きた時に、自分以外の誰かを犯人にしがちです。その人が悪い、というより、その人が悪い理由を探す、という目線になってしまいます。
「何が悪いのか」を考えることは、明確な理由がある場合にだけ有効です。そして家庭内の問題は、今までの家族の歴史や他の要素が入り組んでいることが多いため、明確な理由を見出すことは難しいです。
そうであるなら、批判に繋がりやすい原因探しよりも、「これから何が出来るか」「これからどうすればいいか」という解決志向を持ちましょう。

自分の感情をコントロールする

モラハラは、自分の感情を放置して相手の感情をコントロールしようとする行為です。
逆ですよね。自分の感情をコントロールして、相手の感情に干渉すべきではありません。というか出来ません。出来ないのに出来ると思って強要するから問題なのです。
と言っても自分の感情をコントロールするのは一苦労です。だからこそストレスケアやヘルスケアが大切なのです。

イライラが止まらないのは誰かが悪いのではなく自分に余裕がないのです。ケアラーの余裕の無さは能力不足ではなくキャパオーバーになっているせいです。
自分が抱え込んでいるタスクを整理し、心身のバランスを取り戻しましょう。そうすれば結果として自分で自分の感情をコントロールできるようになります。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

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モラハラと関連するキーワード

夫源病

夫源病とは、配偶者が心身の不調の原因になる状態を指します。勿論正式な病名ではありません。妻源病もあるでしょう。昔は「帰宅恐怖症」なんて言葉もありました。
相手の言動に恐怖やストレスを感じたり、自由が利かないことへの窮屈さ、欲求不満などが重なって相手の存在自体がストレスになってしまっている状態です。
夫婦関係が正常ではないために起こるのですから、片方だけが努力しても解消は難しいでしょう。だからこそ勢いあまって熟年離婚という結果になってしまうことも少なくありません。
何もしてないのに相手がそこにいるだけで自分が病気になりそう……、となる前に、コミュニケーションから見直す必要があります。
二人だけで解決が難しい場合は専門家を挟みましょう。カウンセラー、医師、法律家、NPOなど専門機関の担当者などですと、中立的かつ専門的視野で力になってくれるでしょう。

カサンドラ症候群

ケアラーなら一度は耳にしたことがある言葉だと思います。
カサンドラとはギリシャ神話に出てくる予言者ですが、その予言を誰にも聞いてもらえない女性です。自分が訴えていることを相手が聞き入れてくれない、という状態は非常にストレスです。
カサンドラ症候群は、パートナーが自閉症やASDの時に多いですが、モラハラ状態にあるパートナーも同様に相手の話に耳を傾けません。

片方がカサンドラ症候群に陥っている場合、もう片方が相手に対する共感や理解が不足しすぎていることが考えられます。
自分自身のことでいっぱいいっぱいになってしまうと誰かに共感する余裕がなくなります。そして余裕がない状態の原因を相手に見出している場合はさらに共感から遠のきます。

ここでもやはり大切なのはコミュニケーションです。
特に「相手の目線」になることを意識しましょう。
自分にとっては興味が無いことでも相手はあるかもしれない、自分にとっては片手間で出来ることが相手には違うかもしれない。
自分の視点からだけ状況を判断してそれを相手に押し付けていないか、を点検することで、相手のカサンドラ症候群を回避する手助けになります。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

まとめ

モラハラは、不文律のルール、文化となってその場を支配することが多いです。
特に家庭内は外部からは見えづらい上に、誰かに相談しても「ご家庭でしっかり話し合って…」と言われて再度蓋をされることも少なくありません。
そして早期対処が重要と言われつつ、している人もされている人も気づきにくいというのが最大の問題です。

モラハラが何か、を知ることは、それを糾弾することではなく、それに繋がる可能性がある要素を見極めて早い段階から対処して「モラハラ」にまで育てないために有効です。
誰がモラハラをするのか、ではなく、ハラスメントから家族全体を守る方法を、家族で考えていきましょう。

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