モチベーションを取り戻す心の技法

うつ病の家族を支えながらの生活は、心も体も消耗する日々の連続です。
「なんで自分ばかり」「もう頑張れないかも」と感じる瞬間もあるでしょう。
そんなとき、私たちに必要なのは、心のエネルギーを回復し、もう一度前を向くための“モチベーション”です。
この記事では、リラクゼーションで「ゼロ」に戻し、そこから再び一歩踏み出すためのモチベーションを取り戻す方法を、具体的なステップとともにご紹介します。
目次
- リラクゼーションの役割は「マイナス⇒0」にする
- どうして自分はここに留まっているのだろう
- 【ワーク】モチベーションの源を見極め、モチベーションを取り戻す
- モチベーションは「why(なぜ)」を「How(どうやって)」に変えられる
- まとめ
- 家族のことでいっぱいになった心に“わたし”を取り戻す時間を
リラクゼーションの役割は「マイナス⇒0」にする
①リラクゼーションの効能
疲れた時、やる気が出ない時、心が傷ついた時。
真っ先に無意識に取り組んでいるのがリラクゼーションだと思います。
リラクゼーションの役割は、疲労や外的刺激によってエネルギーが損なわれた心身を「ゼロ」、つまり平常時の安定状態に戻すことです。
リラクゼーションによって不安、怒り、不信、苛立ち、焦りなどが緩和されるので、本来自分がやるべき役割を果たすことが出来るようになります。
そして自分の役割を最低限であっても果たせたことで、自分への自信を取り戻すことが出来ます。自分を嫌いにならずに済むのです。
これが、リラクゼーションの持つ効能です。
②一人で実践できることに意義がある
『あなたのリラクゼーション方法は何ですか?』と聞かれたら、いくつ答えられますか?
3つくらい思いつけたらまずは安心です。
ここで一つポイントです。リラクゼーションは「一人で・毎日・手軽に」実践出来ることが必要です。
例えば『家族と一緒にお気に入りのレストランに食事に行く』ことが心の癒しになるとしても、家族の予定を合わせて行く日を決めて、お店によっては予約も取らなければいけません。その間ずっと疲れ切った心のままでいるのはつらいですよね。
「○○のコーヒーを一人でゆっくり飲んで30分過ごす」だったら、気が向いた時に自分だけで実践することが出来ます。そうすると、必要な時に取り入れることが出来て、いつまでも辛い心を抱え続ける必要はなくなります。
③ただ、前に進む力としては心もとない
ダメージを受けた心身を癒す力を持つリラクゼーションですが、では心身がゼロベースに戻ったから「明日から頑張ろう」とすぐに思えるようになるか、というと、また少し違います。
前に進む、とは、実はとても難しいです。
朝、家から外へ出るときのことを想像しましょう。そのために何が必要ですか?
- 目的地
- 目的地でやること
- やることに合わせた準備
などですよね。出勤するなら
- 会社
- 今日の仕事のスケジュール
- 服装や資料を用意する
となります。同じことが「気持ちの中」だけでも必要です。
それが「モチベーション」です。

どうして自分はここに留まっているのだろう
①後ろ向きでも、それが自分を支えるモチベーション
モチベーションは「前に進むために必要な要素」とお話しました。
と、なると、とてもポジティブなものを想像しますよね。
熱意とか、夢とか、目標達成とか。
ですが、モチベーションとはネガティブなものも含まれます。
- 不安へ対処する
- 恐怖を乗り越える
- 危機に対処する
ネガティブな未来・予想から自分を守るため、という思いもモチベーションになり得ます。
②ケア生活から逃げずにいる理由は何か
今、うつ病の家族をケアしている生活は、ネガティブな感情を感じることが多いと思います。
- いつになったら元気になるんだろう
- 先が見えなくて怖い
- 自分ばかり頑張って疲れているのでは
- 誰か私を支えてくれないかな
そう思いつつも逃げずにいる理由は何でしょう。
- 回復までが大変な病気だからこそ、自分が一緒にいてあげたい
- この人がいない未来より、病気でもいる未来のほうがいい
- すごい疲れるししんどいけど、私なら何とかなる
ポジティブ全開とは言い難いですが、ネガティブな状況の中でもこうした思いがコインの裏のようにセットになっているのではないでしょうか。
だから、逃げ出さずに続けられているんですよね。
それが「モチベーション」です。

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【ワーク】モチベーションの源を見極め、モチベーションを取り戻す
モチベーションとは「やる気」です。何に対してか、「可能性」に対するやる気です。
ではどんなものへの可能性だと「やる気」が出てくるのでしょうか。
またはどんなものがあると「可能性へのやる気」が出てくるのでしょうか。
その「モチベーションの源」を見つけるワークをやってみましょう!
①Step1|私が「本気で頑張った経験」を思い出す
次のような場面を1つ思い出してください。
- 誰かのために、無理をしてでも行動したとき⇒
- 自分が納得できるまで粘ったとき⇒
- 「しんどいけど、やめなかった」場面⇒
(例:「家族の通院を毎週つきそった」「夜中に泣く子どもを根気強く抱いた」など)
▶そのとき、なぜ頑張れたと思いますか?
⇒
(例:「後で後悔したくなかったから」など)
②Step2|「私は何を大切にしているのか」を探る
上の経験を振り返って、そこに込められていたあなたの価値観を見つけてみましょう。
以下の例から選んでも、自分の言葉で書いてもOKです。
愛情/責任感/信頼/誠実さ/感謝/平和/役に立ちたい/正しさ/希望/安心/家族への思いなど
▶「私は〇〇を大切にしていたから、あのとき頑張れた」
1つ目の価値:( )
2つ目の価値:( )
3つ目の価値:( )
③Step3|今の生活に活かす
最後に、その価値観を今の生活の中で「どう活かせそうか?」を考えてみましょう。
▶今の生活の中で、その価値を活かせることは?
(例:「安心を大事にしたい→まずは自分がリラックスできる時間をつくる」)
( )
いかがでしたか?
何か1つでも思いついたものがあれば、それがあなたの「モチベーションの源」です。これに気づくことによってモチベーションを取り戻す第一歩になります。

モチベーションは「why(なぜ)」を「How(どうやって)」に変えられる
モチベーションとは「自分がポジティブだと感じられる可能性へ向かうやる気」です。
辛い状態にあるとき「なぜ(why)こうなってしまったのか」に思考が囚われがちです。
ただ、結果に対する理由(なぜ)は一つではありません。同じ要素が揃っても、それが自分にとって問題化するかどうかも状況によって異なります。
なぜ、が見つかったところでそれを今後完全に排除することは難しいでしょう。
今の状態から抜け出す・問題を解決するためには「なぜ」という問いを「どうやって(How)」に変えて行動を増やしていくことが一番効率的です。
モチベーションはその転換を可能にします。だからモチベーションを取り戻すことが大事なのです。
ロゴセラピーの創始者で「夜と霧」の著者であるヴィクトール・フランクルの言葉を借りて解説いたします。
①人生の意味は、自分で見出すもの(Frankl,v)
いきなり突き放したような言い方になってしまいますが、人生の意味は人それぞれです。そしてその人生を生きるのは自分自身です。他人が決めた意味を糧に生き抜けるほど人生は容易くありません。
例えば「うつ病の家族に寄り添って理解を示して無私で支え続ける」ことを価値とする人がいたとして、それをまるっとまねできるでしょうか。
または「自分には自分の人生がある。そのためにはこの先一緒に生きていけない」と離婚を選ぶことをそのまま自分が出来るか、というのも違いますよね。
- なぜ今の困難な状況から逃げ出さないか
- その中で得ているものは何か
- 得たものが自分にどんな意味を持っているのか
これは、自分自身で見つけていくものですよね。
②人間は“意味を求める存在”である(Frankl,v)
病気の家族を気遣いながらの生活は、一見すると辛いことだらけの困難ばかりの生活に思えるかもしれません。
だけど現実には、その困難の中で毎日生活しています。
それはどうしてでしょうか。
自分なりに、その生活の中に「大切にしたいもの」を見出しているのではないでしょうか。
それは家族だったり、自負心だったり、やり甲斐だったり、信頼関係かもしれません。
普段はあまり意識することはないかもしれません。無意識にやっているのでしょう。むしろ無意識にやっているからこそ、頭で考えるよりもずっと力強いのかもしれません。
③状況は変えられなくても、態度は選べる(Frankl,v)
「自分にはどうしようもないことの連続で、自分はいつでも受け身で被害者だ」と思ってしまっているとしたら、少し見方を変えてみましょう。
先ほどの事例のように、他の人の真似をすることで、今の状況に身を置き続けずに済んだ「もう一つの現在」もあり得たはずです。
しかし今あなたはここにいます。
それは自分が選んだ結果、と言えなくはないでしょうか。
そしてもっと自分中心の人生から「今」を眺めてみましょう。
病気の人と、ケアする自分。
自分が色んなものを背負っているように見えます。
しかしそれは「ケア」という視点からだけです。
自分自身にとってはどうでしょうか。
自分は病気ではないとしても、それぞれ問題や課題、コンプレックスなどを抱えています。
その視点で見た時、自分は100%の被害者でしょうか。
実は自分自身の抱える課題を癒すために、自分から「今の状況」を選んでいる、ということも十分にあり得るのです。

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まとめ
モチベーションとは、決して特別な目標や熱い夢を持つ人だけのものではありません。
日々の暮らしの中で「やめなかったこと」や「頑張れた瞬間」にこそ、その源は存在します。
特に、うつ病の家族を支えるような厳しい状況の中で逃げずに踏みとどまっているあなたには、すでに“自分なりの理由”=モチベーションがあるはずです。
この記事でご紹介したワークでは、自分が本気で頑張れた経験や大切にしている価値観を振り返ることで、今後の生活に活かせる「内なる力」を再確認していただけたかと思います。
困難な現実に対して「なぜこうなった?」と考え続けるのではなく、「どうすれば、少しでも楽になれるか」「どうやって、自分の価値観に沿って動けるか」と視点を変えることで、モチベーションは静かに、しかし確かに再点火していきます。
自分だけの意味を見出し、モチベーションを取り戻すことで、一歩ずつ歩いていきましょう。