家族のうつ病にどう向き合うべきか? -アドラー心理学で考える-

家族のうつ病にどう向き合うべきか? -アドラー心理学で考える-

家族のうつ病は、一体だれがメインで向き合うべき問題なのでしょうか。
うつ病など精神疾患の場合、患者本人が向き合うためには時間が必要です。その間は家族が代替するしかない。
しかしいくら家族でも本人ではないのです。出来ることに限界がある。能力や努力とは別の次元で、です。
今回はアドラーの「課題の分離」を軸に、家族のうつ病に対しケアラーはどう向き合うのか、を考えました。

目次

  1. 家族のうつ病は、誰のもの?
    1. 病気の症状は本人のもの
    2. 病気そのものに家族は直接関与出来ない
  2. アドラーの「課題の分離」とは
    1. 課題の分離とは
    2. 課題の分離の基本原則
    3. 実践のポイント
  3. ケアラーにとって「家族のうつ病」とは何か
    1. 今までの生活を一変させる一大事
    2. 病気ではない家族員も大きく影響を受ける
    3. 自分自身を見つめざるを得なくなる
  4. 病気本人の困りごととケアラーの困りごとは違う
  5. ケアラーが向き合う「課題」とは
    1. 相手への信頼
    2. 生活基盤の整備
    3. セルフケア
  6. まとめ

家族のうつ病は、誰のもの?

病気の症状は本人のもの

まず、病気とそれによる症状は、しんどさも悩みも全部本人のものです。
当たり前と言えば当たり前のことですよね。
例えば包丁で指を切ったら、痛みを感じるのは指を切った人です。血が出るのも、怪我が治るまで動作上不自由するのも本人です。
うつ病も同じです。うつ病によって気持ちが沈んだり眠れなくなったり食欲が落ちたり、時に死にたくなってしまうのも、感じているのは全部本人です。

病気そのものに家族は直接関与出来ない

苦しさは全部本人のもの、といっても、一緒に生活している家族はその姿を直接見ています。直接苦しんでいる姿を見ている、というのは、その様子を話として聞くのとは全く重みが違います。

それでも、家族は病気そのものに直接関わることは出来ません。何故なら病気を治療するのは医師で、治療を受ける(医師の指導通りの生活を送る、薬を飲む、通院する)のは患者本人で、どちらも家族ではありません。

『家族のうつ病は誰のもの?』
それは病気になった本人のものなのです。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

≪こちらも読まれています≫ 家族の精神疾患を受け入れるためのステップ

アドラーの「課題の分離」とは

課題の分離とは

A.アドラーの個人心理学の理論の一つです。何か課題(問題、悩み、トラブルなど)に対処する必要が発生したとき、主として対応するのは誰なのか、を見極めて、他者の課題には踏み込まないことで人間関係上のトラブルを低減する、という考え方です。

『課題の分離とは、自分の課題と他者の課題を明確に分離して、他者の課題には踏み込まないようにすることです。
機嫌が悪いのは上司の課題であって、あなたの課題ではありません。自分の課題が何かと言えば、この場合「上司からの評価を気にしすぎる自分」が課題でしょう。つまり評価を気にしすぎてしまう自分を手放すことが必要です。』(ミイダス)

課題の分離の基本原則

課題の分離を行う上での基本原則は、以下の3点です。

  • 他人の課題と自分の課題を区別する

他人が取り組むべき課題と、自分自身が取り組むべき課題を分別する必要があります。
例えば家族が仕事上のトラブルを抱えて悩んでいる、とします。
精神的に不安定になり、夜も十分に眠れていないように見えると「早くそのトラブルが解決して欲しい」と考えます。
しかしトラブルを解決するのは、こちらの課題ではありません。本人=他人の課題ですよね。
出来事だけでなく、感情も同様です。
その課題を解決する責任は自分にはない、と認識することが必要です。

  • 他人の課題に干渉しない

他人が取り組むべき課題に干渉しすぎたり、更には自分が解決しようとすることを止めます。
上記の例で考えると、「仕事のトラブルが解決すれば楽になるはず」と考えて、自分がトラブル解決の方法を提案したり、それを実行するよう強く要求するような事態はNGです。
何故ならそれはその人の領域で、苦しんでいる状態から解放してあげたいという気持ちが出発点だとしても、他者への干渉になってしまうからです。

  • 自分の課題に集中する

そして自分は、自分自身が取り組むべき課題をしっかりと認識することで、そちらに集中しましょう、という原則です。
課題が何一つない、という人は滅多にいないでしょう。稀にそういう瞬間があるかもしれませんが、それなら尚更その稀有なタイミングはセルフケアなど自分のために使うべきです。
自分で自分の課題に集中する、ということは、自分軸に沿って努力し行動出来る、ということですから、自己評価の向上につながります。
そして集中して取り組むことがあると、他者の課題に過度に干渉することもなくなり、結果として課題の分離が出来るようになります。

実践のポイント

課題の分離を実践するポイントは、以下の3点です。

1つは「境界線を設定する」です。
自分と他者の間の境界をはっきりさせることで、他者の課題に引きずられないようにすることが出来ます。
まずは物理的に分けることがポイントです。常に一緒にいるとどうしても影響を受け、特にネガティブな影響であれば他者の課題なのに自分の課題と錯覚してしまいます。
時間的な境界線も大事です。話を聞くとしても無制限に聴き続けるのではなく、夕食後の30分、など、自分なりに制限を設けておくと区分しやすくなります。

2つ目は「他者の感情を受け入れる」です。
課題の分離と相反するように思われるかもしれませんが、他者が感じている感情を否定しようとすると、逆に自分の課題と認識してしまうことがあります。
先ほどの事例で考えると、仕事上のトラブルのせいで家族が自分の上司に怒りを感じている場合、その怒りの感情を否定しようとしても本人が怒っているのだから否定しきれません。
それでもなお否定しようとすると「トラブルが続いているのが悪いんだ。早く解決しなければ」と考えて、他者の課題に干渉するようになってしまいます。
他者の感情はその人のものであって、自分のものではない、感情に対してどう対処するかはその人が決めることだ、と認識することが「感情を受け入れる」ということです。

3つ目は「自己主張」です。
自分の意見や感情を率直に伝えることが大切です。主張、と聞くと強めのアピール・自己表現のように思われるかもしれませんが、もちろん違います。
『あなたは今とても悩んでいるんだね。大変そうだね。でも仕事のことに口出しは出来ないから、応援しているね』
と、課題を分離して捉えていることを伝えることは、自分の立場を明確にすることに繋がります。

アドラーの「課題の分離」とは

ケアラーにとって「家族のうつ病」とは何か

今までの生活を一変させる一大事

ケアラー(病気・障害を持った家族を同居してケアしながら生活している人)にとって、家族のうつ病は一大事です。
うつ病に限らず家族の誰かが病気や怪我を負うことは大問題ですが、うつ病(その他精神疾患)が違う点は、本人に病気を治す意欲がほぼなくなってしまうことです。
症状によって辛くて苦しいのは変わりません。しかし「辛いから頑張って治そう」と思えるようになるまでに時間がかかり、様々なステップや働きかけが必要です。
辛いから治そう、ではなく、消えたい・生きていたくない・死にたい、というベクトルへ向かってしまうのです。
ずっと一緒に生活してきて、それがこの先ずっと続いていくと無条件に信じていた家族が「生きていたくない」と口にする。
そのショックは他の病気にはないものです。

病気ではない家族員も大きく影響を受ける

そして家族のうつ病の影響は精神的な負荷だけではありません。
うつ病になると、ほぼそれまで通りの生活は送れなくなります。学校も、仕事も、家事も出来なくなります。死なないでいることで精いっぱいなのがうつ病急性期です。
となると、本人が今までになってきた社会的・家庭内での役割は他の家族が背負うことになります。
会社に行けなくなれば給与が減ったり無くなったりするので、その補完・代替方法を考えなければいけません。
一日中家にいる状態で、更に一人にしておくのが心配で自分の行動が制限されることもあります。服薬管理も最初のうちは手伝わなければいけません。
家族自身の生活も大きく変化することになります。

自分自身を見つめざるを得なくなる

家族のうつ病で生活が一変すると、ケアラー側に一気に負荷がのしかかります。
今までやってこなかったことがたくさんあることに気づきます。それは必要がないからやらなかったものもあれば、病気本人が担っていたからやらなくてよかった、ということもあるでしょう。
そして急激に増えた役割や負荷を、全部こなせるとも限りません。得手不得手、経験の有無もありますが、キャパシティがそもそも有限だからです。限界を超えて抱え込めばケアラーも不調を来たすことになります。
自分は何を賄えて、何が出来なくて、何を第三者に頼るべきなのか、を考えなければいけません。
半強制的に自己分析、棚卸、自己受容せざるを得なくなるのです。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

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病気本人の困りごととケアラーの困りごとは違う

最初にもお話しましたが、病気から来る症状とそれによって何をどう困るか、は、患者本人の課題です。
うつ病の症状で眠れない→朝起きても頭も体も重い→日中集中力が続かない→ミスが増える→落ち込む、というサイクルは、家族として見ていて辛いですが、実際に感じて体験して、それによる責任を負うのは本人です。
責任を負う、というと、本人に全部擦り付けているように聞こえるかもしれませんがそういうことではなくて、それによる影響を引き受けざるを得ないのは本人、ということです。
例えば睡眠障害のせいで頭がぼんやりして会社と反対方向の電車に乗ってしまい遅刻した、としたら、会社に連絡し、出社後に遅刻の手続きをして上司に報告し、その後の対処をするのは全部本人です。病気の診断を受けていてそれを会社が知っていたとしても、遅刻をなかったことには出来ないでしょう。

では家族は、というと、家族のうつ病によって起きた環境変化に対応するのが「自分の課題」となります。
例えばうつ病なら主治医の指示通り薬を飲んでいるかどうか、それによる副作用で食事の内容を変えなければいけなかったり、アルコールNGになったストレスで愚痴が増えたらそれにつき合ったり、感覚過敏気味になれば周囲の環境に気を配ったり防音や光の強さなどへの対処も必要になります。ちなみにうちは転居しました。
家族の病気から来る変化に対処することを、自分の課題として引き受ける・納得することが、最初に向きうべき課題かもしれません。

そして家族のうつ病が引き起こす変化ストレッサー(ストレス源)です。
ストレスを感じること自体が「悪いこと」と思う方がいますが、それは違います。そこに良い悪いの判断は必要ありません。
大事なのはどうやって対処するか、です。
病気の症状に対するストレスに対処するのは病気本人、家族が苦しんでいることから受けるストレス・環境変化への対応での疲れに対応するのはケアラー側の課題です。

家族のうつ病において、病気本人の困りごととケアラーの困りごとは違う

ケアラーが向き合う「課題」とは

相手への信頼

ケアラーが向き合わなければいけない課題は、大きく分けて3つです。
1つ目は病気本人への信頼です。
この場合の信頼とは「回復する希望を持つこと」「家族と一緒に生きていくこと」を諦めないでくれる、という信頼です。
病気になった直後はお互いに混乱していますから、感情に任せたコミュニケーションをとってしまいます。ケンカにもなるし、相手が希死念慮に囚われることもあるでしょう。
でもそれも病気の症状の一つです。休養し、薬の効果が現れて安定してくれば「また頑張って社会復帰しよう」と思えるようになるし、「支えてくれる家族とこれからも一緒に生きていきたい」と願うようになります。
必要なのは時間です。

生活基盤の整備

地味ですがこれが一番大事です。
大変だよね、無理しないでね、ゆっくりしてね、など色んな言葉を1日のうちに何度もかけることになると思いますが、大事なのはそうした声かけよりも安定した生活です。
そのために何が出来るか、の情報収集です。
うつ病で休職しなくてはいけなくなった時、自立支援制度や傷病手当金の申請、将来的に障害年金を申請するために通院履歴を保管しておく、生活上のランニングコストを減らすための工夫などは家族が向き合う課題です。
もちろん全部一人ではできません。市役所やソーシャルワーカー、主治医に相談しながら進めることになります。

セルフケア

そして自分をケアすることも絶対条件です。
病気の人がすぐそばにいればその人のケアが常に最優先になってしまうかもしれません。とはいえ自分のケアをしなくていい、ということは無いでしょう。絶対にどこかで負担を感じてネガティブなストレスを感じているはずです。
それに気づかない、感じないようにしようとしているだけです。
セルフケアは「出来るときに」と思っていると出来ません。スケジュール化することをお勧めします。
毎日夜○時から1時間は自分だけの時間、とか、週末の午後は自分の趣味の時間に使う、などです。
そしてセルフケアすることへの抵抗感を減らすことが、自分の課題と言えるかもしれません。

家族がうつ病になったとき、ケアラーが向き合う「課題」とは
惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

≪こちらも読まれています≫ 家族ケアラーのQOL ~自分の経験から~

まとめ

  • 家族のうつ病は、患者本人のもの
  • アドラーの「課題の分離」とは何か
  • ケアラーはどうやって家族のうつ病という課題を分離するのか
  • 本人と家族の困りごとは「直接」関与するか否か
  • ケアラーが向き合う課題は「信頼」「生活」「セルフケア」

家族のうつ病に対して「どう接したらいいか分からない」というのは、専門知識がないとか経験がないということばかりが理由ではないと思います。
相手のことを思いやり過ぎたり、病気が早く良くなって欲しいと思い過ぎることで相手の領域に踏み込んでしまうことで、役割迷子になってしまうのです。

家族に出来ること、本人が向き合うべき課題を仕訳けることが出来ることで、共倒れを防止することに繋がるのです。

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