傾聴と夫婦のコミュニケーション
~夫婦関係を深めるための傾聴の重要性と実践方法~
何かしら理由があって、夫婦関係の修復やコミュニケーションの見直しの必要性を感じることが、夫婦にはあります。
とはいえ、ずっと一緒にいてお互いをよく知っているからこそ、何から取り組めばいいのか分かりません。
今までのやり方では解決出来なかったからこそ生まれた悩みなら、そのやり方、コミュニケーション法を変える必要があります。
その方法の一つが「傾聴」です。
目次
傾聴とは
相手の話を無条件で聴く
傾聴とは、音声・情報として「聞く」のではなく、相手の感情や言葉以外から伝わってくる者も含めて「聴く」姿勢のことです。
傾聴とは、「耳」「目」「心」を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法。
カオナビ
相手との信頼関係を築くだけでなく、傾聴を通して自分自身を知り、感情のコントロール等精神的成長を促すきっかけにもなります。
例えば片手間だったり、相手の話を否定するような態度で始まるものは「傾聴」ではありません。
傾聴の利点
傾聴の利点は、主に以下の4点です。
✅信頼関係の構築・強化
話し手にとっては「自分を理解し受け入れてくれている」と感じることが出来るので、信頼関係に良い影響があります。
✅コミュニケーションの改善
傾聴することにより相手をより深く知ることが出来るようになります。それは今後のコミュニケーションにおいて、誤解やすれ違いを防ぐ効果があります。
✅解決策の発見
傾聴したときすぐに解決策が見つかることはないかもしれませんが、自分を受け容れて理解しようとしてくれている人相手に重要なテーマを話すことが出来ると、話し手は自分の思考や感情を整理することが出来るので、後から新しい視点やアイデアを発見することが出来ます。
✅ストレスの軽減
傾聴してもらうことで、話し手は感情や心的ストレスを発散することが出来て、メンタルを安定させることが出来ます。
「聴く」対象は言葉だけではない
上述したように、言語情報だけを聞こうとすると情報不足になります。
誰か友人や家族の話を真剣に聴くときのことを想像してみてください。
二人だけの空間で、相手の声だけが耳に入ってきます。
自分の前には何かを真剣に訴えている相手がいます。
言いづらいことなのか、思い出すのも言葉に出すのも辛いのか、目線は定まらず、声もいつもより小さくて、手を組んだり下に下ろしたり忙しないです。
そうした全身から発してくる思いも受け取りながら相手の訴えに聴き入ることが「傾聴」です。
こうした言葉以外で発信される情報を「非言語情報(ノンバーバル情報)」と呼びます。
何のために傾聴するのか?
傾聴とは聴く側も全集中して聴くので、普通の会話やコミュニケーションとは質が違います。いつでもどこでも傾聴的態度を取ることは難しいでしょう。
本当に心から傾聴しようとすれば、それは自ずと「目的」「理由」があるはずです。
何のために相手の話を傾聴するか、を意識することで、集中を妨げずに聴くことが出来ます。
例えば相手が『今の仕事を続けるか辞めるか迷っている』という話を聴いている場合。
問題が大きいので、一度の会話(傾聴)で「辞めるか続けるか」の結論に至ることはないでしょう。ならば「結論を出す」ことが目的ではありません。
仕事とは生活上欠かせない要素です。それをどうしようか、と悩むことは、一人では抱えきれないほど大きな悩みです。
自分で答えを出さなければいけないことは分かってる、けれど誰かに聞いてほしい、という迷いや苦しみが傾聴的態度を必要とする会話の発端です。
聴く側の目的は「一人でずっと考えてきて辛かったんだな。ならば今は辛さを全部吐き出させてあげよう、そこに共感しながら聴いていよう」となるでしょう。
≪参考情報≫ 傾聴とは(こころの耳)
傾聴の方法
相手の話に全神経を集中させる
まず、何か大事な話になるでしょうから、周囲を気にして話が妨げられるようでは十分に聴くことは出来ません。会話に集中出来る環境かどうか、を確認します。
その上で、相手が話し始めたら、目を合わせて興味を示し、相手の話に耳を傾けます。他のことに気を取られないように心掛けましょう。
非言語情報に注意を払う
先にお話したように、向き合って話を聞いていると、言葉以外からも相手の状況や心情を察することが出来ます。
声の大きさ・トーン、語尾、目線、身体の動き、自分との距離、仕草、話す速さ、沈黙の回数や長さなど。相手が普段どのように話をする人かを知っていれば、尚更その違いを把握しやすくなります。
なぜこうしたものから相手を理解することが出来るのでしょうか。
それは人間の脳にある「ミラーニューロン」という神経細胞の働きです。
どんな心情の時にどんな動きをするのか、を、自分自身の傾向や過去の他者とのコミュニケーション履歴を参照して想定します。
大事な話は、話す当人にとっては中々言語化しずらい内容であることが多いです。
ならば尚更、非言語情報から得られる理解は重要になります。
相づち・頷き・問い返しを時々入れる
傾聴するときは相手が話す量がメインです。聴く側は相手を観察するような態度で理解を進めていきます。
ですので、聴く側が発言することはほとんどありません。
それでも相手もレコーダーに向かって話しているわけではありませんから、聴いてくれている人の反応は気になります。
聴く側が適切な反応を示すことで、話す側もリラックスして更に話しやすくなっていきます。
✅相づち:へえ、そうなんだ、それで?
✅頷き:非言語な仕草(目線、首や顔の動き、呼吸)
✅問い返し:その時○○さんはどうしてたの?
聴く側による相づちや問い返しは、話す側が無意識に取りこぼしていた情報に気づくきっかけにもなります。
相手が一番強く訴えてくる感情を理解する
言葉と非言語情報から、相手が抱えている感情の中で何が一番強いのか、理解してもらいたいと思っているのか、が自ずと伝わってきます。
上記の「仕事を続けるか辞めるか」の例で考えると
✅会社・上司への不信、怒り
✅将来への不安
✅報酬や待遇への不満
などが考えられます。
一番強い感情に関連する言葉が一番たくさん出てきますし、その感情について話すときが一番力強い言い方になるかもしれません。
その感情を軸に傾聴しましょう。
肯定も否定もしない
聴いている側にもその人なりの思考、感情、立場がありますから、相手の話を聞きながら
✅それは違うのでは
✅相手(ここにいない第三者)の言い分もあるだろう
✅この人の努力不足では
など、自分なりの意見も出て来ます。
しかし傾聴している間は一旦それらは封印しておきましょう。
そして相手の言い分に無理に同意・同調する必要もありません。
否定も肯定も、良い・悪い、正しい・間違っているといった判断もせず、ただ聴いて理解することに集中しましょう。
≪こちらも読まれています≫ 精神疾患の家族に共感する:メリットと向き合い方
傾聴的態度のポイント
相手の話・テーマに興味を持つ
傾聴に限らず、自分が興味を持てないストーリーや状況に集中することは困難です。すぐに集中が途切れます。そして適当な態度になってしまう。
集中出来ないのにしなければいけない状況にストレスを感じて、その場に対する不満だけでなく相手との関係や信頼にまで影響してしまう危険があります。
相手の話が「面白いかどうか」ではありません。
相手が話す内容に、自分なりの視点を持ちましょう。自分との共通点や、過去の経験でもいいと思います。
結論、解決策、答えを探さない
傾聴を必要とするテーマの場合、聴く側に結論や解決策を求めていることは少ないです。
もし結論や解決策が欲しいなら「相談」になります。そしてそれにふさわしい立場の人を相手に選ぶでしょう。
特に夫婦間コミュニケーションで傾聴する場合、目的は答えを導き出すよりも「聴いてほしい」という話し手の欲求がメインです。
まずは無条件・無批判で相手の気持ちに全集中して聴く。その効果として、後日話し手なりの結論が見えてくるでしょう。
実際の結論や回答が決まる「相談」は、傾聴の後にやってきます。
話す量は相手7~8、自分3~2
傾聴する側は相手の話を聞き、話す姿などから感情を読み取り、相手を理解することがメインです。話すメインは話し手です。
傾聴する側が持論を展開してしまっては話し手が十分に話つくせません。それでは傾聴は失敗です。
傾聴側は相づち・問い返しメインと考えましょう。話し手から「どう思う?」など意見を求められた時に話をすれば十分です。
≪こちらも読まれています≫ 夫婦の情緒交流
傾聴するときに気を付けること
適切な環境かどうかを確認する
「2.傾聴の方法」でもお話しましたが、話をする環境は重要です。
会話が遮られてしまうほど騒々しい場所では集中出来ませんし、かといって図書館や美術館のように静かな場所での会話はNGです。周囲に人が皆無である必要はありませんが、話の内容に直接関わる人が現れる可能性がある場所では落ち着きません。
仕事に関するものなら守秘義務等にも気を付ける必要があります。
夫婦の会話なら守秘義務云々はあまり関係ないかもしれませんが、逆に他の家族(子供、親)に聞かれたくない内容なら、家以外が適しているかもしれません。
相手の話を遮らない
傾聴的態度で話を聴こう、と思う相手とは、自分にとって重要かつ親密な相手であることが多いです。
それは反面、気安く何でも言える相手でもあります。
そうすると、つい普段と同じノリで「それってさぁ」と相手の話を遮ったり割って入って自分が話し始めてしまう危険があります。
傾聴しよう、と思っている時は、注意して自分が会話の主導権を握らないようにしましょう。
沈黙を怖がらない
会話が苦手な人の理由の一つが「沈黙が怖い」です。
相手が黙ってしまうのは、自分の言葉や態度が気に入らなかったからでは、と解釈するので、少しの沈黙でも我慢できず何か話し始めてしまいます。
しかし沈黙とは、相手に対する無言の抗議だけではありません。むしろそのケースは少ないです。
多くは自分の考えを反復したり、感情を見極めている時間です。
非常に大事な時間なのです。
相手の思考と感情が整理されたら、また相手が話し始めてくれます。それをじっと待ちましょう。
夫婦間で傾聴を活用するポイント
全ての会話で傾聴を意識する必要はない
ここまで読んでいただいてお分かりのように、傾聴とは非常に有効かつ有益なコミュニケーションですが、それだけに非常に難しいですし疲れます。
特に夫婦のようにほぼ常に一緒にいる相手に、生活上すべてのコミュニケーションにおいて傾聴的態度を貫くことは無理です。1日ももちません。
傾聴する必要がある場面かどうかを見極めて活用しましょう。
相手への思い込みを排除する
夫婦とは非常に濃密な関係です。唯一無二の相手であるだけでなく、生活を共にし、法律上も他の家族よりはるかに重要な関係として位置づけられています。
それだけに、自分の中に強い「相手像」があります。それは理解しているとも言えますし、思い込みが全くないとも言い切れません。
思い込みとは、「こういう時、この人はこういう判断をするけれど、それはまたこういう結果になるに決まっている」という強い想像です。思い込みは相手の「今」を理解することを妨げます。それでは傾聴にはなりません。
相手の話と自分の主義主張を分けて聴く
傾聴とは、相手を深く理解することが目的です。
理解することと「相手に同調・同意する」ことはイコールではありません。
相手が「あの状況で○○と言われて辛かった」と訴える、その理由と感情を理解するために非言語情報も含めて本気で聴き入り、理解すればOKです。
聴く中で「自分ならその状況で○○と言われてもそんなに辛くないけどな」と思うかもしれませんが、それを相手に言う必要もないし、自分で自分の考えを否定する必要もありません。
そうした感じ方の違いを知ることが出来るのも、傾聴の効果の一つです。
≪こちらも読まれています≫ 夫婦のコミュニケーションとは?
すぐできる夫婦コミュニケーションでの傾聴トレーニング
一方が話す間、もう一方は静かに聴く
話す量が「相手7,自分3」にする、と言っても、その量を計測することが出来るわけではありません。相手が「十分に聴いてもらえた」と実感できることが大事です。
そのためにも、相手が話している間は、それが一区切りするまで聴くことに徹しましょう。
聴く側は「相づち、頷き」です。
フィードバックの練習
フィードバックとは「ある活動やプロセスに関する情報や意見を提供すること」です。
傾聴の場合、良い悪いの判断をしないことが原則です。目的は相手を理解することです。自分の理解度を相手に伝えることが傾聴におけるフィードバックです。
「○○について△△だと考えて悩んでいたんだね、それが不安で辛かったんだね」と返すことで、相手は理解されたことに安心します。もしズレているなら修正が入るでしょう。
相手の話に含まれる感情に敏感になる
傾聴は、話し手が伝えたいことを非言語情報まで含めて理解することです。
それは事実認定よりも感情を受け容れることが優先されます。非言語に現れるものは事実ではなく話し手の感情だからです。
特に夫婦間のコミュニケーションでは、相手の感情に寄り添いやすいです。なぜなら職場の同僚のように「相手の立場」を考える必要が無いからです。
社会的な立場や条件を無視できる夫婦という特別な関係の中で、話し手が抱えている感情を敏感に感じ取りましょう。
頻繁に繰り返す言葉、語調、引き合いに出す過去の出来事などから拾い上げることが可能です。
そして夫婦なら、相手がその感情を抱えている時に何がネックになるのか、も予想出来ます。例えば不安感が高まっている時は眠りが浅くなって食欲が落ちる、という特徴を知っている、などです。
傾聴する中で話し手の感情に敏感になることで、傾聴以外の場面での配慮にも変化が現れます。これは夫婦ならではの傾聴のメリットと言えるでしょう。
まとめ
傾聴とは、ただ音声情報を聴く、ということではありません。
相手が話す言葉だけでなく、非言語情報にも意識を配り、全身で相手が訴えたい内容と向き合います。
その姿勢を「傾聴」と呼びます。
何か問題を解決することや、傾聴することで相手に感謝されることが目的ではありません。
夫婦の場合、長い期間一緒にいることによる「慣れ」が弊害になり、相手の変化に気づきづらくなって、そのズレが表面化することがあります。そのすき間を埋めるための方法の一つです。
本気で傾聴する態度は相手にも伝わります。その繰り返しが、夫婦間の問題解決の糸口になります。
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