うつ病夫婦の共倒れ防止策
共倒れ、とは、ケアや介護をする人にとってはとても怖い未来です。
家族内で共倒れしないために、福祉制度や介護保険制度では色んな支援があります。
しかしうつ病夫婦の共倒れ防止策はまだ十分とは言えません。
うつ病になった人を夫婦で支えるとき、共倒れをどのように防止すればいいか、を考えました。
1.何故共倒れしそうになるのか
うつ病夫婦の共倒れ問題には、その特徴ゆえのリスクがあると考えています。
①「夫婦」という関係性
夫婦とは非常に強い繋がりのある関係です。本人たちが感じている強さだけでなく、法律上でも「配偶者」とは何を置いても一番最初に責任や権限、取り分が与えられる存在です。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」なんてことわざもありますが、夫婦の問題は当事者にしか分からない、と周囲も見做しています。
それは実際その通りなのだと思いますが、「夫婦にしか分からない」と見做すことで、それ以外の周囲や関係者が関わったり間に入ることに躊躇してしまうことにもつながります。
夫婦間で解決出来ないような重大事まで「夫婦なんだから」でノータッチにされてしまいます。
②うつ病の特性
うつ病の症状は様々ありますが、共通して言えるのはネガティブな思考や感情から受けるダメージが通常時よりとても強くなる、という点ではないでしょうか。
長年夫婦として過ごしてきた相手へ、従来通りの声かけをしただけなのに「どうしてそんなことを言うんだ」「自分が全部悪いんだ」「こんな自分はいないほうがいいんだ」という思考へどんどん発展していってしまうのを目の当たりにすることは少なくないでしょう。
そのような体験を繰り返すと、ケアする側は相手の反応を注意深く観察し、可能な限り刺激しないように振舞う習慣がついていきます。
それ自体は問題ないのですが、やり過ぎることでケアラー自身の疲労が見逃され、同じような抑うつ症状を呈するようになる危険があります。
③社会人としての体面
夫婦ということはどちらも成人です。成人同士が一家をなしていれば、そこにいるだけで一定の責任が発生します。夫婦はそれを果たすだけでなく、周囲への体面を気にします。
体面を気にしすぎるあまり、問題が隠されてしまいます。
うつ病で会社を休職しても、外へ出るときに身なりを整えている姿が見られれば周囲は特に気に留めません。気に留められたくないから整えているのですから当たり前ですが。
しかし「体面を気にしてちゃんとする」振舞いゆえに、周囲が気づかない、気遣ってもらえない、というデメリットも発生します。
うつ病が夫婦二人だけの問題として狭い空間と密着した関係性の中でだけどんどん凝縮されて行くのです。
2.共依存とは
「共依存」という言葉があります。共依存はうつ病に限らず、近い関係性では起こりえる問題です。家族でなくても恋人同士、友人同士でも起こりえます。
①共依存の定義
「自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態(アディクション)を指す。
wikipedia
すなわち「人を世話・介護することへの愛情=依存」「愛情という名の支配=自己満足」である。
共依存者は、相手から依存されることに無意識のうちに自己の存在価値を見出し、そして相手をコントロールし自分の望む行動を取らせることで、自身の心の平穏を保とうとする」
やっていることそのものは相手へのサポートやケアなので、社会的には歓迎される行動です。
しかしそうした行動を通じて相手を支配しようとしたり、ケアやサポートが必要ではない状態になることを阻止したりします。それはケアする側だけでなく、ケアされる側も同様です。
②何故共依存が起こるのか
上記の説明にあるように、互いに依存し合っている状態によって「自身の心の平安を保とうとしている」のが共依存です。
相手がいなければ心が不安定になってしまうのです。
ということは、共依存が起きやすくなる条件として
- 低い・不安定な自己評価
- 自分の役割が不明確
- 孤独への不安が強い
ことが考えられるでしょう。
③うつ病夫婦の共倒れと共依存の関係
夫婦のどちらかがうつ病になったとき、一見片方がもう片方を一方的にケアするだけの関係のように見えるかもしれません。
しかし「うつ病」という要素以外の、自己評価や孤独への不安、自分の役割や生きがいが不明確といった条件が加わると、あっという間に共依存関係が出来上がってしまうでしょう。
何故共依存がダメなのか。
それは、「うつ病患者」と「それをケアする立場」が生きていくうえで絶対に必要になってしまうため、共依存関係になるとうつ病を改善するための努力が出来なくなってしまうからです。
3.うつ病夫婦の共倒れを防止するには
夫婦という濃密で強力な関係の中で、場合によっては共依存が起こりうるリスクも孕んだ状況にありながら共倒れを防止するために出来ることとは。
それは何を置いても「それぞれの自立」です。
自立、といっても、病気真っ只中の本人を放置するとかケアをやめるとか、そんなことではもちろんありません。
病気になっても、その人にはその人の意思、欲求、辛さがあります。それはケアラーも同様です。
自分自身の意思、欲求、辛さを自覚することが、自立の第一歩です。
そして相手のためと言ってそれを半永久的に放棄してはいけません。相手がどんなに辛くても、自分の意思・欲求・辛さまで差し出してしまったら共倒れ一直線です。
それぞれが自立するために具体的に気を付けて頂きたいのは以下のような点です。
- ほどよく心身の距離を取る
- 一人の時間を持つ(定期的に)
- 夫婦の間に他者を入れる(他の家族、主治医、カウンセラー、ソーシャルワーカーなど)
- 「私が・相手がいなきゃ生きていけない」と考えない
- 自他尊重(お互いの人権を尊重する)
これが未成年の子ども相手だとまた変わってくるかもしれませんが、夫婦なら双方成人ですから、これくらいが丁度いいと考えます。
うつ病夫婦のデメリットばかり書いてしまいましたが、逆に夫婦だから出来ること・言い合えること・取り組めることもあります。
それは主治医やカウンセラーにはできないことです。
うつ病夫婦の共倒れ防止策とは、それぞれが自立したうえで支え合う、という心がけではないでしょうか。