家族のメンタルヘルスサポート
境界線を守りながらの理解と共感
家族のメンタル不調は、自分にとって大ごとではあるけれど、病気そのものは自分の病気ではありません。
どこまで関わればいいのか、どこから先は自分には関われないのか、の境界線があいまいになりがちです。
そして病気本人は症状が辛くて現実を現実の通りに受け止めきれないかもしれません。
本人が自分事として捉えられない時、様々な問題が起こり、それが家族側の不安やストレスを増長します。
その時に必要なのは、境界線を引くことと出来ることと出来ないことの仕訳です。
目次
- 【本人】自分のことだからこそ不安が強すぎて受け止めきれない
- 【家族】出来ることは「本質からずれた心配を抱えない」
- 【家族】自分たちの限界を知る
- 【家族】出来ること・出来ないことを切り分ける
- 【家族】「見守る」「Iメッセージ」「ルール作り」に取り組む
- 家族は「自分事にし過ぎない」
【本人】自分のことだからこそ不安が強すぎて受け止めきれない
一つは変化した現実や自分の状態を受け止める準備が出来ていない、ということもあるでしょう。
病気になったばかりの頃は、急激に色んな事が出来なくなる自分に対して本人が一番動転しますし不安や恐怖を感じます。
すぐに「自分は病気なんだ、治療しなきゃいけない、病気でも自分の責任は果たさなければいけない」と考えられる人は稀です。
自分事として捉えないことで弱ったメンタルを守ろうとしているのです。
また、症状の一つとして思考力が落ちていることもあります。特にうつ病などはそうでしょう。何かを感じたり考えたりすることを「精神活動」と呼びますが、これが著しく低下するのもうつ病の症状の一つです。
手助けを求められない性格ゆえに、自分事に出来ない、という人もいるでしょう。
「何とか良くなりたい、社会復帰したい」と明言すれば助けてくれる人がいるにも関わらず、それを信じ切れない、頼るのが怖いと思ってしまう。
自分事として捉えることでSOSを出さなければいけなくなる事態を回避しているのかもしれません。
≪参考情報≫ 『こころの病気について理解を深めよう』(こころの情報サイト)
【家族】出来ることは「本質からずれた心配を抱えない」
本人の次に色んな事が出来たり代理の決定権を持つのが家族です。特に配偶者や親には大きな責任を求められます。
とはいえ、本人がどうしたいか、または何を辛いと感じているか、が分からなければ、家族と言えど手を出せません。
例えばどうしても家から出ない、という家族がいる場合。
「脚が動かせないから」という理由が分かれば、とりあえずはそれへの対処が可能になります。
しかし出られない理由が本人も分かっていないことが少なくありません。
分からない、と言っても周囲が納得しなければ、それも同じことです。病気ではない人から見れば「何の理由もなく家から出られないはずはない、何か必ず理由があるのだろう」と考えてしまうからです。
理由が分からないことを受け入れてもらえなければ、論点を変えることもあり得ます。
「別に家から出なければいけない理由はないよね」と。
するとここで問題の本質が切り替わってしまいます。
本質がずれてしまえば、更に解決からは遠のいてしまうでしょう。
本人の意図が分からないうちに、家族が「何とかしなければ」と慌てると、本質からずれた空回りをしかねません。
どうしたいか考えられないほど辛い状態なら、考えられるようになるまで待ちましょう。
それは家族側のメンタルを守るために必要な対策でもあるのです。
≪こちらも読まれています!≫ 惠然庵コラム『うつ病の見守りの難しさ -持続可能なうつ療養-』
【家族】自分たちの限界を知る
家族に必要なことは、自分たちの限界を知ることです。
周囲は「家族だから」と色んな役割の代行を求めるかもしれません。
しかし家族と言えど本人ではありません。別の人間です。
どんなに親身になろうとしても限界があるのです。
その限界値を超えて立ち回ろうとすると、期待するような結果が得られないことによる無力感が強まります。
結果として「燃え尽き症候群」化し、何もやる気が起きなくなってしまいます。
まずは「家族と言えど出来ないことがある」ということを受け入れましょう。
【家族】出来ること・出来ないことを切り分ける
もちろん自分事として捉えられていないからと見捨てることは出来ませんし、その必要もありません。
しかし心配しつつも出来ることには限りがあります。
- 家族が出来ること
- 家族では・家族でも出来ないこと
を切り分けて、双方で了解しておくのも一つの方法です。
あくまで目的は線引きであって、「誰が責任を持つのか」という押し付けではありません。
家族だけが全部を抱え込む必要はないし、本人に対して自己責任を求めるのでもありません。
それでも「自己決定」の権利は犯せません。
≪こちらも読まれています!≫ 惠然庵コラム『家族が出来ること・出来ないこと』
【家族】「見守る」「Iメッセージ」「ルール作り」に取り組む
一つは「見過ごす」「見守る」の両立です。
傍から見れば「そのままだとちょっとまずいことになる」と分かるようなことをしているかもしれません。
無謀なお金の使い方をしていたり、現状では続けられなそうな求人に応募したり。
しかし「自分事として捉えていない」場合、その行動の結果どうなるか、が本人には見えていません。見えていないのに「○○になるからやめなさい」と言っても本心から納得は出来ないでしょう。
あえて本人の意思に任せてみる、というのは、自分事として捉えるいいきっかけになります。
結果として吉と出るか凶と出るかは、家族の側にだって分からないのですから。
二つ目は「Iメッセージ」で、自分事として受け止めるような説明をすることです。
大人はつい「あなたは○○だから△△をしなければいけない」と言う話し方をしてしまいますが、これは言われた側にはお説教にしか聞こえません。
I(アイ)メッセージは「私はこのままだと○○の状態になりそうで心配だ」と、自分の気持ちを中心にして話してみましょう。
三つ目は家族内のルール作りです。
どんな時も助けてくれる家族がいる、というのはとてつもなく大きなストレングスです。これに勝るものは無いと言ってもいいくらいです。
しかし状況によってはストレングス(強味)ではなく、逃げ場になってしまう可能性だってあります。
逃げ場は、自分が弱ったり傷ついたりしている一定期間だけ使うなら癒しの場です。しかし傷が癒えているのに逃げ場にい続けていれば、自分の力や自信が目減りしていきます。
本人との十分な話し合いの上でルールを決めて、そこから外れた時はルールに沿って本人に穴埋めをしてもらいましょう。
家族は「自分事にし過ぎない」
逆に家族側は領域を踏み越えて自分事として抱え込もうとしてしまいます。
「自分だったらこうしている・出来ているだろう」という自負もあるかもしれません。
しかし本当に自分のことをやるのと、本当は他者の問題なのに自分が抱え込むのとは全く違います。
どこかで限界やストレスを感じてしまい、場合によっては矛先が本人へ向いてしまうでしょう。
強い責任感と家族への思いやりが、行き過ぎた結果として不和に繋がるのはとても悲しいことです。
家族だからこそ、自分事にし過ぎないよう、気をつけましょう。
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