「相手の立場になって考える」とは?
「相手の立場になって考える」ことは、結構な頻度で誰もがやっている、または試みている行動だと思います。
しかし、「こちらの立場を理解してくれている」と感じることは、それと比べると少ないのが現実ではないでしょうか。
それほど、「相手の立場になって考える」ことは、言うは易く行うのは難しい行動なのです。
では、なぜ難しいのか、なぜ大事なのか、するとき・される時のコツを考えてみましょう。
1.視点取得
視点取得、という言葉があります。文字通り、「視点」を「取得」することです。
自分の現在の視点を異なる立場や位置(他者視点another viewpoint)に移動させ、その視点にある者がもつだろう考えや感情、あるいは見えるはずの風景などを推測する心の働き。
コトバンク
同じように、心理学には「心の理論」という概念があります。
心の理論とは、他者の心を類推し、理解する能力である。 特に発達心理学において、乳幼児を対象にさまざまな研究が行われるようになった。 ヒトおよびヒト以外の動物が心の理論を持っているかどうかについては、誤信念課題によって調べられる。
Wikipedia
自分から見た姿だけでなく、自分以外の人間から見たらどうなるか、自分以外の人間はどう考えるか、を推し量る能力です。
ピアジェ(Piaget,J 1896~1980)はこれを「脱中心化」と呼びました。大抵は就学前くらいの年齢で脱中心化に至ります。
2.「人の靴を履いて1マイル歩く」
外国のことわざです。その人の靴を履いて1マイル歩くまでは相手を批判してはいけないよ、という意味だそうです。
人の靴を履く、という時点で、かなり窮屈な状態を想像出来ますよね。
自分の足より小さい靴(子ども、女性)は足が痛くなるし、逆に大きい靴(大人、男性)はすぐ脱げてしまったり、靴自体が重く感じるかもしれません。
では、相手の靴を履いて1マイル歩いたとしましょう。
どんな感想を持ちますか?
①「とても大変だね。毎日辛いのに頑張って歩いてるんだね」
②「どうしてこんな靴を履いてるんだ。別の靴に変えればいいんだよ」
③「こんな靴を履いて歩くなんて自分には無理だ。他の人を頼ってくれ」
どれも正直な感想だと思います。
それぞれ、
①は共感、②はアドバイス、③は依頼の辞退を表しているでしょう。
問題は、「その場に必要なものはどの感想なのか」を理解した上で伝えることです。
3.自分の靴を他人が履いてくれた、としたら?
<2>とは逆のケースもありえますね。
自分の立場になって(靴を履いて)考えてくれたとき。
相手から①~③(又はもっと別のもの)のどの感想が出てくるでしょうか。
そして、自分はどれが欲しいと思って、靴を履いて歩いてもらったのでしょうか。
共感ですか? アドバイスですか? 依頼でしょうか?
何かしら期待しているものがあったはずです。
そして、事前に合意出来ていないのなら、自分が期待したものではない感想が告げられる可能性も十分にあります。
共感して欲しかっただけなのに、アドバイスされてイラっとした。
出来るかできないか、を答えて欲しかったのに、それについては触れられなかった。
という齟齬が起きるのはこのためです。
勿論、その場の状況や相手との関係性によっては、事前の合意が難しい場合もあります。
その時、欲しかったものと違うから、と、相手へ失望する前に、自分が求めていたものは何か、相手が提示してくれたものは何か、を、一呼吸おいて推し量ってみましょう。
欲しかったものではなかったとしても、こちらを粗略にしているとか、気持ちを分かってくれなかったわけではない、ということは伝わってくるのではないでしょうか。
4.視点取得は超便利スキル
取り扱いが難しい「相手の立場になって考える」スキルですが、身につけると非常にメリットが大きいスキルです。
しかもお金はかかりません。自分の物の見方一つで習慣化することが出来ます。
①メリット5つ
【1】対人関係が怖くなくなる
相手の立場になることで、相手が自分に対して危害を加えるだけの存在ではないことが理解できます。
【2】人前で不必要な緊張をすることが無くなる
人前で緊張しやすい人は、「緊張しているのは自分だけ」と考えているところがあります。
緊張する場面とは、自分にとっても相手にとっても「真剣勝負」の場であることが多いです。であれば、相手も緊張しているのです。
【3】ミスを許せる
自分がミスした時に「相手も分かってくれる」と考えることが出来るし、相手がミスをしても「きっと自分でもやってただろうな」と思うことで責める気持ちが低減します。
【4】家族やパートナーとの信頼が深まる
一番関係が濃い相手だからこそ、相手の立場に立つこと、相手が自分をどう理解して(どんな靴を履いているか分かっているか)いるかはとても重要です。
【5】話題が広がる
誰かと一緒にいて話題に困るなら、相手の立場になって考えると話題を作ることが出来ます。自分の興味がある話題を喜ばない人は少ないですから、良い影響が期待できます。
②習得方法
<初対面>
今自分が持っている相手の情報をフル活用しましょう。
性別、年代、今の自分との関係性、なぜここにいるのか、一緒にいる場所はどこか、自分と相手の共通点は何か。
そして「相手の立場だったら今どう考えているか」を想像してみましょう。
△「今日すごく暑いですよね。私、汗っかきなんで、ハンカチたくさん使うんですよ」
〇「今日すごく暑いですよね。エアコン、大丈夫ですか? もう少し温度下げましょうか?」
<同僚・知人>
ある程度相手についての情報は持っていますが、一定以上に踏み込むような関係性では無いとき。
共通の話題が無いか、探してみましょう。
時事、職場のトピックス、共通の知人について、など。無論第三者の悪口になるようなものは避けましょう。
△「〇〇(相手が知っているか分からない有名人だけど自分は好き)が今度舞台出るんだけどさー」
〇「3Fの自販機、新しい種類入ったんだよ。買いに行ってみない?」
<家族・パートナー>
実は一番難しいのが、身近な人の立場になって考えること、です。
なぜなら、距離が近すぎて、相手の利益≠自分の利益、となることも少なくないからです。
相手にとっての最善策が自分への負荷となる可能性もあります。
だからこそ、双方が相手の靴を履いて歩く必要があります。
その上で、双方が合意する靴を選んで、お互いが辛くない歩き方を時間をかけてでも考える必要があります。
決して自分だけが靴擦れ作って豆を潰しながら歩く必要はありませんし、相手にそれを求めるのも違います。
よくやってしまう「わかるわかる」という相槌は、ノリはいいのですが、話題によっては相手から不興を買う場合もあります。
相手にとって重要な問題であるほど、そう簡単に「分かってもらえるはずはない」と思っている可能性があるからです。
どう反応していいか分からない時は、言葉を選んで「分からない」と思っていることを伝えるのも、誠実な理解の表明の形だと思います。
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