なぜ私たちは褒められると辛くなるのか ー「頑張ってるね」が辛かった話ー

なぜ私たちは褒められると辛くなるのか ー「頑張ってるね」が辛かった話ー

褒められているのに、なぜか満たされない。
むしろ辛い気持ちが沸き起こってくる——そんな経験はありませんか。

「頑張ってるね」「すごいね」と言われるたびに、本当は違う何かを求めているような感覚。
それは、決してわがままではありません。

この記事では、褒められることがなぜ辛くなるのか、そしてその奥で本当に求めているものは何なのかを、私の体験談を使いながら整理していきます。

目次

1.褒められるのが辛かった、あの頃の話

こう言われることが、いつからか辛くなった時期があります。
夫のうつを支えながら、生活全般を支えていた頃です。
仕事をするとか家事をするとか、そういう表立った動きだけではなく、あの頃の夫は私がいなければ何も決めることは出来なかったし、些細な出来事でストレスをため込んでいました。
それを解消したり和らげながら生活もきちんと回す。それが当時の私の「当たり前」でした。

その実情を知っている人はいません。夫も多分100%は知らない。私が話していないこともあるので。他人なら尚更です。
私の一部しか見ていない人も、それでもこうした評価をしてくれました。

最初は嬉しかったです。頑張っていることは無駄じゃない、必要なことなんだと自信を持てました。
ただ、途中からそれほど気持ちが動かされなくなりました。
褒められることが当たり前、というよりも、かけてもらいたい言葉はそれじゃない、という違和感でした。
今だから分かるのですが、ケアラー生活を続ける中で自分に自信と、「この程度はやって当たり前」な感覚が育っていたんですよね。

そしてもう一つ。
褒めてもらうことで、本当はやりたくないケアラー役割を外側から強化されていくようにも感じていたのだと思います。
褒められるほど、頑張ることが辞められなくなる。もっとやらなければいけないと自分を追い込み続けていました。

私はきっと、「すごいね」ではなく「そうなんだね」と受け止める言葉が欲しくなっていたんだと思います。

惠然庵 にしおか
惠然庵 にしおか

2.なぜ、褒められると辛いと感じるのか

褒められる、という嬉しい状況が、なぜ辛い気持ちを引き起こすのでしょう。
ここは少し仕組み化してお話したいと思います。

一つ目の理由は、先ほど私が自分の体験としてお話したように、「自分の役割が固定され、もっとと求められている」です。
本来ならどんな役割もたった一人が何から何まで背負う必要などないのです。メインは誰、サポートやサブがその周りにいてもおかしくないです。
しかし「すごいね」「私にはできないよ」と言われることで、今まで以上に「自分だけが」この先ずっとその役割を務めあげなければいけない、と感じます。逃げ場が無くなるんですよね。

二つ目は、「褒めてもらったら喜ばなければいけない」です。
いけない、というより普段なら褒められたら嬉しいです。だけど今、このテーマについてはそれに背く感情が湧き上がってきています。
普段は、他のテーマなら褒められたらもちろん嬉しいでしょう。だからこそ戸惑います。なぜ自分はここで喜べないのか、と。

三つ目は、「辛いと思っていることを無視された」です。
そもそもこちらが辛さを訴えていない、という可能性もありますが、周りが「私には出来ないことをやっていてすごい」と評するなら、その働きはあまり楽しいものではないことが伺えます。
その「辛いのを我慢しているのに、そこには触れられず、理解してもらえない」ことが「褒める」という相手の行動で強まってしまいます。

  • 不本意な立場や役割が固定されるかもしれない恐怖
  • 一般的な受け取り方が出来ない自分への失望
  • 辛さを分かってもらえない孤独感

こうした様々な価値観が自分の中で衝突し摩擦を起こすことで、「褒められているのに辛い」という、一見矛盾した心境を生み出してしまうのです。

【図】褒められると辛い3要素

3.褒められるより、「分かってほしい」と思う瞬間

先ほどの褒められたのに辛い理由の三つ目、「辛さを無視された孤独感」は、実は誰もが感じるものではありません。

  • 自ら進んで引き受けたわけではない役割、立場にいる
  • 引き受けざるを得ない状況から始まって、ずっと頑張っている
  • 頑張り続けたことで、結果として自分の自信にもつながっている

この三つが揃ってしまったからこそ、褒められることは既に喜びではなくなってしまっています。

この状態にあると、欲しいものは評価や賞賛ではありません。
周囲には自分への「理解」を示してほしいのです。
しかも「言いたいけど言えない苦しさ」を感じ取ってくれる理解です。

辛い、苦しい、不安も強い、もうやめたい。

こうした思いを率直に表現できなくなっています。
なぜなら褒められ続けたことで「言う口」を塞がれているように感じているからです。

けれど感情はあります。というか常に自分の中でぐるぐる渦巻いています。
こうした感情に蓋をしながら毎日頑張っている。その表面じゃなくて内側に気づいてもらいたい、という「繋がりを求める気持ち」が湧き上がってきているのです。

この段階では、「すごいね」「頑張ってるね」「尊敬する」ではなく、「分かるよ」「本当は辛いよね」「我慢してるんじゃない?」と、内側を暴露するような言葉こそを求めているのかもしれません。

4.褒められても辛いのは、わがままじゃなかった

と考えてしまうことも、一度や二度じゃないですよね。

でも、自分の正直な気持ちはどちらかといえば「不満」のほうです。
反発や失望などもあるでしょう。

正直な気持ちを感じる自分を責める、という、二重の自己否定が起きてしまっているから辛いのです。

そもそも「褒められたら喜べ」と言うのは、「褒める側」に立った言い分です。
善意なのだから受けた側も好意的に感じるのが当たり前、と。

その時点でなんかおかしいですよね。
言った人がどう言うつもりかは分かりませんが、言われた側がどう感じるかはその人が決めることです。


「褒められたら喜ばなければいけない」は、思考停止で他人軸です。

自分がそう思わないなら、自分の本心、感情を取っていいんです。

そしてこの記事でずっとお話している「頑張り続けて実績も出しているけれど、それは本来望んでいた役割を頑張っているわけじゃない」人なら尚更です。

「本当はやりたかったわけじゃない、辛い、苦しい」を無視する、または理解されないがゆえの褒め言葉なら、自分の心の中だけだとしても反発していいのです。

それは我儘ではありません。
自分自身の価値観を守ったからこその自己表現です。


褒められても満たされないときはあなたがわがままなのではなく、自分が本来望んでいる役割と、周囲から評価されている役割ズレている状態かもしれません。

褒められることが辛くなっている人は、この捻じれを解くことが最初にすべきこと、ですね。

5.「分かってもらえた」とき、人はなぜ話せるようになるのか

とはいえ、こちらが言語化していない辛さを他者が理解するのは至難の業です。
分かるはずがないし、感じ取ったとしてもあえて踏み込まない優しさを示してくれる人もいるでしょう。

それでも私は、今は言えず抱え込んでいる辛さを表現して欲しいと思います。
なぜなら一人で抱え込むほどに、その矛先は自分自身へ向くからです。
どんどん自信を失い、自己評価を下げ、他の場面でも言いたいことが言えなくなって、自己否定が強まります。

これをどこかで表現して欲しいです。
その為に一番強力な理解者・発信相手は「ピア」です。
ピア(Peer)とは「仲間」という意味です。
福祉では「同じ障害や苦しみを持った者同士」を指します。

自分と同じ経験をした人同士なら、何がどう辛いか、なんてわざわざ言わなくたって分かり合えます。自分の気持ちも理解してくれるし、相手のそれも理解できます。

他者に理解されることがどれだけの助けになるのか、を、まずはピアで体験していただきたいです。

「他人に辛さが分かってもらえた」という体験は、「この感情を話してもいいんだ」という認識を生んでくれます。

すると同時に、辛い感情を自分で否定しなくなります。

否定しない感情は人に話しやすくなります。そしてピア以外の人にも理解してもらえたら、「一人で我慢して頑張り続けなければいけない」というあなたの前提が崩れます。

その時こそ、あなたが新しいフェーズに足を踏み入れた瞬間なのです。

【図】褒められるのが辛い体験を共有する意味

6.まとめ:欲しかったのは「評価」ではなく「理解」

褒められているのに、なぜか満たされない。
それどころか辛いと感じる。

それは決して、あなたがわがままだからではありません。

本来望んでいたわけではない役割を引き受け、その中で努力を重ね、結果も出してきたからこそ、「すごいね」と言われることが、その役割に縛られ続けるような感覚を生んでしまうことがあります。

そして何より、その頑張りの裏にある辛さや迷い、不安といった感情に触れられないまま、評価だけが積み重なっていくと、人は少しずつ、孤独を感じるようになります。

だから欲しかったのは、評価や賞賛ではなく、その奥にあるものに気づいてもらうことでした。

「すごいね」ではなく、「そうなんだね」
「頑張ってるね」ではなく、「本当はしんどいよね」

そんなふうに、言葉にならない感情に気づいてもらえること。それが「理解」です。

もし今、褒められても辛いと感じているなら、それはあなたが間違っているのではなく、求めるものが変わってきているサインなのです。

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