「諦める」とは前進の一歩:新たな道を開く方法
何かを諦めた経験は、大人なら何度かあると思います。その時はもしかしたら落ち込んだり自信を失ったりしたかもしれません。
何かを長く目指し続けていたり、ずっと執着していたことを諦めると少なからず喪失感を覚えます。
どちらかと言えばネガティブに捉えられがちな「諦める」という選択は、実はポジティブ志向と直結しています。
今が辛いなら諦めるほうが得策です。諦めることのメリットと方法、ネガティブな諦めとの違いについて解説します。
目次
諦める、とは
仏教の「諦観」
仏教には「諦観」という言葉があります。
「諦」という字が入っていますが、普段「諦める」という言葉から連想する「Give Up」という意味ではありません。
現実や真理を受け容れることを差します。
主に「四諦」という4つの「諦」があります。
- 苦諦(くたい) – 人生には苦しみが存在するという真理
- 集諦(じったい) – 苦しみには原因があるという真理
- 滅諦(めったい) – 苦しみは終わらせることができるという真理
- 道諦(どうたい) – 苦しみを終わらせるための道があるという真理
これらを受け容れることを、仏教では「諦観」と呼んでいます。
マインドフルネス
マインドフルネスとは「今この瞬間に対して、批判や評価を行わずに受け容れる」ことです。
マインドフルネスの「あるがままと向き合う」姿勢は、何かに固執することを手放す「諦める」姿勢と重なります。
「諦められない」状態とは、今この瞬間の状態を否定する、無視する、無いものとしようとする状態です。
今の状態に対して良い・悪いの判断を行わず、そのままを受け容れて、それを感じている自分に気づくことは「諦める」ことと言えるでしょう。
納得する
専門用語ではありませんが、今自分が置かれている状態や状況に対して納得することも、諦めることと言えるでしょう。
逆に言えば、今の状況に納得できないから、そうではない願望や理想に対して執着しすぎてしまう、とも言えます。
願望や理想は持っていた方がいいと、私も思います。目標や目的も同様です。
それがあるからこそ「もっとこうしたほうがいい」という創意工夫も生まれるし、嫌なことがあっても「目的のためだから」と耐えることが出来ます。
ただし、その状態になることだけに執着しすぎて今ある現実を否定するようなことに繋がると、目的や理想は途端にデメリット面が強くなってしまいます。
目的や理想を追うプロセスの中で、今の状況を受け容れて、そこにいる自分に対して納得することが重要です。
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諦めることのメリット
思い込みや執着が無くなる
諦める、とは、今すぐには手に入らないものや状況・環境への執着を手放して、現実にあるモノ・人・環境に目を向けることです。
理想や目的は持ったままでもいいです。
しかしそれを手に入れることだけに執着すると、そこまでのプロセスが全て無駄に思えてしまったり、叶えるまでの労力をストレスとして感じやすくなります。
更に、「○○になる・手に入れる」ことだけを目指し過ぎて、それを叶えることに直結しない状況に価値を見出せなくなります。
目指す理想が叶うまでにどれくらいの期間や努力が必要かが明確ではない場合、生活上のあらゆる要素を「無駄なもの」と思い込んでしまう恐れがあります。
諦めることで余計な思い込みや執着から解放されることが出来ます。
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視野が広がる
物事に執着することが無くなり、現実として自分が持っている資源(人間関係、自分の特性、周囲の環境など)に気づくことが出来ると、様々な要素に価値を見出すことが出来るようになります。
例えば「大企業に正社員として転職する」ことを目標に転職活動をしている人がいるとします。
本人がどんなに努力をしても、求職者と求人している企業の要望がマッチしなければ、どれだけ優秀であっても採用されません。またその時の景気や業界の動向にも左右されます。これは自分ではどうすることも出来ません。
なぜ大企業で正社員で働くことにこだわったのでしょう。
家族を養うためか、自分の価値観に沿った結果か、その条件でなければ出来ない仕事を夢見ていたのかもしれません。
その理由に今一度立ち返ってみましょう。そして条件(大企業で正社員)を一度取っ払って、今の自分に出来る方法を考え直すことが、「諦める」ことによって可能になります。
選択肢が増える
自分が今持っている資源に目が行き、視野が広がると、選択肢を増やすことが出来ます。
今まで何かに執着していたことで除外していた条件や環境、項目があるはずです。
先ほどの例でいくと、「大企業」にこだわっていたことを手放すことで、中小企業も選択肢に入れて転職活動をすることが出来ます。
「正社員」へのこだわりを無くせば、契約社員や派遣社員、アルバイトも視野に入ってくるでしょう。
更には自分で独立開業する、という方向まで入ってきます。
必要に応じて一旦転職を止めて、学校に入って学び直すとか、先生について修行することも思いつくかもしれません。
思い込みによって限定されて行き詰っていた展望が、一気に広がるのが「諦める」ことのメリットです。
諦める道を取る分岐点
こだわっているテーマと今の自分の価値観は一致しているか?
メリットが分かったとは言っても、ずっと目指していた目的や理想はそう簡単に手放すことは出来ません。そして理想を追求するとは、自分のモチベーションを高め続けてくれる非常にポジティブな原動力ですから、悪いことではないのです。
問題は現実離れして必要以上にこだわってしまったとき、です。
理想や目的はそれとして、それを胸に抱く前から持ち続けていた自分の「価値観」とは一致しているのでしょうか。
例えば先ほどの「大企業で正社員として働きたい」と思ってがむしゃらに転職活動をしているケースで考えてみます。
その目標を立てたのは、元を辿れば家族(妻・子ども)を安定して安心出来る環境の中で生活させてあげたい、それが出来る夫・父親でありたい、という価値観があったから、とします。
しかし今は「大企業で正社員で働く」という目的にだけ意識が集中して、家族がいるのに会話もせずスマホで求人情報を検索したり、人脈作りのために休日も家族と過ごさず外出してばかり、焦り過ぎて家族の誕生日に「おめでとう」を言うことすら忘れてしまっている、としたらどうでしょうか。
本来の価値観、努力している動機と現実が完全に乖離しています。
それに気づいたときが、「諦める」道を模索するタイミングと言えるでしょう。
半年前の自分と比較する
理想を叶えるために一心不乱に努力をしていると、一種の「トランス状態」になります。
頑張っている自分に誇りを持つのはいいのですが、ハイになってしまって、今やっていることが本当に理想へたどり着くための道筋に沿っているのか、が分からなくなります。
「何か作業すること」が目的になってしまっているのです。
集中して取り組むテーマがあると毎日が充実しますから、その行動に効果があるかどうかを検証するタイミングを逃します。
実は同じところをぐるぐる回っているだけで、全然進歩していない場合もあります。
それでもいいんだ、という場合は問題ないですが、必ず目標を叶えたい、と思っている場合、突然無力感に襲われて、今度は何も出来なくなってしまう恐れもあります。
目指すものがあり、それに対して努力をしているなら、少しずつでも前に進めていると実感できる必要があるのです。
半年前の自分と今の自分を客観的に比較してみましょう。
出来れば数値化して比較しましょう。
毎日やっていることに対して、それに見合う前進が出来ているでしょうか。
そうでなければ「諦める」タイミングです。見直すタイミング、と言い換えてもいいでしょう。
ストレス、健康、幸福度
何かに必要以上に囚われたり執着しすぎているとき、知らないうちにストレスをため込んでいます。
努力をすれば疲労するのは当たり前ですが、以前と比べてイライラすることが増えたり、睡眠が不安定になったり、過食や拒食、アルコールの量が増えたりしていたら黄色信号です。
こうした行動傾向は身体の健康を害していきます。
身体が不健康になれば、毎日の幸福度はガクッと下がります。
身体の不調に配慮しながら努力しようとしても限度があります。
以前と比べると思うように進まない状況に更にイライラしてストレスが溜まり、ストレス反応が強化されて、それがまた体に悪い影響を与えかねません。
ストレスが溜まっているということは、どこかに無理がある、ということです。
今の取り組み方や、理想の形、目的の内容を諦めて見直すタイミングと捉えましょう。
第三者の意見
今こだわっているモノを諦めるかそのまま継続するか、の判断には、第三者の意見は非常に有効です。
何故なら自分のこだわりを排除した冷静な意見を聞くことが出来るからです。
特に同じものを目指していたり、既に達成した先輩、更にはその方面の専門家からもらった意見は大事に吟味したいところです。
一心不乱に取り組んでいる時、「そのやり方じゃダメだ」と否定的な意見をされたら、最初は受け容れることは出来ないかもしれません。その瞬間はぐっとこらえましょう。
そして「なぜダメなのか」の理由を聞きましょう。それこそ自分が納得できるまで聞きましょう。理由があって、こちらのために「そのやり方じゃダメだ」と言った人であれば、納得するまで付き合ってくれるはずです。
そのなぞ解きをする過程で、少しずつ自分が抱えて来たストレスや違和感の正体に気づくことが出来ます。
なぜ今のやり方がダメなのか、または目標の立て方が間違っていたのか。
第三者の意見を元にして、自分なりに「そうだったのか」と納得できると、不要なこだわりや執着を手放すことが出来るでしょう。
ポジティブに「諦める」とは
現在地の確認と軌道修正
まずは今自分がどこにいるのか、を確認することから始めましょう。
- 今の自分の状態(メンタル、身体状態、生活環境、保有スキルとレベル、やる気など)
- こだわっているテーマに対し、どこまで進んでいるか、近づけているか
- 今のまま続けた場合、理想・目的達成まであとどれくらい期間と努力が必要か
自宅から目的地までの地図と道順を描くイメージです。
全体の長さと、スタート地点(自宅)はどこか、今はどこにいるか(現在地)、ゴールはどこか。
最初の想定とずれているかもしれません。
もしかしたら予定より全然進んでいないかもしれません。
だとしたらなぜ進まないのかを考える必要がありますよね。
「なぜ進まないのか」を考えるとき、今のやり方であれ目的地であれ道具であれ、何かを手放す=諦める必要が出て来ます。
この時の「諦める」は、ギブアップとは違います。軌道修正です。
今までの過程を重視する
理想や目的とは、結果とも言えます。
理想や目的にこだわり過ぎている人は、結果や成果ばかりを重視しすぎている、とも言えます。
しかし、目的を果たすまでの過程を抜きに、成果や結果を手に入れることは出来ません。
成果や結果ばかりを重視すると、必要な過程とそこでクリアしなければいけない苦労や努力を「徒労」と感じてしまいます。
目的=結果、だとしたら、後から得られるものです。その時が来なければ今どれほどあがいても手に入るものではないのです。
それならば、今ここで出来ることは何か、を見直すことで、必要な過程をすっ飛ばさず価値を見出すことが出来ます。
プロセスを重視することは、自分に出来ることを活かす方法を発見したり、気づいていなかった自分の強みや長所に気づく機会にもなります。それによって今とは違う取組み方を思いつくことが出来たり、もっと自分に適した理想や目標を立て直すことも出来ます。
プロセスを重視することで、余計なこだわりを手放し、軌道修正することが可能になるのです。
自己効力感を高める目標を立て直す
理想や目的を持つことは大事ですが、それがあまりにも自分自身とかけ離れたものだと無力感ばかりが高まってしまい、努力しているのに報われない辛さを抱え込むことになります。
せっかく努力しているなら、目標達成だけでなくその過程で成長したいですよね。そしてそういう自分に自信を持ちたいですよね。
理想や目標は何でもいいわけではありません。
自分の特性や強みを活かし、さらにレベルアップ出来るものでなければ、徒に自己効力感(自分ならできる!という感覚)を目減りさせていくだけです。
一人でじっくりコツコツ作業をすることが得意な人がアイドル歌手を目指すことは果たして「自分の強みを活かす」目標と言えるでしょうか。
自分の特性と相性の良い理想・目標に修正することは、前向きな諦め方ですよね。
「どうなるか」より「どうありたいか」を優先する
何かを諦められない、こだわり続けて執着してしまうケースとは、「どうなりたいか」という未来への視点が強まり過ぎている状態とも言えます。
いつか○○になりたい、と望む気持ちが強すぎて、それ以外が見えなくなっていないでしょうか。
より良い未来を目指すことはポジティブな姿勢と言えるでしょう。
しかし「より良い未来だけ」を重視すると、そうではない「過去」「現在」を軽視したり卑下したり否定することに繋がりかねません。
諦めない、という気持ちの裏で、それと一致しないものを否定してしまいます。
否定の連続の中で生活するのは、それだけでストレスです。
どうなりたいか、のベースには、「どうありたいか」があるはずです。
どういう人間としてより良い未来を迎えたいのか、という、現在に軸足を置いた「未来志向」です。
現在地を受け容れることで、非現実的な理想や目標をむやみに目指すことは無くなります。無理が無くなれば執着しすぎて他が見えなくなることも無くなるでしょう。
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ネガティブな「諦める」との違い
ギブアップとの違い
ギブアップも諦めに近い意味を持ちますが、どちらかと言えば「放棄する」「降参する」という意味が強い印象があります。
「Never Give up」(諦めない)という言葉への強い印象の裏返しかもしれません。
途中で何かを放り出すような「ギブアップ」と違い、「諦める」は、受け容れる、という意味のほうが強いでしょう。
見限るとの違い
見限る、とは「見切りをつける」「見捨てる」という意味です。何かを切り捨てるようなイメージですね。切り捨てるものが執着心やこだわりなら問題ありませんが、思い通りにならない他者や環境に対し、それらを受け容れるのではなく「捨てる」のだとすると、ポジティブな行動とは言えません。
他社や外部環境は自分の思い通りにはなりません。思い通りにならなくて当たり前だ、ということを受け容れるのが「諦める」姿勢です。
放棄するとの違い
放棄する、とは、持っているものを手放すことです。特に権利や責任、義務といったものを自ら手放すときに使います。
状況によってはネガティブとは言い切れません。必要ではない、負担になり過ぎている責任や義務なら放棄するほうがポジティブです。
ただ、放棄するときの心情がポイントです。放棄する選択をする理由に自分で納得していると、次にどうすべきか、を積極的に考えることが出来ます。納得も「諦める」の一部で下よね。
今日からできる「ポジティブに諦める」ために出来ること 3選
断捨離
まずは環境から変えていくのは非常に有効で、やりやすいです。
断捨離とは捨てればいいわけではありません。忙しかったり余裕がない生活が続いていると、物は増える一方です。どこに何があるか分からなくなる状況というのは、自分が昔から備えている強みに気づかず「自分には何も出来ない」と落ち込んでいる状態と同じです。
整理整頓し、今とこれからの自分に必要ないものを捨てて空間を作りましょう。
整理する中で、持っていることを忘れていた物が見つかります。
SMART目標の設定
目的や理想が自分自身とマッチしていないと、必要以上の執着や拘り過ぎによって自分を苦しめることになります。
目標を「SMART」に沿って見直しましょう。
S:Specific(具体的)…目標を具体的、詳細化する
M:Measurable(測定可能)目標への進捗や達成度合いを数値管理する方法を考える
A:Achievable(達成可能)…現実的で実現可能な目標に置き換える
R:Relevant(関連性がある)…自分の価値観や特性、強みと関連した目標に置き換える
T:Time-bound(期限がある)…目標達成の期日を設定することで行動が具体化します
例えば「お金持ちになる」では漠然とし過ぎます。やり方が分からず毎回宝くじに大金をつぎ込むことになってしまいます。
「一千万円を十年で貯める」と考えたら、色んな方法を思いつくし、預金残高が増えるごとにやる気も湧いてくるでしょう。
≪参考情報≫ SMART 目標とは?(tableau)
休止期間を持つ
長い間拘り続けたテーマを諦めて見直すためには、インターバル(休息)が必要です。
気持ちとはそう簡単に変わるものではありません。しかも目に見えるものではないので、実感することも難しいです。
まずは1ヶ月、今までこだわり続けてきたものを自分に対して禁止しましょう。
「ダイエットして40キロ台になる」と思って頑張って来たけど中々体重が減らずストレスになっているなら、一旦ダイエットを休止しましょう。
そして1ヶ月後、「どういう自分としてダイエットしたいと思っていたのか」を振り返ってみましょう。
もしかしたらたまたま目にしたモデルさんが恰好良く見えたから始めただけかもしれません。失恋の反動で何かしたくて取り組みはじめて習慣化していただけかもしれません。
リフレッシュ期間を経て、手放すか、見直すか、を、今の自分を受け容れたうえで再度考えてみましょう。
まとめ
- 諦めるとは…諦観、マインドフルネス、納得について説明
- 諦めるメリットは、執着を手放し、視野が広がり、選択肢が増えることである
- 諦める選択を取る分岐点は、価値観と一致しているか、半年前と比べて進歩しているか、ストレスや健康に影響は出ていないか、第三者からの意見を吟味してどうするか、で決める
- ポジティブに諦めるとは、現在地を確認して軌道修正し、結果よりプロセスに価値を置いて、自己効力感を高める目標へ修正し、「どうありたいか」を再考することである
- ネガティブな「諦める」との違い(ギブアップ、見限る、放棄する)
- 今日からできる諦めるための行動3選:断捨離、SMART目標、休止期間
「諦める」とは、今の自分と環境の「あるがまま」を受け容れて、スタート地点を見直す姿勢です。
自分は自分です。今の等身大の自分と、現実に取り巻いている環境からしか始めることは出来ません。
思い描いた理想と比べると見劣りすると思うかもしれませんが、それもまた「理想への過剰な執着」が生み出す錯覚です。
あるがままを受け容れて、本当に自分にマッチした「より良い未来」を迎える仕切り直しのために、苦しい今を諦めましょう。