うつ病家族の感情のコントロールの難しさ:理由と対処法
家族に対する感情のコントロール、特にイライラや怒りが収まらない。どう対処すればいいか分からない、という悩みはケアラーあるあるです。
私も対処の仕方が分からず、散々夫と衝突しました。今思えば要らないことをたくさん言っていました。
しかし、イライラする根本は「どうにかして状況を改善したい」という意欲です。それは大事なモチベーションです。
意欲をそぐことなく、家族に対する怒りを和らげるためには「ストレス」「無力感」「自己評価の低下」を防止しましょう。
目次
- うつ病家族に対する感情のコントロールが難しい理由
- 感情のコントロール不全は3要素に転化する
- 対処法1:自分のストレスのケアをする
- 対処法2:相手への失望・無力感の防止
- 対処法3:自己評価の低下を避ける
- すぐできるイライラ・怒り感情のコントロール方法
- まとめ
うつ病家族に対する感情のコントロールが難しい理由
自分の苛立ちを「間違っているもの」として扱う
うつ病の人は思考や心のエネルギーがほぼ枯渇しています。
以前なら我慢できたことが出来なくなったり、些細な言葉に過剰反応してしまいます。
相手の素の感情、本来なら外へ出さない感情にも触れることが増えるのがケアラーです。
しかし普段なら言わないことを言ってしまうのは病気のせいです。それは医師や専門家からも言われて家族も分かっています。
分かっていても、ケアラーの心は傷つきます。
傷ついても、腹が立っても、それを表現出来ない。表現出来なければ解決も出来ません。
そして「相手は病気なのに、イライラする自分は心が狭いのか」と考えてしまって、自分の感情を自分で否定してしまう結果になります。
「病気のせいだ」と分かっていても納得できない
上記と繋がりますが、うつ病の人の言動に対して怒りやイライラを感じたとき、一旦は「病気だから仕方がない」と留飲を下げます。
一度や二度ならそれで乗り越えることが出来るかもしれません。
しかし一緒に生活していれば、一度や二度で済むはずがありません。しょっちゅうです。
度重なれば「病気だから仕方がない」という理由では納得できなくなっていきます。
「病気だから仕方がない」という理論と「自分は傷ついている」という本音がケアラーの中で衝突します。
相手と衝突することも出来ず行き場がない
通常の人間関係でもそうですが、特に相手がうつ病(精神疾患)だと、思ったことをそのままぶつけることはほとんどないでしょう。
例えば相手が職場の人なら、怒鳴ったりぶちまけたい衝動を抑える必要性を強く感じるため、ある意味感情のコントロールがしやすい、とも言えます。
しかし相手が家族なら、この自制は効きません。
むしろ「家族なのに思ったことも言えない」状態へのストレスが高まります。
言いたいけど言えない、言ってはいけない、(ネガティブ感情を)感じてしまう自分が間違っているのでは。
こうした縛りがケアラーの感情をストレス化させていきます。
感情のコントロール不全は3要素に転化する
ケアラー自身のストレス
ネガティブ感情を伝えたり表現することはおろか、感じてしまう自分自身も責めるようになってしまいます。
感情は自然に湧いてくるものです。それを「感じてはいけない」と禁じることは、自分で心臓を止めようとするようなものです。出来るはずがありません。
出来ないことを自分に課す状況が、大きなストレス原因になります。
うつ病の人に対する失望、無力感
うつ病の人にネガティブな感情を抱いてはいけない(けど感じてしまう)という葛藤を繰り返す中で、うつ病の人に違う感情が芽生えてしまいます。
「どうしていつも自分をイライラさせるんだろう。いい加減にしてほしい」のようなものです。
自分はこんなに頑張っている(我慢している)のにそれが伝わっていないのだろうか、こちらの努力に価値を感じてくれていないのだろうか、とも考えてしまい、「この人(うつ病)は私のことは大事ではないのだ」のような結論にまで至ってしまいます。
相手への失望と、我慢を重ねたところで変化しない状況への無力感を感じてしまうのです。
自己評価の低下
うつ病になった家族を頑張って支えていることはとても素晴らしい決意と行動です。
しかしケアラーが感情を抑え込んだところで、うつ病が良くなるものではありません。
うつ病が良くなるために我慢しているのに、状況が変わらない。それは自分の努力の成果が見えない、ということになりかねません。
結果として「自分には家族を支える、元気にさせる力はないのだ」という評価を自分に対して下してしまいます。
怒りやイライラは、感じること自体は間違いでも悪いことでもありません。
その対処方法がカギになるのです。我慢したり自分の感情(怒り、イライラ)に気づかないふりをするだけでは、長いうつ療養生活をサポートすることは出来ません。
ではどのように対処していけばいいでしょうか。
対処法1:自分のストレスのケアをする
目先の気分を変える→イライラ度を下げる
感情は勝手に湧いてくる上に、無限に抱え込めるものでもありません。
特に怒りやイライラのような感情のコントロールは、自分に精神的な余裕が無ければ行えません。
精神的な余裕は、気分を変えることで生まれます。
例えばイライラの対象(物・者)が視界の中にあればどうしてもそのことについて感じ、考えてしまいます。
ですので、対象を視界から外しましょう。
✅居場所を変える
✅目を閉じる
✅対象物を片付ける
時間が経つごとにイライラの度合いが下がっていきます。
今やるべき行動をする→思考の焦点が移る
気の持ちようで感情をコントロールしようとすると大抵失敗します。
胃が痛い時に無理に食べ物を食べて元気になろうとするようなものです。
問題の箇所が分かっているなら休ませるのが一番です。
感情のコントロールが出来ず辛い時は、行動しましょう。
特に「今やるべきこと」に取り掛かると効果が大きいです。
✅家事
✅仕事
✅勉強
趣味でもいいのですが、趣味は楽しむことが目的です。ネガティブ感情でパンパンな時に楽しい気分になるのは難易度が高いでしょう。
やるべきことは楽しくはないかもしれませんが、頭を使います。ネガティブ感情がわいてくる視床下部ではなく、前頭葉を使って理論的に考えます。
すると思考の焦点が変わります。
イライラや怒りで疲弊している部分を休ませることが出来ます。
また、やるべきことが出来た、という実感は自己評価を上げてくれる効果もあります。
心身の疲労を摂るための休養を取る
一番は寝ることです。
よく「寝逃げ」なんて言い方もしますが、寝ることが出来るならそれが一番楽です。
睡眠は、身体と脳の疲労を修復してくれます。寝ている間に脳は情報の整理をしてくれます。ネガティブ感情でパンパンだった脳の「デフラグ」をかけて、思考の容量に余裕を作ってくれます。余裕が出来れば感情のコントロールが可能になります。
お昼寝の時間帯だと夜の睡眠に影響するかも……、と考えてしまうかもしれませんが、そこは背に腹は代えられないので優先順位を変えましょう。
対処法2:相手への失望・無力感の防止
イライラさせる言動の根本に病気があることは間違いない
「病気が言わせている」というのは、慰めでも言い訳でもなく事実です。
うつ病をはじめとして、自分の家族の病気の特徴を今一度見直すことをお勧めします。
例えばうつ病が精神面に及ぼす特徴としては以下が挙げられます。
◆気分の変化
深い悲しみや絶望感、無気力感が支配的になり、日常の喜びや興味を感じにくくなる。
◆集中力や記憶力の低下
うつ病の症状が進むと、集中力や記憶力が低下し、作業や日常的な活動が困難になる。
◆不安や緊張
うつ病には不安や緊張感が伴うことがあり、日常生活でのストレスや不安を増幅させる。
◆自己評価の低下
自己否定的な考えが支配的になり、自己評価が低下する。
精神とは本来弾力性があるものです。だからショックなことがあっても大抵は受け止められます。
しかしうつ病はその弾力性を奪います。今までなら・普通なら・大人なら我慢できることが出来なくなってしまいます。豆粒がクッションの上に落ちても誰も気づきませんが、固いフローリングに落ちれば音がして、場合によっては豆も床も傷がつきます。それと同じです。
今一度思い出すことで、相手に必要以上の期待を持つことを避けられます。
≪参考情報≫「ご存知ですか?うつ病」(こころの耳)
「相手のためなのに」という感情なら一旦放棄する
うつ病の人に対してイライラや怒りを感じる理由の一つに「良かれと思って言った・やった」ことが受け入れてもらえない場合もあります。
スタート地点が利己ではなく利他のため、相手の反応に過剰反応してしまっても仕方ありません。
例えば「元気そうだから少し散歩でもして来たら?」と提案した場合。
言った側からすれば様々な理由から「それが本人のためになるから」という判断だったのでしょう。
しかしうつ病の人からすると、出来ないことをやれと言われたように感じるときもあるかもしれません。元気そうに家族には見えたとしても、本人はそう感じていないかもしれないからです。
しかし散歩が自分がやるべき行動だということも分かっている。でも出来ない。
その葛藤がストレス化して、家族への拒絶・反発になります。
拒絶・反発されたケアラー側は「相手のために言ったのに何故」という戸惑いが怒りに転化します。
ならば、「相手のため」であったとしても、その責任ごと放棄しましょう。
必要な提案はしたのですから、役割は果たせているのです。ケアラー自身も感情のコントロールが出来ないような状態なら、それ以上努力する必要はありません。
今は努力するタイミングではないと諦める
うつ病は変化する病気です。悪い変化もあれば良い変化もあります。分かりづらいですが。
分かりづらいからつい相手の悪い状態の時に、ケアラー側が療養のための努力をしようとしてしまうこともあります。
しかし状態が悪いなら、改善や良化は難しいでしょう。現状維持が精いっぱいです。
現状維持も、うつ病では及第点です。しかしなんとかプラスに持っていこうと考えすぎると、現状維持が「0点」に見えて失望してしまうかもしれません。
ケアラーが頑張っても変化が無いなら、「タイミングではないのだ」と解釈して諦めましょう。
対処法3:自己評価の低下を避ける
ネガティブ感情を抱くことを悪いことと思わない
ネガティブな感情の中で、特に「イライラ」「怒り」は対象があります。外へ向けられる感情です。しかしそれを対象へぶつける・伝える・表明すること出来ないのが、うつ病とケアラーの関係です。
伝えてはいけない感情を抱く自分を「間違っている」と感じてしまうと、自己評価を下げて自信を失うことに繋がります。
自信を失うと、人は行動出来なくなります。意欲も無くなります。そしてケアラーもまたうつ病のような状態に陥ってしまいます。
感情は、ポジティブでもネガティブでも勝手に湧き上がってくるものですから、感じること自体を「悪いこと」とは考えないようにしましょう。
イライラは「なんとかしよう」と思う責任感の裏返し
ケアラーには、責任感が強く、普段から仕事も家事もバリバリこなせる能力の高い方が多いです。
「自分ならどうにか出来る」と信じる気持ちを「自己効力感」と呼びますが、その要素が高いのでしょう。
それ自体はとても良いことなのですが、うつ病を回復させることに対しても「自分ならどうにか出来る」と考えてしまうのは危険です。
なぜならうつ病は病気だからです。病気を治せるのは医師と患者本人です。
「自分ならなんとか出来る」と信じているのに「なんともならない」状態が続くと、その状況に対するイライラが募っていきます。
責任感や自己効力感の強さの使いどころを間違えないようにしましょう。
衣食住を整えるだけで100点
上述したように、うつ病という病気を治療するのは医師です。治療を受けるのは患者です。そこに家族が直接関わることはありません。
うつ療法の場で家族は間接的な役割を担います。
具体的に言うと、患者が安心して療養出来るための生活基盤を整えることが、家族の役割です。
その基盤があるからこそ、患者は主治医の指示に従って療養が出来るのです。主治医も家庭の協力がある前提で治療計画を立てます。
ケアラーの役割は衣食住を整えれば100点です。
やるべきことは出来ているのですから、それ以外の責任や期待は手放して見守りましょう。
そうすることで自分自身のケアをする余裕も生まれます。
≪こちらも読まれています!≫「日常レスパイトでケアラーケア」
すぐできるイライラ・怒り感情のコントロール方法
イライラ・怒りに関する感情や思考を言語化する
思考や感情は常に頭の中でぐるぐる渦巻いています。
言葉を使って考えているのだから「もうできている」と思うかもしれませんが、ぐるぐる考え続けるといつの間にか思考が自分を支配しているように感じませんか?
他のことを考えられなかったり、気もそぞろになったり、集中出来なかったり。
それは「今自分はこれに悩んでいて、こう考えていて、これからこうしたいと思っている」というような明確化が足りていないからです。
言語化は、上記のように、自分の思考や感情を整理するために有効です。
おススメの方法は
✅日記
✅ジャーナリング
✅人に話す
です。
人に話を聞いてもらう
言語化と繋がってきますが、イライラや怒りは誰か第三者に聞いてもらうことでトーンダウンします。
最初は興奮気味だったとしても、「なぜ自分がこんなにイライラしているのか」を理解してもらうために状況説明をする中で、自分でも振り返りをすることが出来ます。
人に話しながら自分の状況や過程を振り返ると、所々で気づきが生まれます。
✅「あの時〇〇すればよかったのかな」
✅「待てよ、あの時あの人〇〇って言ってたよね」
✅「そういえば前にも似たようなことがあって後悔した気がする」
など、思い浮かぶことが出てきます。
それが気づきです。自分で自動的に得た気づきはすぐに「納得感」に変わります。納得が出来れば驚くほどイライラや怒りは消えてなくなります。
≪こちらも読まれています!≫「思いを言語化する」
普段からリラクゼーションの習慣をつける
イライラしたら深呼吸しましょう、のようなアドバイスを受けることがあると思いますが、突然やっても効果はあまりありません。
習慣化しておく必要があります。
深呼吸なら、そのやり方と、やった後に自分がどんなふうに変化(効果)するのか、を実感しておくことで、本番で効き目が出ます。
深呼吸を3分やったら身体がどんなふうに変化するか、気分は、体温は、集中力は、冷静さは。
知っておくと深呼吸の持つ効果を信じることが出来ます。
その裏付けがあって初めて、イライラしたときに深呼吸することを思いつけます。
深呼吸以外にも
✅ストレッチする
✅水を飲む
✅5分歩く
✅音楽を聴く
など、自分なりのリラクゼーション方法を見つけて、普段から習慣化しておきましょう。
自分だけで達成できる目標を作る
イライラや怒りは他者へ向けられる感情です。他者と関わることで生まれた感情をコントロールする為には、他者と関わらなくていい何かに集中することが得策です。
何でもいいのですが、何でもいいと思ってしまうと、間食や飲酒が増えたり、散財するようになったりします。
それを避けるためには何か自分一人で取り組めて達成できる目標を作っておきましょう。
多いのは資格取得ですね。
資格取得は、試験までの期間限定なのでやらざるを得ず、取得できればそれ自体にメリットがあり、勉強に他者の協力は基本的に必要ありません。
他にも
✅ダイエット
✅創作活動
✅副業
なども、行動と思考の方向性を統一することが出来るのでお勧めです。
≪こちらも読まれています!≫「小さな目標で毎日を楽しく」
まとめ
- うつ病家族に対する感情のコントロールが難しい理由は、自分の感情を自分で受け入れられないため
- 感情のコントロール不全は「ケアラーのストレス」「相手への失望・無力感」「ケアラーの自己評価の低下」に転化する
- 対処法1:自分のストレスのケアをする
- 対処法2:相手への失望・無力感の防止
- 対処法3:自己評価の低下を避ける
- すぐできるイライラ・怒り感情のコントロールは「言語化」「コミュニケーション」「リラクゼーション習慣」「個人の目標」
感情、特に怒りやイライラの感情は、自分以外の他者が関わってくる感情です。
それが目の前にいるいつも一緒の家族が対象となると、ついストレートにぶつけてしまいそうになります。
また、「家族が言えば変わってくれるはず」と考えて相手をコントロールしようとしてしまいます。
しかし家族と言っても他者なので、そう簡単には変わってくれません。更に苛立ちが高まる結果になります。
他者が絡んでいて、その人とその人との生活を守ろうと思うならば、怒りやイライラは抑えたり発散させようとするよりも、受け流す・躱す方法を考えましょう。
冷静さを取り戻せば、理論的に考える余裕が戻ってきます。
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