感情労働の悩みと対策
メンタルヘルスを守るためのステップ
感情労働という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
労働、という言葉はついていますが、「職業」以外の立場や役割にも当てはまります。
自分の感情を活用して誰かに共感したりその人の視点に立つ、ということは、言うは易く行うは難しです。
感情を駆使する必要がある職種や役割はこれからも増えるでしょう。だからこそ自分自身を損なわないスキルを身に着ける必要があります。
感情を活用する人はまず自分自身を優先してケアする必要があります。
目次
感情労働とは
定義
感情労働とは、言葉の通り感情や思考、感じ方を自分のためではなく他者のために使用する労働のことです。
「感情労働は、労働者が感情の表現や制御を通じて、仕事に必要な感情を提供することを意味します。これには、顧客に対する感じ方や態度、コミュニケーションスキルの使用が含まれます。」
感情労働を最初に提唱したのは、アメリカの社会学者A.ホックシルドです。
彼は感情労働を「フロントステージ」と「バックステージ」に分類しました。
フロントステージでは、顧客や外部の人との対話があり、感情を表現する必要があります。
一方、バックステージは自分の本来の感情を抑え、公には表さないことが求められます。
例えば企業のサポート部門のコールセンターの場合。
どんな電話であろうと、まずは「申し訳ございません」を伝える必要があります。
しかし言っている担当者からすれば、「申し訳ない」と思っていないことも多々あるでしょう。
そうした「フロント」と「バック」のずれが生まれます。
感情労働の辛さ
感情とは、思考よりもっと本能的で反射的に湧いてくるものです。
良し悪しの判断をして出したり消したりすることが出来ません。
しかし感情労働、またはそれに準じた役割を負っている人は、自分が感じている感情をそのまま他者に表明することがはばかられます。
しかも自分ではその感情を間違っているとは思っていないのに、立場・役割上内に秘めざるを得ません。
表現しなければ感情は他者に理解されず、長く続くことで孤独感を高めてしまいます。
日本の文化的背景も拍車をかける
日本には「個人的な感情は抑えるべきだ」という考え方がまだまだ根強く残っています。
自分の感情よりもその場における自分の役割や立場を優先させた振舞をする人を、優秀な人と評価します。
そうした文化的背景が、感情労働を駆使する人の負担を更に重くします。
「辛い」と言えなくしてしまうのです。
感情労働を担う人たち
実際にどんな人たちが感情労働を担っているのでしょうか。
大きく分けて以下の役割・立場に分類できるでしょう。
家族(ケアラー)
家庭は本来、素の自分のままでいることが許される数少ない場です。
しかし小さな子供を養育していたり、年老いた親の面倒を見ていたり、家族内に病人や障害を持った人がいてそのケアをしていれば話は別です。
なぜなら普通に生活している中で、素のまま表明することがはばかられるような感情が沸いてきてしまうからです。
当然、我慢します。
「迷惑かけてごめんね」
と言われたら、迷惑だなんて言わないでほしい、と言うでしょう。それも本音だからです。
しかしもう片方で「辛い、もう嫌だ」とも思っています。それも本音なのです。
対人職、サービス職
上述したコールセンターのようなお仕事をはじめとして、
- 販売員
- カスタマーサービス
- ホテルやレストランのスタッフ
- 医療、福祉関係者
- 客室乗務員
- 教育関係者
- セラピスト
などが相当するでしょう。
もう世の中の仕事の大半が感情労働と言っても過言ではないでしょう。
部下を管理する人
職種自体が対人職ではなくても、組織や集団の中で人を束ねて動かなければいけない人も感情労働を必要とします。
部下がミスをしたとき感情に任せて怒鳴り散らすなどは論外であることは誰でも承知しています。
ミスした人のメンタルをケアし、ミス自体のリカバリーを考え、予防策を構築する。
そこまで終わって初めて自分の感情と向き合う事が出来ますが、その頃には疲れ果てて自分が何を感じていたのか覚えていないかもしれません。
そして大抵の大人は、この3つを重複して担っています。
①+②、②+③、①+③、または①+②+③など。
ストレスを感じないはずがないですよね。
過剰労働により引き起こされるメンタルの問題
モチベーションの低下
労働や役割を果たす上で一番効力を発揮するのは、それに対する自分のモチベーションです。
しかし感情労働で負荷を受け続けていると、肝心のモチベーションに疑いを持ち始めるようになります。
「どうしてこんな辛い思いをしながら続けなければいけないんだろう」
そう感じてしまうことで更に感情労働から受ける負荷に苦しむようになります。
共感疲労
『共感疲労(Empathy Fatigue)は、他者との共感を提供することによって生じる疲労やストレスのことを指します。感情的なサポートを提供し続けることで、労働者が疲弊し、心理的な負担が増大する状態です』
共感そのものが、本来とても難易度の高いコミュニケーションスキルです。
自分ではない他者の立場になって「あたかもその人になったつもり」でものを見たり感じたりすることです。
家族や友人など親しい人相手ならできる共感も、ほぼ見ず知らずの他者に対して行うのは至難の業です。
仕事や立場で共感を強いられる続けることで、提供者(感情労働している人)の心身が疲弊しきってしまうのです。
うつ病
うつ病の発症理由は人それぞれなので、感情労働との関連が必ずしもあるとは言えませんが、感情労働をする人が長期間にわたり自分の感情を制御する状態を求められれば、それはストレッサーとしてメンタルを圧迫し続けます。
そしてストレッサーを跳ね返すための力が、仕事や役割への強い使命感や倫理観によって弱められ、ストレッサーを受け入れ続けることになる恐れがあります。
つまり感情労働をする人は、自分の仕事や役割そのものがストレス源である、と認めることが難しい状態になってしまうのです。
うつ病は半分は環境によって引き起こされますが、環境を変える、という選択肢が最初から除外されてしまうのです。
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感情労働する人が行うべき対策
セルフケアとラインケア
これは「職場のストレスマネジメント」の考え方です。
職場のメンタルストレスを軽減するために、4つの段階があります。
1つはセルフケアです。一人一人が自分自身のメンタルをケアすることです。
2つ目はラインケアといって、上下関係の上の立場の人が下の人の為に行うケアです。
3つ目は事業場内ケア、4つ目は事業場外ケアです。
メンタルケアは自分が行うことが一番効果を発揮します。なぜなら何が快か不快か、何をストレスに感じているか、は自分が一番よく知っているからです。
さらに同僚や上司は職場での要素しか分かりません。夫のうつ病ケアをしている女性社員の本当の負荷がどれほどのものかは本人二しか分かりません。
まずはセルフケアを心がけ、職場の負荷はライン(上司)に相談しましょう。
ストレスチェック
現在健康診断と合わせてストレスチェックを実施することが義務付けられています。
内容は細かいので省略いたしますが、ストレスチェックを実施することによって
- スタッフの身体的負荷を、病気になる前に発見する
- 職場の環境そのものを見直すための原因探し
をすることが出来ます。
ストレスチェックを受けたからストレスが軽減される、と言うことではありませんが、自分の状態を知ることは出来るでしょう。
そして家庭内で感情労働を担っている場合は、自分で自分のケアをする方法を知っておくと良いでしょう。
下記サイトが参考になりますので、お時間があるときにお試しください。
こころの耳(厚生労働省)『eラーニングで学ぶ「15分でわかるセルフケア」』
ワークライフバランス
ワークライフバランスとは、仕事(家事やプライベート以外)と私生活のバランスが取れているか、というものです。
感情労働によって負荷がかかりストレスを感じているとき、ワークライフバランスも崩れていないか振り返ってみましょう。
このとき「ライフ」は家に限定されません。自分自身の目標、夢、趣味なども含まれます。
もしバランスがとれていないと思ったら、以下の点を見直してみてください。
- 仕事の優先順位の確認
- 休息とリラックスの時間確保
- 自分の本当の感情の解放
- 他者からのサポートを求める
- 感情労働時間の見直し
- 睡眠、食事、運動の見直し
- 自分自身とそれ以外との境界線の見直し
- 感情労働しない休日の有無
自分だけでこれらを変更・改善することは難しいでしょう。
その時は第三者のほうが家族や友人より頼りやすいかもしれません。
公的機関や専門家を活用しましょう。
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けいぜん庵コラム『ケアラーのセルフケアを考える』
今すぐ出来る対策 3選
オンとオフのメリハリをつける
運動する・しない、のような体を使うことは切り返しやすいですが、感情は心の問題なのできっぱりと線引きすることが難しいです。
ですから、尚更行動や道具を活用しましょう。
- デジタルデトックス
- 「オン」で対応する人とは会わない
- 休日は仕事関係の連絡には答えない
など、線引き出来る方法を考えましょう。
自分の時間を作る
オンオフの線引きが出来たら、自分の時間を作りましょう。
感情労働者の辛さの原因の一つに、「自分自身の感情を表に出せない」があります。
オン状態で押さえ続けてきた自分本来の感情を素直に表現出来る時間にするのです。
笑う、怒る、泣く、楽しむ。
心に湧いてきた感情そのままでいられる時間を作りましょう。
相談相手を作る
感情は、表に出さなければ他者は気づきません。だからつい我慢してしまいます。
感情労働を行う仕事や役割を引き受ける人は、元来誰かに役に立つことに価値を置く愛他的な人が多いです。優しいのです。
優しい人はやり方を間違えると自分をいじめます。
立場上感情を表に出せないなら、出してもいい相手に自分の葛藤を相談しましょう。
同じ職場の上司、同じようなケアラー(育児、介護、看護)をしている人、またはセラピストやカウンセラーに、出来れば継続して相談しましょう。
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まとめ
感情労働は今後ますます増えていくでしょう。
それは需要があるからです。
他者に自分の立場になって共感してもらえたり、自分の主張を受け入れてもらえる体験は、それだけで価値があるからです。
であればなおさら、感情労働をする立場の人はセルフケアを重視しましょう。
自分が十分にケアされていて初めて、他者のケアやサポートが出来るからです。
そして感情は抑えるだけでも発散させるだけでもありません。適切なタイミングと表現、方法で伝達することが出来ます。
セルフケアを充実させ余裕が出来たら、次のステップは「どうすれば相手に伝わるか」を考えてみるのは如何でしょうか。
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