課題の分離と自分の課題

課題の分離と自分の課題

アドラー心理学の中でも特に有名な「課題の分離」
目の前の問題は誰が主となって取り組むべきか、という視点です。
他者の課題を誤認して自分が抱え込んだり、関係者を思い通りに動かそうとしてストレスを感じたり悩んだりしてしまいます。

では、「課題の分離」の視点で、適切に「自分の課題」は何なのか、を見極めるとしたら、どうすればいいでしょうか。

1.誰の課題なのか?

課題を分離しようとするときにネックになるのが、一つは「責任」です。
自分が関係者でいるときに、「他者の課題だから」と距離を取ろうとするとき、「でももしも~~になったらどうしよう」とか、「もしもの時に自分の責任を追及されたらどうしよう」と考えることがあります。
その不安を打ち消すために、領域を踏み越えてしまうのです。

また、「誰の課題か」を検討するときの条件として「役割」もあるでしょう。
親の役割、上司の役割、教師の役割、先輩の役割。
他者の課題だと分かっても、認識している自分の役割上、口を出さざるを得ない、と考えてしまうかもしれません。

他者への「期待」や将来への「不安」も、領域を踏み越えるリスク因子です。
期待することで相手を信頼し任せることが出来れば問題ありませんが、自分の利益を叶えるための「期待」だとすると、干渉することになります。
不安にも同じ影響が考えられます。

2.自分が引き受けるべき課題とは

多くは「他者の課題に踏み込むべきではない」という議論につながる「課題の分離」ですが、実は「自分の課題」を見極められていないために、代替手段として他者の課題に干渉する、というケースもあります。

どう頑張っても上手く行かない問題、というのはよくあると思います。
上手く行かない原因は、実は自分の課題ではないから(他者の課題だから)という理由が考えられます。
リソース(資源)もタイミングも環境も問題ないのに上手く行かない。だとすれば、残るのは自分ですね。自分がやるべきではないのかもしれません。

または本来やるべき課題から目を背けて穴埋めとして他者の課題に口を出している、ということもあり得ます。

例えば、時間を守ることに殊の外うるさい会社の上司がいるとします。誰かが致し方ない理由で3分遅れただけでも大騒ぎします。
しかし自分は忘れ物が多かったりします。
時間を守るのはとても大事なモラルですが、その上司は他人の時間厳守に口を出すよりも、自分の忘れ物の多さにもっと注意を払うべきなのです。

3.自分の課題から逃げない

自分が他者の課題に踏み込んでしまっている場合に、それに気づいて手を引くことは意外と気づきやすいのではないでしょうか。

しかし、「見てみぬふりしている自分の課題を自覚する」ことは、気づいたうえで更に逃げてきた理由とも向き合わなければなりませんから、非常に厄介です。

例えば「やらなければいけないのは分かっているけど出来ない」こと、誰にでもありますよね。
出来ない自分を責めることも多いでしょう。
しかし「自分の課題を引き受ける」ためには、自責はあまり役に立ちません。
必要なのは、「違うアプローチ方法」「誰かに相談すること」「協力してくれる人を探すこと」ではないでしょうか。

また、「A(他者の課題)が終わらなければB(自分の課題)が出来ない」という理由で手を付けていない場合。
なんとかして自分の力でAを終わらせようとしても、それは他者の課題ですから無理がありますし、そもそも手を出してはいけません。
今の状況でも出来る、Bに関するタスクを探して手を付ける、または準備をすることは可能ですし、それは自分がやるべきことです。

4.課題の分離・見極めに必要なものは?

繰り返しになりますが、課題の分離とは「これは誰の課題(その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受ける人)なのか、という視点から、課題を見極める」ことです。
そう考えると、他者に手を貸さない、とか、自己責任、という言葉が浮かんできますが、それもまた違います。
そしてそのように考えてしまうことで、「自分の課題」もまた自覚しづらくなります。

課題の分離をする際に必要なのは、

  • 見守る姿勢
  • 相互理解と信頼
  • 支援と協力はOK
  • 次善策の準備

ではないでしょうか。
自分の課題を自分で引き受ける、けれどそれは他者(または自分)を信頼するからであって、本当に困ったときには相談出来るし助けてもらえる、今のやり方がダメなら別の方法がある。
そうした安心感が、本来受け持つべき人に課題を委ねられるための土台となるのではないでしょうか。

<参考文献>
「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健著 ダイヤモンド社)

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