9月は「障害者雇用支援月間」
毎月何かしらの「〇〇月間」キャンペーンがありますが、9月は「障害者雇用支援月間」です。
(厚生労働省HP https://www.jeed.go.jp/disability/activity/education/index.html)
折角なので、障害者雇用とは何か、を、振り返ってみたいと思います。
1.障害者雇用って何?
と、思われる方も多いと思います。
当事者、そのご家族、障害者と一緒に働いている方、その支援者、雇用主、などに該当しなければ縁遠い制度だと思います。
根拠法は「障害者雇用促進法」で、
障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ること
同法 第一条より
を目的としています。
法律に言われるまでもなく、ハンディキャップを持っている人はお仕事に就きづらいです。
でもある部分でハンディをもっていても、別の部分では出来ることが色々あります。
出来る部分をもっとフォーカスし、その人に合った働き方をすることで、社会の一員としての役割を得て、社会に貢献してもらうための法律と制度です。
2.普通の雇用と何が違う?
以下は私の経験上の意見となります。
①仕事の任せ方にコツが必要
特記するようなハンディが無い人が普通にする仕事も、障害者にとっては思わぬところでストップがかかります。
例えば入社したてですぐ任される「電話番」。
聴覚障害のある方は勿論、不安障害や発達障害等の場合も、見知らぬ人から突然かかってくる電話に適宜対応する、ということは相当ハードルの高い業務です。
まずは「出来ること」「出来ないこと」「どんな補助があれば出来るのか」「出来ないことをした場合どうなるのか」を、本人と職場の双方が理解しておく必要があります。
②賃金が安い
これは一般企業での障害者枠雇用だけでなく、就労継続A・Bも含めての問題だと思います。
両親と同居、障害年金も受給していることを前提としているかのような賃金体系です。
正規雇用も少ないです。企業によってはパート・アルバイト採用⇒一定期間(半年~〇年)続いたら正社員雇用へ転換、という制度をとっている会社もありますが、やはりこれも数が少ないです。
20代で、これから結婚や家族を持とうと思っている人は、一人前の収入が得られないことで夢をあきらめることもあるでしょう(これは障害者に限らず今の日本全体の問題でもありますね)。
③職種・業種が限定され気味
一部、プログラミング等の高いスキルを活かして就労している方もいますが、おそらくそれは都心に通勤できる一部の方に限られるでしょう。
少し地方に行くと、ほとんどが農業や手作業系です。
そうした業務でスキルを伸ばしたい方ならぴったりですが、事務系職種に興味があったり、障害を持つ前(うつ病になる前など)に事務系職種についていたので、復帰のために同職種を希望しても、そもそも募集が少なく、狭き門であることが多いです。
3.なぜ「月間」キャンペーンをするのか?
厚生労働省HPには
企業の障害者雇用及び職場定着を進めるため、雇用管理や職場環境の整備などを改善・工夫し、様々な取組を行っている事業所の中から他の事業所のモデルとなる好事例を募集し、広く一般に周知しています。
厚生労働省
と書かれていました。
もっと雇用を増やして欲しくて、対企業向けに行ってるんですね。
前向きに障害者雇用を検討しながら、社内にある障壁をクリアできずに悩んでいる、というなら、「障害者雇用職場改善好事例募集」も役に立つでしょうが、果たしてそれだけでしょうか。
そして、雇用主(つまり社長・経営者)が必要性を理解しても、現場に理解が及ばない場合、しわ寄せは最終的に雇用された障害者が負うことになります。
対企業ではなく、もっと広く「対社会」としてできることを増やしたいですよね。
4.「就労」よりも「定着」が難しい
数年前に正式に制度として「就労定着支援」が盛り込まれましたが、実際に、同じ職場に長く働き続けることのほうが、採用⇒入職するよりずっと難しいと思います。
本人は長く働きたいと思っています。ここがダメなら他があるさ、と思えない状況なのは、障害者本人が一番理解しています。
しかし分かっていても続けるためにはたくさんハードルが現れます。
- 生活リズムが安定しないため、欠勤・遅刻しがちになる。
- 就労時間の間集中力や体力が持たない。
- 「普通は~~でしょ」的な周囲の空気に押し負ける
- プライベートで問題が起きた時に切り替えが出来ないので仕事にも影響が出やすい
- 他の社員(障害者でない人)と自分を比べ(過ぎ)て落ち込む⇒続けても意味が無いと思ってしまう
など。
障害の種別(身体・知的・発達・精神・内部)によっても色々です。
配慮が必要だけど、配慮する側にも努力に限度がある。
両者の折り合いがつかなくなり、退職、という流れも、残念ながら普通の労働者より多いでしょう。
5.それでも障害者が働いたほうがいい理由
これも私見ですし、理想論と言われてしまうかもしれません。
①自分の役割を得ることが出来る
(社会的)役割とは、社会の中でその人が果たす一定パターンの行為や行動のことです。
それによって他者から「期待」され、自分が社会にとって有用な存在であると認識でき、自己肯定感や自信につながり、他者に貢献したり、感謝したりといった相互交流が生まれます。
②リカバリーの実現
リカバリーとは、単純に「欠点・欠損」を補うことではなく、本人が主体となり、自分の人生を選択して決定し、人としての当たり前の権利を守りながら自立することです。
働いて収入を得る、ということは、私達にとっては当たり前かもしれませんが、その当たり前を出来るようになり、自分の力で生きていけるんだ、と実感することは、とても大きな意味を与えてくれます。
③お互い様
私も使いますが、「健常者」という言葉も「障害者」という言葉も好きではありません。ただ便利なので(文章にすると分かりづらく長ったらしい)使っています。
何をもって「健康」で「通常」なのか、何が「障害」なのか、健常者にもいつどこで障害を負うリスクがあるか分からないのに、なぜかこの二つがぱっくり分かれている。
交通事故や労働事故、心の病などで今と同様の生活を続けられなくなった「もしもの未来」を生きているのが、目の前の障害者なのです。
自分は関係ない、と思ってしまうと、未来の自分を否定することにもつながります。
「バリアフリー新法」という法律があります。
身体が不自由なひとやベビーカーで移動する人に配慮して、エレベーターやエスカレーターの設置、建物の入り口を広くしたり、スロープや手すりをつけることを推奨・義務付けした法律です。
設置目的は一部の人を対象としていますが、それ以外の人も普通に使っていますよね。
なぜなら便利だから、楽だから。
障害者雇用も、それと同じことだと思います。
働く障害者が職場で配慮を受けることで、それが他の労働者にも広がれば、誰もが働きやすい環境になっていくのではないでしょうか。